「は、はぁ……は……」
ソラちゃんの刀をヤマトさんか弾き、一度距離が出来たところで私は大きく息を整える
「ウミさん、大丈夫ですか……?」
一方で横にいるソラちゃんは少しも息を切らした様子もなく心配そうに私に聞いてくるから
「う、うん……大丈夫だよ」
顎を伝う汗を拭いながらまた、銃を構える
またすぐにでもヤマトさんが攻撃を仕掛けてくるかもしれないからだ
「やはり少し下がって休憩を……」
「ううん、大丈夫、私も戦える」
私はソラちゃんの言葉をすぐに拒否する
皆が戦っているこのなかで、私だけ休憩なんてできるはずがない
「いやー、そうは見えないけどな、やっぱり、あたし達さゾンビだから体力無限だけど、あんたは人間だからそうもいかないよな、お言葉に甘えて少し休ませてもらったらどうだ?」
ヤマトさんは余裕綽々といった様子でそう提案してくる
「……あなたがハーフタイムをくれると言うなら考えなくもないけど、そんな気は……」
「ま、あるわけないよな」
言いながらヤマトさんはいつでも攻撃が出来るのだ、というようにわざわざ掌に玉を数個取り出して転がして見せる
ソラちゃんが刀を抜いて、アカネさんが立てた緻密な作戦をちゃんと行使してヤマトさんの右腕を奪った
その時点でこちらがかなり優位に立った、はずだった
それなのになおこちらが押されていると言っても過言ではない程の善戦をヤマトさんは一人で繰り広げていた
ソラちゃんの刀に対応しながら私の銃にもちゃんと気を配っているせいでこちらも球数の関係から乱発することは出来ない
そのせいで思っているよりも長期戦となりこの場でただ一人の人間である私はダイチの力を借りて適時リミッターを外すという体力温存をしていてもなお疲労を隠せなくなってきていた
「……といっても、このままずっと一進一退を続けるのもあたし的には面倒くさいことこの上ないんだよな」
ヤマトさんは言いながら心底めんどくさそうに地面を少し蹴る
「それは、私も同意見です、私達はあなたを倒した後にすぐに研究所のなかも攻略しないといけないわけですから……ここでウミさんの体力を全て削られるのも都合が悪い……ですので」
「え、そ、ソラちゃん……!?」
ソラちゃんもそれに同調しながら私を後ろに生えている木のほうへと押しやる
「申し訳ないのですが、あなたは少し休憩していてください」
そして振り替えると笑顔でソラちゃんはそう言った
「だ、だからそんなわけには……って身体が……」
(せっかくなんだから休ませてもらえよ、体力無限のゾンビバトルに人間が付き合っていればすぐにガス欠だ、それにその銃の弾道も通らないならお前に出来ることはねーだろ)
勿論そんなわけにはいかないとすぐに前に出ようとしたが身体が動かず、頭のなかにダイチの声が響く
確かに、いくら身体のリミッターを外したところでそれはゾンビイーター、さらに言えばハイスコアラーには遠く及ばない
疲労していれば尚更に
ソラちゃんはあえて言葉にしなかったのだろうがダイチから率直に言葉にしてそれを伝えられれば流石の私でもこれ以上前に出ようとは思わなかった
そもそも少し考えれば分かることだ
だがそれを考える思考も残っていないほどに消耗していたということだろう
「……ダイチさんですかね、丁度いいですからそのまま動かないようにしといてください、ここから後ろには……攻撃は一切通しません」
「任された」
私が動かないことでほっとした様子のソラちゃんの呼び掛けにダイチが答える
「はっ! 言ってくれるじゃねーか! 確かにあたしは片手を失っているがそれでも二人相手にここまで引っ張ってるんだぜ? それともまだ隠し球があるってか? ……っ」
「随分と、みっともないことをするようになったじゃないですか、不意打ちなんて……存外あなたも焦っているのでは?」
ヤマトさんが話しながら自然に投げた球体は私に届く前にソラちゃんによって真っ二つに切り落とされる
そしてソラちゃんがそのことを煽る
いや、そういうのが得意ではないソラちゃんのことだから普通に怒っているだけかもしれないが
「焦ってるわけじゃないさ、普段となんも変わらない、あたしは別にいつだって自分のことで精一杯で、自分が死なないようにいつだって動いてる、だから不意打ちだろうとなんだろうと、お前達を倒せるならそれで構わない」
だがそんなソラちゃんの言葉に一切ぶれることなくヤマトさんはそう返す
