「これは、あくまで私の提案だが、ヤマトは状況によっては殺さずに生かしてこの戦いを終わらせたい」
その日作戦の最終調整をしていると唐突にアカネさんはそう言った
「……なんで? アカネはヤマトに何か思うところでもあるのか?」
「全員殺すことが、私達の勝利条件じゃないんですか」
真っ先にトトちゃんが、そのすぐ次にソラちゃんが食いつく
私に関しては、そのヤマトさんという人と会ったことすらないので特に何か言うことはない
「そう一気に言い寄らないでくれ、ちゃんと順を追って説明するから」
アカネさんはすでにその反応を予測していたのだろうどうどうと二人をいなす
「ちゃんと納得できる理由なんだろうな」
「……」
「ま、まぁ、聞いてみようよ、提案なんだし……」
なおも言い寄るトトちゃんと逆に黙り込むソラちゃんに私は取り敢えず言葉をかけてみるものの相手を知らないのでそれ以上何も言えない
「まずはトトの疑問だが、私はヤマトとは勿論接点はあるが別に特段ヤマトに固執しているとかそういうことは一切ない」
「……そう」
アカネさんの説明にトトちゃんは少し安心したようにそれだけ呟いて椅子に座り直す
「そして次、ソラちゃんの疑問について、確かに今回の作戦において敵は出来る限り掃討する、ヨハネに関しては殺す以外に選択肢はないだろう」
「……」
アカネさんの説明をソラちゃんは黙って聞いている
「じゃあ、その後のゾンビイーターをどうするかだ」
「そ、れは……ヨハネを殺した後もゾンビイーターを活動させる、ということですか?」
アカネさんが言いながらソラちゃんのほうを指差す
ソラちゃんは戸惑ったようにそう、聞き返す
「今のように新しいゾンビイーターは増やさないにしてもこの戦いの後に残ったゾンビイーターや中程度の脳のあるゾンビ達をどうやって管理する? 今回総動員といっても配給所などの警備に回っている分のゾンビイーター達は残る、そもそもこの研究は国の名の元に始められたものであり、元はといえばゾンビから市民を守るためにゾンビイーターという存在がいることになっている、今こそヨハネの独壇場となっているがヨハネがいなくなればまた別の誰かが配置されるだけだ、だからこそ、その穴埋めに私が一人戻ったところで相手はいい顔をしないだろう、その時にヤマトの存在が必要になる」
そう、アカネさんはこの戦いが終わった後に自身は一度国の研究機関に戻ると言っていた
アカネさん関係のことは全てヨハネのところで情報が止まっている
だからこそヨハネがいなくなって国の研究機密に関係するものが一人もいなくなれば国としては一大事であり、その場に自身が戻るぐらいはわけないことだとアカネさんは語った
はたして本当にそんなうまく行くのかなんて私には分からないけど現状でその場面をどうにか出来るのがアカネさんしかいないのであればそれに乗るしかない
「ヤマトが……」
ソラちゃんはヤマトさんの名前を呼びながら考えるように顎に手を添える
「彼女は現状においてハイスコアラーのトップという立場にいながら何かに傾倒しているわけではない、彼女の目的はずっといつだってただひとつだった、ただ生きていたい、そんな彼女だからこそあのそれぞれ性格に色々と持っているゾンビイーターのトップという立場にずっと立つことが出来ていた、その力を買って、こちらに取り込みたいんだ」
「取り込む……ですか?」
淡々と説明していくアカネさんの言葉にソラちゃんが聞き返す
「そう、もし彼女が他のゾンビイーター達のように心積もりが変わっていたら話は別だが、もし変わることなくいまだに生に執着しているようだったら殺さずにこちらに取り込んで、私が取り仕切る新生ゾンビイーターの統率を引き続き彼女に任せたい、ただ生きたいという感情は何よりも強く、そして他の何かに執着することはないからね」
そして、アカネさんは説明を終えるとどうだろうかというように私達のほうを見やる
私はその人を知らないがかなりひとつのことに特出した人のようで、だからといって今まで会ってきたゾンビイーター達はそれぞれがそれぞれに思いがあって動き、そしてぶつかってきた
そんなゾンビイーターのトップを歩いていた人をこちらに引き込むなんて本当に可能なのだろうか
「……私は特に異論はないですね、あの人ならまぁ問題ないでしょう」
「僕も特にないかな、だってあの人だし」
だが真っ先に話に食いついていた二人が早々にアカネさんの提案を受け入れる体制を取ったことに少し出鼻を挫かれる
「……なんか、すごいね、ある意味信頼されてるというか……まぁ、二人が良ければ私は特に異論はないんだけど……」
二人のことだからもっと拒否したりするかと思ったのだがどうやらそうもならないらしい
「あなたも会えば分かりますよ、すごい分かりやすい人ですから」
「ほんとーに、どう育ってどう生きてきたらああなるんだって聞きたいくらいだ」
そんな私に2人はそれぞれがそれぞれに呆れた様子でそう言うものだからその人を知っている人からすれば当たり前の感覚なのだろうかとしゅん巡する
「まぁ、彼女は……死にたくないからゾンビになったような人物だからね」
そしてアカネさんは最後にそう言って締めくくった