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第108話 新しい武器

「それだけは……抜かせたくなかったんだがな……面倒なことになった、でもその刀はなんだ……? そんな刀身だったか? 確か、そんな蒼くなかったと思うんだけどな……」

 ヤマトさんは刀を抜かれたことを心底嫌そうにしながらもソラちゃんの新しくなった刀を訝しそうに見て聞いてくる

「それをわざわざ私が説明するとでも思いますか?」

 だがソラちゃんはそれだけ言って少しもヤマトさんへの警戒を解くことはしない

 いくら刀を抜いたとはいえ一瞬でも気を抜けばすぐにヤマトさんのペースに飲み込まれる

 それはここまで戦ってきてよく分かる

 だからこそ、誰も気を抜けない

「いや、しないな、嘘を織り混ぜてブラフを張るタイプでもないだろうし、まぁとりあえずは……異能が発動される前に速攻で決めるにこしたことはないな!」

 ヤマトさんは自分のなかで結論を決めると言うが早いか地面を蹴った

「……いや、まずいか」

 それからソラちゃんと対敵する一瞬、ヤマトさんはぼそりと呟きながら攻撃することなく後ろに身を引く

「あなたが前傾姿勢ではなく後ろに引くなんて珍しい、ですね……!」

 だが後ろに引いたヤマトさんを追う形でソラちゃんは前に前進して刀を振るう

「白冷夜行のカバー範囲内に入るのはまずいと判断したまでだ、100パーセントで発動されて両方動けなくなってからウミが止めを刺す、なんてことされればあたしには勝ち目も何もないからな」

 ヤマトさんは自身に向かって正確に振るわれる刃をしっかりと目で見て対応して避けながら説明する

 確かに、ソラちゃんが動けなくなっても私が動ければヤマトさんは倒せるかもしれない

 だがそれはしない

 何故ならこれは総力戦であり私達はヤマトさんを倒せば勝ちではない

 その後にこの建物のなかにいるはずのヨハネさんと決着をつけなければいけないのだ

 それが今回の勝利条件なのだから

「……んー、さすがにおかしいか」

 ヤマトさんはソラちゃんの大振りの一撃を大きく避けると距離を取って考えるように顎に手を添える

「何がですか?」

「お前の異能、白冷夜行は使用後に一定のクールダウンが必要になる、だからこそ基本は自身の力だけで刀をメインに戦っていた」

「……」

 ソラちゃんはヤマトさんの次の行動を待ちながら言葉に何も返さない

 それはヤマトさんの言うそれが事実だからだろう

 私がソラちゃんの異能を初めて見た時も窮地に立たされたときだった

「だがあたし相手に刀を抜けたところで異能を使わなければじり貧なのはさすがに分かるだろ、それなのに何故異能を使わないんだ? さっきだって刀に飛沫を乗せれば余裕で攻撃範囲内だったはず、いやそもそもお前の異能が発動すれば周りが冷気に包まれるのにそれもない……」

 今の攻防の間もヤマトさんはこれだけのことを考える余裕があったのかと思うと少し背筋が寒くなる

 この人は、まだ本気すら出していないのではないかと思わせる程に

「何も考えないで戦っているように見えてじつはずっと何かを考えながら戦っている、そういうところが昔から苦手でしたよ」

 そんなヤマトさんにソラちゃんは苦々しげに吐き捨てる

 ヤマトさんはそんなソラちゃんにただ苦笑いを浮かべて言葉を続ける

「……お前はあたしをディスらせたら右に出るものはいないな、まぁ、そんなことどうだっていいが、考えられる可能性は三つ、一つ、共食いないしはアカネ博士の研究の成果で異能の性質が変わった、一つ、何か理由があって異能を使うわけにはいかない、そして最後の一つ、異能の本質は変わっていないが何か、アカネ博士の開発した道具でそれを抑制している……例えばその刀とか、な、あたし的にはその可能性が一番高いと踏んでるわけだがどうだ?」

