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第109話 新たな刀

「君の、壊れた刀は確かヨルさんが君に与えたものだったね」

 ユウヒの襲撃から逃れてあたらしいシェルターに移り、ソラちゃんの義手も完成して少し経った頃

 私は用事があるとソラちゃんを私室に呼び出していた

「……はい、記憶が確かならあれは姉の形見だと思っていますが、アカネさんの話が事実ならどうだか」

 私が刀の話を振れば今まで自分の腰にずっとあった筈の刀の塚があるべき場所に手を持っていき、勿論そこには何もなく、何も掴むことなくそのまま腕はするりと落ちる

「どちらにしろ大切なものであったことに変わりはないだろう、よく堪えて最後まで戦ってくれたと思うよ」

 形見だろうと違おうとソラちゃんにとっては大切なものだ

 たとえその大切な相手、ヨルさんがこの世界の崩壊に関わっていようと、それを今後伝えたとして、それは変わらない

 それだけはどうあがいても変わらないのだ

「それは……あのときにはすでに姉の残した形だけのそれよりも、今を共に生きるウミさんのほうが大切な存在になっていたからです、前までの私だったら取り乱してきっと迷惑をかけていた、でもウミさんがいるのにあの場で取り乱すなんて恥ずかしいことは出来ませんから、何よりそれではウミさんを守れない」

 ソラちゃんはそう言いながら優しそうに、まるで愛しい何かに向けるように笑む

 だからこそ

「……人間というのはつくづくいつだって成長していく生き物だな、進むことを自身の意思で止めない限りは、の話だがね」

 ホシノとの最終戦が終われば全てを伝えても問題ないと私を後押ししてくれる

 でもどうしても、成長するということを、彼女や彼女たちも忘れないでいてくれればきっとこんなことにならなかったのにと思ってしまう自分がいて

「そう、ですね……」

 それはきっとソラちゃんにも思うところがあったのだろう

 ソラちゃんの表情が少し陰る

「さて、ということで、大切な武器を失ったわけだ、早急に君にはあたらしいメインウェポンが必要になったわけだが……それは私が用意しよう」

 私は自分で陰鬱な空気を撒き散らしながらもそれを振り払うようにそう言ってパンッと手を叩く

「アカネさんが、ですか?」

 私の言葉にソラちゃんが少し驚いた様子を見せる

「ああ、私がだ、ゾンビイーターの武器だって最初は私の監修だったんだから決して出来ないことではない、何せ私のシェルター兼ラボにはしっかりと材料があるからね」

 私は言いながら手元にあったリモコンのボタンを押す

 そうすれば本棚に偽造された扉が開いてその奥には色々な道具が揃っていた

「……相変わらず用意周到ですね」

「そう簡単に死ぬわけにはいかなかったから、仕方ないね」

 呆れたようにソラちゃんが言うから私は笑ってそう返す

 そう、私はまだ死ねない

 この状況を作った一人の大人としてやるべきことがまだ残っているのだから

「……」

「そこでだ、君は元々その刀を使っていたからこういうすり合わせを私とはしていないだろうが私がゾンビイーター達に用意した武器にはそれぞれその子達が求めた性能を反映していてね、君の場合はどういうものにしたいとか、そういうのはあるかな?」

 思うところがあるのか黙ってしまったソラちゃんに私はまたわざと明るくそう声をかける

 ホシノだったら遠距離に見せかけて奇襲が出来るように、とか、フタバだったら出来る限り目につかないように携帯できるようにとか

 それぞれの意思を組んだうえで道具は用意していた

「私は……刀で戦ってきましたから、刀の形状をしていれば他には求めませんが……」

「いやいや、それでは至極勿体ない、ただの刀であそこまで戦えたんだ、少しギミックを組み込んだだけでも随分と君の力は化けると思うのだけれどね」

 ソラちゃんのあまりにも欲のない言葉に逆に私は自分の意見を押し出してみる

「……逆にギミックが多くても混乱するかもしれませんし」

 だがそれでもソラちゃんは乗り気ではなく、いや、乗り気じゃないというよりはそういうことを考えるのが得意ではないという感じだろう

「まぁ、それは一理あるね、だからとりあえず私なりに考えてみてはあるんだ」

 だからこそすでに何個か案は考えてきておりそれを提案するために簡易的な設計図を何枚か机に並べる

「もう考えてたんですね……」

 驚いた、というよりは少し呆れたようにソラちゃんはそう言って紙面を覗き込む

「これはもう職業病みたいなものさ、まず、君の異能は強力だからこそそれが弱点になっている、なんせ異能のど真ん中にいる君には一番多く冷気があたるのだから」

「そう、ですね」

「君の異能、白冷夜行は平たく言えば身体から冷却機能のある液体を分泌する異能だ、だからそれを一度刀に吸収させる」

 まずは能力の原理とか、そういうところから話を始めてもいいがおそらく通じないしソラちゃんもそこまでは求めていないだろう

 だからこそ必要なところだけかいつまんで話していく

「吸収……ですか?」

 吸収という言葉にソラちゃんは疑問符を浮かべる

「そう、手から分泌させた冷却液を刀や腕に這わせて飛ばすのではなく義手を通じて刀の中に収束させることで、その一振にすべての冷気を乗せることが出来るようになる、そうすれば必要ない時に空間まで凍結させることを抑制も出来る、あれは多数戦には向いているが一対一みたいな場面ではどちらも動きが鈍くなるだけだからね」

 空間を凍結させること自体はあくまでソラちゃんの異能のおまけみたいなものだが、例えばユウヒの時のように多数対一ならばそれも強大な力となるが一対一の場面においてはどちらも動けなくなってよくて痛み分け

 なのであればオンとオフの切り分けが出来ればそれは強みとなる

「なるほど……」

 ソラちゃんも納得したように呟くと紙面の上に指を這わせる

 最初こそあまり乗り気ではなかったようだが少しずつ興味をもってきてくれたようで少し安心する

「そして、刀に収束した冷気はより強く、冷たくなり、攻撃力補正がかかるという算段だ」

 話は聞いてくれる人が乗り気であればある程楽しいもので、私はそこまで言ってたんっと机に手をついた

「……アカネさん、こういうの考えるの好きなんですか?」

「……まぁ、そうだね、何かを作るのは昔から好きだったから、ゾンビイーター達の専属武器の案を練るのは好きだったかな、彼女たちの意思も聞けたしね、ヨハネがそれを引き継いでからはどうやって作っていたのか分からないが」

 だがソラちゃんから少し白々しい目を向けられている気がして中指でメガネを押し上げながらすぐに少し話を反らす

 実際のところヨハネは昔からそういう、変形武器とかに興味のあるような人じゃなかったから今のゾンビイーター達がどういう過程を得て武器を準備しているのかは分からない

「……でもこれだけだと空間凍結を抑えられる代わりにただ刀の一撃を強化しただけになってしまう気がするのですが」

 そして、ソラちゃんの指摘は正しい

 確かにこのままでは周りに影響を及ぼないことで長期間戦える代わりにただひたすらに一撃を強化しただけで終わってしまう 

「ああ、そこについても既に考えてあるんだ、例えばなんだが……その収束した冷気を刀から――」

 だが勿論私はその先も既に考えていて、私は身を乗り出すとさらに説明を続けたのだった

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