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第69話 残されたほうの思い

「一体……何が!?」

 私は揺れるシェルターのなか何とか転けないように壁に手をつくがあまりの冷たさにすぐに手を引っ込める

「ユウヒが恐らくだが何かを仕掛けていたようだ、このままだと皆、生き埋めになる」

 アカネさんは私にサバイバルナイフを返すと手近にあったパソコンから何かを引き抜きポケットへとしまう

「ふふっ、ここに来る途中で私の油をしっかりと染み込ませて来ましたから、一つの発火剤で簡単にこのシェルターは炎の海になります、勿論入り口からここに来るまで全てにですから、どうやって逃げるんですかね」

 ユウヒは自嘲的な笑いを溢しながら楽しそうに言葉を吐き出す

「……だから堂々と入り口から入ってきたのか、だが残念だ、このシェルターには非常通路がある、そこを使って脱出する」

 だがアカネさんはそんなユウヒの言葉にただ粛々にそう返してポケットから出した鍵を見せるだけだった

「……まぁ、そんなことだろうと思ってましたよ」

 あれ程いろいろなことを考えているユウヒに限って別の通路の可能性を考えていないなんてことはないだろうと私にだって分かることだ

 分かっていた上で、ただ、言っただけなのだろう

 自暴自棄なのかはたまた、なんなのかそれは、私には分からない

 きっと聞いたところでユウヒは答えてくれないだろう

「さあ! 早く脱出しなければ――」

 アカネさんすっかりボロボロになった本棚から一冊の本を取り出すとひっくり返してまた差し込む

 そうすればギイッと音を立てて本棚が開きドアが出現する

 鍵を差し込んで回すとそのまま扉を開けたアカネさんを私は慌てて止める

「ま、待ってください! 今動けるのは私とアカネさんの二人だけです! 動けないのはソラちゃんとトトちゃんと底無しちゃん……どうやって三人も連れていけばっ……」

 そう、動けるのは二人しかいないのに現状動けない人物は三人いる

 私もアカネさんもゾンビではない上にそこまで力のあるほうではない、どちらかというと非力な分類にカテゴライズされるだろう

 どうやって三人を連れて出るのか、それだけが問題として残っている

「くっ、私はあまり力のあるほうではないが、ウミちゃん、さっきの状態なら二人、運べないか?」

 こめかみに手を当てながらアカネさんが提案してくる

「それは……」

(あー、悪い無理かも、ぎりぎりまでリミッター外してたからこれ以上やると今度はウミの身体が持たない)

「ごめんなさい、私も限界だったみたいで、さっき程の力はもう……」

 答えは私が聞くまでもなくダイチから返ってきた

 確かにすでに身体の色々なところが限界を迎えたように痛み始めている

「そうか……いや、いいんだ」

「それなら私を――」

「僕を置いていけばいい」

 どうするか、必死で考えているアカネさんに我先にと声をあげたのは勿論ソラちゃんだった

 だがソラちゃんが最後まで言うより先にトトちゃんがその言葉を遮った

「……トト?」

 アカネさんは驚いた様子でトトちゃんのほうを向く

「底無しとソラを連れて四人で出ればいいって言ってるの」

 そんなアカネさんを見ても特に表情を返変えることなくつっけんどんに言ってのける

「そんなことっ、出来るわけないだろう!」

 アカネさんは言いながらトトちゃんの肩に手をかける

「何で? そもそも僕は、ずっとロロと二人で生きてきて、僕はロロが大好きだったから全てがロロとお揃いじゃないと嫌で、ロロが髪の毛を伸ばせば僕だって髪の毛を伸ばしたし、ロロがフリフリの服を着れば僕だって真似してフリフリの服を着た、口調も真似て、僕の中ではロロが全てだった、全てだったのに……」

 そこまで言ってトトちゃんはぐっと唇を噛んで目を伏せる

「トトちゃん……」

 彼達双子の結末は、私達とソラちゃんが一番よく知っている

 その場に居合わせただけじゃない

 その結末に向かう引き金を引いたのが私とダイチだからだ

「いつ、僕は間違えたんだろう、きっと適合率が僕だけ高くて、ロロとお揃いじゃなかったところから全て間違えてたんだよ、ずっと一緒、ずっとお揃いだった、双子で、唯一の家族だったのに僕だけ選ばれて、調子に乗った、調子に乗っていたところで散々痛い目にあわされて、上には上がいることを知って、焦ったし混乱した、そして僕は……ロロと一つになる道を選んだ」

「……」

 トトちゃんの懺悔のようなそれに誰も何も返すことが出来ない

 トトちゃんはロロちゃんと一つになる道を選び、ロロちゃんはそれを、何の躊躇いもなく受け入れた

「でもそれも間違いだったんだ……ロロのいない世界に意味はない、僕だけ生きてたってダメで、そんなことも分からずに僕はロロを殺しただけだった、だからロロの元に帰りたい、きっとロロだってそれを望んでる、自分を殺した僕が死ぬことを――」

「それは違うぞ」

 トトの言葉を遮ったのは私だった

 正確に言えば私、ではなくダイチだ

「……えっ」

 止められることを予期していなかったのかトトちゃんは少し驚いた様子で顔を上げた

「いいかよく聞けよ、何があろうと、例えそいつに殺されたとしても、たった一人の家族に……兄弟に死んでほしいなんて思うやつは絶対にいない、お前は生きてるんだ、ちゃんと、そいつの分まで生きないといけない、そいつが出来なかったことまで全部お前が経験しないといけない、そんなこともせずに自分と同じところに来ることを望んじゃいない、だから、全員でここを出るんだ」

(ってことで、悪いけど一度身体の全権をオレに預けてくれないか? ウミにはこれ以上リミッターを解除した状態の身体を渡すわけにはいかないがオレならリミッターの切り替えで何とか使い物にならなくなる前に外に出られる筈だ、嫌だとは思うけど――)

 ダイチは私の口を使ってトトちゃんにそれだけ伝えると今度は私に問いかけてくる

 嫌なわけないでしょ

 大丈夫、信じてるから、申し訳ないけど、お願いしてもいいかな?

(……勿論!)

「よし、オレがちび二人抱えるからアカネはソラに肩貸してやれ」

 私はダイチの放ったその言葉を最後にゆっくりと意識を手放していった

 ダイチの放ったその言葉は、ダイチの本心は、奇しくも私の心を少しだけ、軽くしてくれた

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