 どくんっと強く心臓が鳴る

 それはヤマトさんの提示した中に現状を言い表す正解の言葉が混ざっていたからだ

 だが私は慌てて取り繕うと何もなかったようにヤマトさんのほうを見る

 だがそれは既に遅くて

「成る程成る程、少なくともこの三つのなかに正解があるわけだ」

 ヤマトさんはしっかりと私を見て、確信してからニヤリと口角をあげる

 やってしまった

 いくらソラちゃんがポーカーフェイスを貫き通しても私が顔に出してしまえば意味がない

 ヤマトさんならそれぐらい考えて言葉を選んでいる可能性だって今回の対敵で予想はついたことなのに

「……ウミさん、それがヤマトの狙いですよ、気を乱しては思う壺です、そもそもまぁ、どれかが正解だったとして、分かったところでどうにも出来ません、ただ、ご自身の身体で確かめればいいことです」

 だがソラちゃんの言葉に私はすぐに正気を取り戻して戦況に集中する

 ソラちゃんはばれても問題ないと言うが選択肢を三つに絞られてしまった時点でこちらが不利になることに変わりはない

 それでもソラちゃんが問題ないと言ったのだから私はそれをただ、信用すればいいだけだ

「……いやー、よく出来たバディじゃないか、全く、心理的なゆさぶりもそんなに聞かないとなると……それもそうだな、それじゃあ、試してみるとするか……」

 パンッ!

 静寂を破るように一発の炸裂音が響く

「っと……危ないな! って冷た……!」

「っ……」

 銃弾が空を裂き、ヤマトさんに被弾する瞬間にまた、ヤマトさんはその銃弾を掴んで止めると慌てて地面に放り捨てる

 ヤマトさんが完全にソラちゃんの刀に視線を移したそのタイミングで私はアカネさんから貰っていた切り札

 冷却作用のある弾丸をヤマトさんに向けて撃った

 気落ちしている私から放たれたそれは確実に相手の奇をてらっていたはずなのに、それすらもヤマトさんは反射で止めてしまう

 だがそれはアカネさんが既に読んでいた未来だ 

「これはアカネ博士が作った武器か? 次から次へと危ないな全く……て、なんか、動きが……」

 ヤマトさんは少しだけ焦った様子で自分の手を確認する

 あれは被弾しなくても外側から強い衝撃を与えればなかに込められた冷却成分が分泌されるようになっている

 一度触れればしばらくはその部分は暫く機能しない

「手の心配なんて、そんな余裕をさらしている暇は、ありませんよ?」

 そしてそれに気を取られた一瞬でソラちゃんはヤマトさんに向かって刀を振るう

 勿論それは今しがた暫く使えなくなった右側の手を狙って

「手が使えなくなったからってなんだってんだ? それがどんな刀かは知らないが、あたしの身体に果たして通るのか試して――っ!!」

 自身の身体の丈夫さに自信を持っているヤマトさんはその刀を自身の身体で受けようとして、当たる一瞬前に回避行動でソラちゃんの刀を避けるとすぐにソラちゃんから距離を取る

「あなたの身体に通るか試すんじゃなかったんですか?」

 空振りした刀をソラちゃんは一閃横に振り払ってヤマトさんに問いかける

「……それ、かなり強い冷気を発してるな、ああ、成る程、やっぱりその刀に仕掛けがあったわけだ」

 ヤマトさんは言いながら立ち上がるとすでに使えるようになったのだろう右手をぐーぱーと開いたり閉じたりして感覚を確認しながら冷静にそう言った

「あなたの野生の感は鋭すぎて……全くもって厄介なこときわまりないですね」

 そんなヤマトさんにソラちゃんは今日何度目かも分からない程に眉間にシワを寄せると苦々しげにそう、呟いた

 そう、ヤマトさんの出した三択のなかの最後の一つが正解だったのだ

 あの刀は、ソラちゃんの壊れた刀の代わりにアカネさんが用意したものだと、私はソラちゃんから聞かされている

 ホシノとの戦いでは最終的に使うことのなかったその刀の力は

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