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第67話 ぶつかり合い

 ユウヒが自身の首に注射器を突き立て

 一瞬の静寂が場を包む

 正気を失いつつある底無しちゃんですら、何も言葉を発することはなかった

 オメガウイルス

 一度の接種であれだけのことが起こり、二度目の接種で人間を辞める程の力を手に入れるそれの三度目の接種

 これからなにが起こるのか

 それはきっとアカネさんにだって検討はつかないだろう

 カランカランッ

 中身の失くなった注射器が地面に落ちて音を立てる

「ああ、何だ……最初から、こうしていれば良かった」

 静寂を破ったのは、ユウヒだった

 それだけ溢すとくつくつと笑って、失くなった腕を前に向けた

 すると

「っ……!!」

 切断面から出てきた泥々の物で何かが形作られてやがてそれは、腕となった

「これももう、必要ないですね」

 ユウヒは言うが早いかつけていた眼帯も引きちぎるように乱暴に外した

「うん、よく見えますね、それでは……覚悟は出来ていますね、これ以上の手間は流石に省きたいところです、ウミは……四肢を切断して連れて帰るとしますか、ああ、大丈夫ですよ、ちゃんと焼いて止血しますから、他の三人に関してはですが……死んで貰うのが、手っ取り早いでしょう」

 ユウヒは何度か生えてきた手を握ったり開いたりして感覚を確かめた後に、こちらにまた、向けた

「……っ! 底無しちゃん!! 皆を守って!!」

 チリっと肌が熱さと、それ以上に本能的な危険を察知して底無しちゃんに向かって叫ぶ

 アカネさんは勿論だが片足のないトトちゃん、副作用の抜けないソラちゃんでは確実に避けることの出来ない大技が来る

 それを肌でひしひしと感じたからだ

「燃え尽きてください」

 ゴウッ!! と大きな音を立てて天井すらも焼き溶かす爆炎を巻き起こして火柱ががシェルターに広がる

 これは、まずい

 三人を底無しちゃんにお願いしたのは底無しちゃんになら炎を防げる、そう思ったからだ

 だが、これほどの高温で燃える炎を果たして底無しちゃんに防げるのか

 防げたとして底無しちゃんが怪我をするかもしれない

 簡単に底無しちゃんに頼ったことに後悔が押し寄せる

(そんなこと悠長に考えてる場合じゃねーだろ馬鹿姉貴!!)

 襲いかかる炎に呆然と立ち尽くしていれば自分の意思とは関係なく身体が炎を避ける

 おそらく私を殺すわけにはいかないから私のほうにはあまり炎が来ないようにしていたのだろう

 ダイチが足を動かしてくれたお陰で私は炎に飲み込まれることはなかった

 だが、他の人達は

 慌てて皆のほうを振り返るとそこには

 ユウヒを食べようとした時に開いていたものと同じ口を腹部から放出して炎をまるごと飲み込む底無しちゃんの姿があった

 目の前の炎を一口に飲み込むとお腹の口はゆるゆると身体に戻っていく

「さっきも言ったけどー、私の【悪食】はー、何でも食べれるからー、効かない、かも?」

 底無しちゃんは炎を飲み込んだ後も特に何事もなかったかのようにけろっとした様子だったことに一時の安堵を覚える

 しかし、根本的にどうにかなったわけではないことをすぐに思い出してユウヒに向かってサバイバルナイフを構え直す

「……やはり、貴女は少しばかり面倒ですね、そうだ、こうしましょうか、私はこれからそちらの三人のガードが空いた瞬間、先程と同じかそれ以上の出力で攻撃します」

「なっ……」

 ユウヒの突然の宣戦布告に自分の中で怒りの感情が頭を覗かせる

「それが嫌なら、底無し、貴女がずっとそこで守ってあげればいい、その間に私はまずこちらの、弱いほうを最初に片付けます」

 言いながらユウヒは私のほうをねめつけるような瞳で射貫く

 確かに、そうすれ底無しちゃんはそこを動くことが出来ず、私を倒した後であれば微々たる差だとしても動きやすくなることは間違いない

 何よりも私を拘束するという第一の目的が達成させるのだから

「……方法を選ばなくなりましたね、私が動ければ、今すぐ貴女を氷漬けにしたものを」

 未だに顔色の浮かないソラちゃんが確実な敵意をユウヒに向ける

「元々これは殺しあいでしょう、九十パーセントの出力を出したのですからそれは、まだ動けないでしょう、まぁ動けるのであればまた別の方法を選ぶだけですが、はたして動けたところで今の私に勝てるでしょうか」

