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第116話 足りなかったもの

 ああ、そうか

 二人の

 追い詰められて、研究者の真意を知ったうえで変な気を持たずにアカネ博士とトトのやり取りを見ていて、よく分かった

 それは、自分達に圧倒的に足りなかったことだ

 自分とユウヒに足りなかったもの

 それは、きっとこうして話し合うという力が、互いを尊重する心が、足りていなかったんだ

 もし、ユウヒが一人でここに乗り込まなければ、それこそアカネ博士が言ったように自分も一緒に来ていればまた違った未来があったはず

 ユウヒが一言自分にも一緒に来て欲しいと言ってくれれば何かが違ったはずだ

 自分はそれを断ることはなかっただろう

 いや、そもそも自分がユウヒにソラ達の居場所を探ってくれと言われたときに以心伝心で探るなんてことをせずにただ一言、何をする気なのかと、聞けばよかったのだ

 ただ、自分の気持ちを茶化さずに……あなたが心配だと、一緒に行くと、言ってみればよかったのだ

 もっと、もっと前から言えば、ユウヒの気持ちには気付いていたのだからもっとちゃんと、話をしてみればよかった、それだけの話だった

 自分のことが何よりも大切なヤマトとか、地位というものにすがり付いてその先に絶望を見つけて自暴自棄になったシズクとか、ずっと自分が何をするべきなのかすら分かっていなかったソラとだって、ただ一言声をかけて、話をしてみればよかったのかもしれない

 そう思えば存外自分も面倒なほどに拗らせていたのだと笑ってしまう

「……何を笑ってるんだ?」

 自分が笑ったのがただの侮辱だと思ったのかトトは少し腹立たしげにそう言う

「いや、ね……少しだけ、見てて羨ましかったんですね、そういう言い合える関係っていうのが」

 だから自分はただ正直に今の気持ちを伝える

「……」

 それを聞いて、トトは何も言うことなくただ続きを待ってくれる

「自分ももう少し早く気付いていれば、また違った未来があったのか、なんてがらにもなく思ったりして……」

 言いながらあまりにも滑稽なことを言っていると自分でもよく分かる

 だってもう、全てが遅いのに

「今からでも遅くないだろ、もう進めてる、気付いたなら……僕もロロを失ってから気付いたんだから」

 トトのその一言に、軽く息を飲む

 だってそうだ

 トトはロロを失ってなお前進することをやめていない

 自分も、ユウヒを失ったがその意味に気付いた時点ですでに少し前に進めているのか

「……まぁ、そうかもしれないけど、いや、そうなんだろうけど、自分はあなた達を倒さないといけないので、考えるにしてもその後ですねー」

 自分は言いながら動きづらい身体を何とか動かしてみる

「……」

 それを見てトトも斧をしっかりと構え直した

「ああ、勘違いしないでくださいね、今までしてきたのは実際全て八つ当たり、それは間違いない事実です、ただ、自分が享受できなかった幸せを掴んだものを妬んで、自分が守れなかった唯一の自分のなかの光を奪われて、それでただ喋ることすら叶わない幼子みたいに叫んで、喚いて、駄々を踏んでいただけです」

 だから自分は今までのことを全て説明して見せる

「……それで、そのことに気付いたお前は、どうするんだ?」

 聞き返してくるトトに自分は柔らかく、笑んでから、口を開く

「簡単なことですよ、ここからはちゃんと、自分に与えられた役目のために戦うって言ってるんです、皆がちゃんとしていたように、ゾンビイーターのハイスコアラーの一人、フーカとして……あなた達を倒します、そうして外に残してきたゾンビイーター達の救援に向かう、自分ももう、コドモじゃなくて……オトナなんで」

 そう、いくら身体が小さくても、それはただ身体が成長していないだけ

 それを笠に着て自分はコドモだコドモだなんて喚くのはそれこそ本当にコドモのすること

 ゾンビイーターとして戦場に立つようになった時点で、自分はすでにオトナだったのに、それを認めようとしなかっただけ

「……心意気は買うが、その身体で、どうやって?」

「自分これでもハイスコアラーですよ? この程度で遅れを取るようなことはしませんよー、以心伝心、傀儡」

 ただ不思議そうに聞き返してくるトトの前で技を発動させる

 身体から紡がれた糸は決して攻撃用じゃない

 その糸達は自分の四肢にぐるぐると纏わりついていき、動きづらかった身体がしっかりと立ち上がる

「っ……何で動け……そうか、自身の粘糸で自分の身体を操って……」

 アカネ博士は一瞬驚いた様子を見せはしたもののすぐにこの技の効果を理解したようだった

 そう、この技は上手く動かせない手や足を傀儡にして無理やり動かさせるものだ

「自分こう見えて色々な技とか考えてたんですよ、技に名前までつけてますし、ほら、以心伝心って結構想像力で補う部分が多い能力ですから、まぁ暇潰しに丁度よかったというか……まぁそれが今になって役に立ってるんだから人生何があるか分かりませんね、これもまぁ実戦で使うのは初めてなので上手くいくかは分かりませんが、やってみないと始まりませんからねー」

 元々は多数戦がある時が来れば倒された遺体をこの力で操れるんじゃないか、とかそういう考えから作った技だがそれを実際に使うことは結果としては一度もなかった

 それでもこんなことがあるから作っておいてよかったと思うのだ

「……前に進めたってのはいいことなんだろうが、この状況で覚醒されるこっちの見にもなってくれよ」

「そう言う割には、嬉しそうだよねー」

 やってられないというように頭をかきながらトトがぼやくがその割にはどこか嬉しそうで

「そう、見えるか……まぁ、実際に思うところはあるからな……!」

 それを指摘すればははっと、笑って、それから覚悟を決めたようにトトは自分に向かって斧を構えて駆け出した

 それにあわせて自分も傀儡化した身体を動かして糸を構える

 負けられない理由が、増えたのだから

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