一気に放出されたソラちゃんの冷気とヤマトさんの手から放出されていた込められた力による熱気にあてられたのか空からはポツポツと雨が降り始める
「あれ? お前それが狙いだったんじゃないのか? 犬笛なんて吹いといて」
ヴヴヴと唸りながらソラちゃんのほうを睨むゾンビ犬、ポチを優しく撫でながらヤマトさんが起き上がることもせずに意外というようにそう呟く
「……私は、この近くに犬がいるのであればその音に反応して出てくるかと、思って、ゾンビイーター寮の位置はそこまで離れてませんし……それに少しでも気を引き付けられてくれれば、隙になるかと……」
そんなヤマトさんにソラちゃんはつっかえつっかえにそう答える
いくら覚悟を決めていたとはいえまさか目の前に飛び出してくるとは想像していなかったのだろう
「あー、そうしたら驚くことにポチが丁度あたし達の真ん中に飛び出してきちゃったと、それにしては刀に迷いがなかったな、あたしは咄嗟に力抜けちゃったのに」
ヤマトさんは言いきるとなぁポチ? なんて自分の腕のなかにいる犬に話しかける
「……最悪の場合も想定していましたから、もしどうなっても……私はこの刀を止めることはしないと覚悟していました」
ソラちゃんは言いながら強く刀を握りしめる
「そうか……あー、本当に、やっちまったなぁ……まさか犬庇って怪我するとか」
やっちまったと言いながらヤマトさんはそこまで残念そうにしているようには見えなかった
「……自分が一番のあなたなら、犬ごと私に攻撃出来たんじゃないんですか?」
「は? 出来るわけないだろそんなこと、あたしの……あたしの話した目指す未来にはポチがいただろ、あたし一人だったら意味がない、だからといって言葉を喋る人間を連れていきたいわけでもない、何も言わず、何も考えずにただ食い物を漁るだけのゾンビ犬だからこそ、あたしの独り言相手に必要なんだ、だから……あたしがこいつを庇ったのも、あたしの為だ、全部自分のため、何も変わらない」
ソラちゃんのそんな問いかけに心外というように否定の言葉を述べてから、ぶれることのない全てが自分の為だという信念を語る
「……やっぱり、あなたは変わらない、だからこそ何で強化手術なんて受けたのかだけが理解できませんが」
そんなヤマトさんを肯定しながらソラちゃんはそこだけが納得できないというように訝しがる
「もう隠す必要もないか……あたしは、強化手術なんて受けてないし、共食いもしてないぞ」
「……は?」
そんなソラちゃんの言葉にヤマトさんははあっと、一回息をはいてからそう続ける
突然の爆弾発言にソラちゃんが少し間の抜けた声を漏らす
いや、私も普通に驚いたのだけれど
「するわけないだろそんなリスクしかないこと、あたしはただ周りが強化手術をするなか日課の鍛練の量を増やしただけだ、死んだ身体の細胞は強くはならないが……気休めぐらいにはなる、なんならそのお陰で一意専心をより強く使えるようになった、やってみるもんだよなー……まぁ、すごいよ、他のハイスコアラーやゾンビイーター達は、自分の命を燃やして、そこまでして戦えることが、あたしには……結果としては最後までその勇気がなかった、死ぬ勇気ってものが、だから、負けたんだ」
ヤマトさんは言いながらポチを腕で抱えたまま手の甲を自分のおでこにそっと置く
空から降り注ぐその雨は、まるで泣くことすら出来なくなったゾンビ達の涙の代わりのようにすら思えた
「……やはり、変わってないですねあなたは、さっきのあなたの言葉は訂正させてください、きっと私は……別にあなたのことが嫌いだったわけじゃあないと思いますよ、苦手ではありましたが……それから、死ぬ勇気なんてそんなものは勇気とは、呼べませんよ」
ソラちゃんはヤマトさんの言葉を否定しながら刀を背中に背負う鞘にしまう
「ははっ! んだそれ……って、なんで刀締ってるんだよ、殺さないのか?」
吹き出すように少し笑った後にヤマトさんは怪訝そうにそう聞き返す
「ええ、まぁ、そうですね……元々、あなたが強化手術を受けていたり心変わりしていれば殺す予定でしたが、強化手術も受けず、何も変わっていなかった場合は殺さないという、作戦だったんです」
そう、ヤマトさんの状態によっては殺さず生かすそれはアカネさんと話して決めた作戦だ