「……なるほど、あなたは一貫していますねいつだって、だからこそ……やりずらくて叶わない……つかぬことをお聞きしますがあなたの愛犬は一体どこに置いてきたんですか?」
ソラちゃんは心底嫌そうにぼやいた後に急に突拍子のないことをヤマトさんに聞く
「どこにって……いつも通り部屋に置いてきたさ、こんな危ないところに連れてくるわけないだろう」
そしてそれにヤマトさんも特に疑問を持った様子もなく普通に答える
「……なるほど、あなたが一貫して自身の命を守るためにそのやり方を変えないのであれば、私もまた……そういう戦法を取らせてもらうことにしますね」
「そういうって……お前は不意打ちとか、そういう卑怯なことはそもそも得意じゃないだろ……そんなそとすれば逆に面倒なことに……」
「ウミさん! 今はダイチさんですかね……まぁどっちでも構いませんが、合図したら預けてるお守り、思いっきり吹いてくださいね、まぁこれも……賭けのひとつですが……」
ヤマトさんの言葉を遮ってソラちゃんが私に向かって叫ぶ
「おま、もり……わ、分かった!」
お守り、と言われればここに来るまでの間に渡されたそれを思い出す
以前フタバちゃんに私がソラちゃんの連れだとバレた時のそれ
確かに近くにその子がいるのであればそれは有効打かもしれない、だがそれ以上にソラちゃんがそういう選択をしたことに驚く自分がいた
普段であればそれは絶対にソラちゃんが取らない行動だったからだ
それだけソラちゃんはこの戦いにおいて覚悟を決めている
それなら私もそれに応えて、私が吹いたのだという事実と共に私もまた共犯者となることに何も拒否感は覚えなかった
「まーたあたしの話は無視か、お前もずっと徹底してるよな、あたしのことが嫌いってところ」
ヤマトさんは呆れたようにそう吐き捨てる
「……別に私はあなたのことが嫌いなわけではないですよ」
だがソラちゃんは心外だというようにそれを否定する
「じゃーなんでこうもまた、邪険に扱う?」
「私は……昔からあなたのそういう一貫した考え方が苦手でした、私にはないそういうことを即決することの出来るその力が」
ソラちゃんは少しだけ考えたあとにそれを言葉にして伝える
「そういうのを、世間一般では嫌いって言うんだよ……」
それを聞いたヤマトさんはまた少し呆れた様子で考えたあとに残った手で頭をかきながらそう伝える
「……そう、なんですね」
伝えられたソラちゃんは一瞬肩をびくりとふるわせて、それから噛み締めるようにそう呟く
「まぁ、あたしは別にお前のことをどう思ってたとか、そういうのはないから……安心しろよ、ま、別に嫌いなやつにどう思われてても問題ないだろうけど、それじゃあ……お互い求めてたガチンコで行こうか! 一意専心……!!」
それからヤマトさんはそれだけ言うと思い切り地面を蹴って大きく飛躍するとまた、その異能を発動させて拳を振り上げた
「っ……白冷夜行、解! ウミさん! 吹いてください!」
ソラちゃんもそれに向かって大きく刀を構えて異能を解放すると私に向かってそう、叫んだ
「わ、分かった!!」
私はその声を合図に首からかけて服のなかにしまっていた犬笛を取り出して思い切り吹く
「っ……何をっ……し、た……って」
「ワンっ!!」
本来人には聞こえないはずのその音にヤマトさんは反応してこちらに視線を向けた
だがすぐに研究所の窓を破って一匹の犬が飛び出してくるとヤマトさんとソラちゃんの間にまるでヤマトさんを庇うように飛び出した
「え……ポチ!?」
瞬間ヤマトさんの拳の力が確実に弱まる
このまま振り切れば、犬にもそれは届くだろう
「……巻き込んで、申し訳ないとは思ってます」
「なるほど、そういう……くそ!」
だがソラちゃんは犬ごと切り伏せる、というようにそのまま刀を振り抜く
「……」
「……どう、なって……」
強い冷気が一面に放出されて目の前が霞む
そして
「あー、たく、本当にどうしようもねー」
目の前の靄が晴れた頃、目に移ったのは刀を振り切ったソラちゃんと大きく凍傷のように凍りついた腹部と頬、そしてソラちゃんの刀で切り飛ばされてすぐに自分でも冷却液に侵食される前に無理やり残りを引きちぎったのであろう左脚の膝から下を失くし、その状態でポチと呼ばれた犬を庇うように抱えたヤマトさんだった
「っ……ヤマト……あなたまさか庇って……」
そしてそんなヤマトさんを目の前で見ていたソラちゃんは、驚いたようにそれだけ、呟いた