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第68話 誰が止めをさすのか


 全力の異能のぶつかり合いで起きた煙が晴れてきて、目に映ったのはシェルター全面を覆う沢山の氷だった

「ソラちゃんの、異能が勝った……」

 私は目の前で身体中いたるところを凍らせて地面に這いつくばるユウヒを見ながら何とか立ち上がる

 このまま地面にお尻をつけていれば私まで凍りついてしまいそうだったからだ

 まぁ、立ち上がったところで寒くて身体がガチガチと震えることに代わりはないのだが

 ただ言えることがあるとすれば私が今まで体験したどんな冬よりもただただ、寒かったのは確かだ

「……なんっで、いつの間に回復して、そもそもあなたの異能を百パーセント引き出したとしてこれだけのオメガウイルスを投与した私の異能が負けるわけっ……そもそも貴女の分泌液に私はかかっていない筈……もしかして……」

 ユウヒは立ち上がろうと踠くが身体に力が入らないのか地面でもぞもぞとうごめくだけでソラちゃんのほうを見ながら困惑の声をあげる

 恐らくだが、ユウヒにはもう氷から出ることが出来ない程に、異能を使うだけの力が残ってはいないのだろう

「動けるようになったのは、少し前のことです、それからはダイチさんがあなたを煽っていたのであなたの感情がぶれた時に合わせて発動させました、この一撃で仕留め損ねればと、何せ百パーセントですから、これを使えば私は暫く動けません、それこそ九十パーセントとは比べ物にならない程に」

 ソラちゃんのその言葉に振り替えればソラちゃんは壁に背中を預けて力無さげに首をもたげていた

「ソラちゃん!!」

 私は慌てて駆け寄ると着ていた上着をソラちゃんに羽織らせる

 ソラちゃんがゾンビだから痛くもないとか、寒さも感じないとか、色々と言っていた気がするがはっきり言ってそんなことどうでもいいしそもそもそういう問題ではないのだ

 ソラちゃんは暫くそんなことを言っていたが私が止める気がないと悟ったのかユウヒとの会話を再開した

「そして、ご明察の通りです、私は……ヨハネによる改造こそ受けていませんが、共食いをしていました、それも数体とかそういう次元ではない、だから私の異能はあなたの異能と競り合い、そして打ち勝つに至ったわけです」

 共食い、という言葉に嫌でも反応しそうになるが何とかそれを飲み下す

「なんで、そこまで……」

「……大切な人を、守りたかったから、ですかね」

 ソラちゃんの言葉を聞いて、ユウヒはそれ以上何かを言うことはないしなかった

 きっと理由が、自分と同じだったから

 理解出来たんだと、そう思う

「さて、これからが問題です、ウミさん」

 ソラちゃんはユウヒが黙るのを見届けてから今度は私の名前を呼んだ

「な、何?」

「周りを見ていただければ分かると思いますが……」

「ああ……」

 私はソラちゃんの言葉に周りを見渡す

 赤燐焦土の時に地獄絵図と例えたと思う

 しかし、燃えていた炎ごとシェルターの見えるところ全てを凍らせて、全員が凍えている、特にゾンビ陣、底無しちゃんはさっきまでの元気は消えてぐったりしてるしトトちゃんもほぼ同じ状態

 人間陣である私とアカネさんですら長時間ここにいるのは無理だと自ずと悟る寒さでこれはこれでまた地獄絵図である

「見ての通り私の異能で底無しも、トトも動けません、ですから、あなたが止めをさしてください」

「えっ……」

 ソラちゃんの言葉につい私は震えた声を漏らしてしまう

「今のうちに、ユウヒに止めをささなければいけません、まぁ、オメガウイルスの過剰摂取と現状からすればこのまま頬っておいても自体は変わらない気がしますが徹底するに越したことはない、やり方は、教えましたね、頭を、ナイフで割ればいい」

「ナイフで……」

 手に持っていたナイフに視線を落とすと手がカタカタと小刻みに振るえていた

 さっきまでは、戦えた

 それなのに何故今これだけの拒否反応が出るのか、それは

「……まさか、また何か考えているのですか? 今しがたこの場にいる全員が殺されそうになったというのに」

「そう、なんだけど……」

 どれだけやったって見て貰えない……そんなこと、私が一番よく分かっています

 ユウヒがぽつりと、誰に言うでもなく呟いたその言葉がどうしても頭から離れてくれなかったからだ

「何か、思うところがあるんですね、あなたの良いところかもしれませんが、それは同時に悪い場所でもありますよ本当に」

「ご、ごめん……」

 それは、自分でもよく分かっている

 いつだって、最後の決断が出来ない

(オレがやろうか?)

 ダイチの提案に私は頭を横に振る

 これ以上ダイチの手を血に染めたくはない

 それぐらいなら、私がやらなければいけない

 ぐっと自分の意思を固めるために強くサバイバルナイフを握った時だった

 肩に、優しく手が置かれた

 そちらを見ればアカネさんが立っていて

「まぁ、そう揉めるんじゃない、ウミちゃん、ナイフをこちらに、最後は私がしよう、私は何も役に立っていないし何よりも、私が蒔いた火種から飛び火したことなのに子どもにわざわざ人を殺させるのは、忍びないからね」

「……お願いします」

 私はその言葉に甘えて、ナイフをアカネさんに渡した

 また、自分で決断出来なかった劣等感を覚えながら

「……はっ、アカネ博士、トトにはあんなことを言っておきながら、私は殺すんですね」

 アカネさんがユウヒの前まで行くとユウヒはさもおかしそうに笑いながらアカネさんに視線だけ向ける

「ああ、ごめん、私のことは、赦さないでいいから」

 アカネさんはそれでも迷うことなく、メガネを一度中指で押し上げてから、ナイフを構える

「……さっき、言われた通りです、私が死ねばよりヨハネ博士は躍起になるでしょう、しかし、それを止める手だてがもうひとつだけあることをご存じですか?」

「それは……っ! まさか!」

 急に話し出したユウヒの言葉に振り下ろそうとしていた手が止まる

「そう、ウミを殺せばいい、ウミが死ねば、躍起になってウミを捕まえようとすることもなく、また、昔みたいに、ただ人を助けて、研究の役にたちそうなものを探せばいいだけの生活に、もど、れる、から……」

「全員逃げるぞ!! 早く!!」

 アカネさんは踵を返して私達のほうへと戻ってくる

 その瞬間、部屋の外で大きな爆発音が鳴り響いた

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