「くっ……」

 ユウヒの煽るような言葉にソラちゃんが歯をギリッと食い縛る

「さて、それでは大人しく、達磨になってくださいね、貴女には、私の攻撃を受け止める手段すら、ないのですから」

 言いながらユウヒは手元に沢山の炎で出来たリング、沢山の炎のチャクラムを展開する

「ちなみにこの刃はかなりの熱を持っていますから、ナイフで受けようなんてことは考えないほうが身のためですよ」

 独立した炎を円上にして飛ばす、なんて離れ業はすでに身体的特徴の成長の延長なんていうものを通り越しており、それこそ異能、と呼ぶにふさわしい

「おまえ、気に入らないな」

 ふと、私は口を開くと言おうと思ってもいないことを吐き出していた

 ダイチ?

 いきなりのことに驚いて私は心のなかでダイチの名前を呼ぶ

(あいつは気に入らねぇ、だからちょっと弄ってやろうと思って、口だけ借りるからまぁオレの言うことは気にせずに、好きなように動いてくれよ)

 急な提案で、少しだけ迷ったけれど、戦いに集中出来るのであればそれに越したことはない

 分かった、お願い

 私はダイチのしたいようにしてもらうことにしていつ、なにが飛んできてもいいようにサバイバルナイフを構え直した

「気に入らないって、何がですか?」

 ユウヒは怪訝そうに言いながらも攻撃の手を緩めることはなくチャクラムを投げてくる

 私は何とかそれを見て回避することで手一杯でなかなか距離を縮められない

「ウミが弱い、確かにな、大切な人を守りたい、当たり前のことだ、これは元々殺しあい、至極全うなことだと思う、ただ、お前、何大事なとこ隠してんだよ」

 そんななかも私の口は私の意思とは関係なく動き続ける

「……」

 先程までとの私との違いに困惑する様子も見せずただ淡々と、遠距離からチャクラムを投げる

「何が元々殺しあいだ、お前さ、ただ焦ってるだけだろう」

「っ……」

 ここに来て、ユウヒが飛ばすチャクラムに乱れが生じ始めたことに気付く

「このままウミをみすみす逃す、ないしここでお前が死んだとしたらヨハネはさらに苛烈な行動に出るかもしれない、何故ならお前はハイスコアラーだから」

「っ……!」

 遂に、ユウヒはチャクラムを飛ばすのを止めた

 私はこれ幸いにとユウヒとの距離を詰めるために勢いよく踏み出す

「自分で自分の首絞めてるのには気付いてたか? 気付いていたよな、お前頭悪くなさそうだから、それでも行動したのは全て大切なお仲間の今後を思ってですって言いきれるか」

「……さい」

 間合いだ

 私はサバイバルナイフを、ソラちゃんに習った通りに迷いなく頭にめがけて振り抜く

 しかしそれはギリギリのところで避けられてしまう

「違うよなぁ、分かるぞ、オレには、お前は、認めて貰いたいんだろう」

「うるさい」

 返す刃でもう一度頭部に向かって刃を振るう

 早く、決めなければユウヒの発している熱で私が最初にダウンすることになる

 それがじわじわと自分の中で焦りに繋がる

 でも

「どっかの誰かに自分はあなたのためにここまでのことをしましたよ、こんな功績を残しましたよ、だから私を見てくださいって!!」

「五月蝿いっ!!」

 焦っていたのは私だけではなかった

 口では貶しながら、必要に頭を狙う私に怒りが頂点に達したのかユウヒは避けるのを止めて私のナイフの刃先を手でしっかりと握って止めると思い切り怒鳴った

 ヤバい、先端が、溶かされれば私の武器は鉄パイプと弾数の少ない銃だけになってしまう

 しかし、ナイフが溶ける様子はなく

「……どれだけやったって見て貰えない……そんなこと、私が一番よく分かっています」

 どくんと心臓が鳴る

 蚊の泣くような声で絞り出されたそれはおそらく私にしか届いていないくて

 一瞬泣きそうな顔をしてから、私の頭に手をかざした

 燃やされる、そう、思った瞬間だった

「ウミさん!! 下がってください!!」

 ソラちゃんの怒鳴り声に私は慌てて握られたサバイバルナイフを引き抜きそのまま思い切り後ろに飛んだ

 それを合図に

「っ……赤燐焦土!」

「白冷夜行100パーセント!!」

 二人がほとんど同時に異能を発動する

 対極の異能がぶつかり合い、異能の押し合いに勝ったのは

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