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第121話 以心伝心の応用力

「以心伝心……!」

「っ……」

 フーカの手元から放たれた沢山の糸を斧の一撃で凪払う

 最初のほうこそ冷えきった身体、慣れない傀儡状態での戦闘で僕のほうが有利だった

 だが流石はハイスコアラーというところか時間が経つにつれて僕のほうが押されるようになっていた

 芯まで冷えきった身体の機能が戻ったわけではないだろう

 ただ単純に、自身を傀儡として操るという状態に即座に対応して来ているというのが事実

 糸はどんどんとその操作性を上げている

「……大分この状態にも慣れてきましたねー、このまま押しきれちゃいますかね?」

 フーカは言いながら見せつけるように手をひらひらと振って見せる

「さすがにそんなことになれば、アカネの作戦ぶち破ってまで出てきといて面目が立たないなっ……!」

 僕は言いながら強く踏み込むと斧を振り上げて振り下ろす

 アカネが僕に黙って立てた命を使った作戦

 あのまま頬っておけば確実にフーカを倒すことが出来た

 それは今回の戦いにおいてとても重い意味を持つ

 でも僕は自分の気持ちとアカネの命を優先してその作戦に首を突っ込み、そして破綻へと導いた

 それなのにここで負ければ示しがつかない

 だから僕は勝たないといけないのだ

「とっと、ここまで来てさらに火力が上がりますか……」

「っ……あっぶな!」

 僕の一撃を糸の束で受け止め、余裕がないような表情を浮かべるフーカにこのまま押し通ろうと斧にさらに力を込めようとしたその時

 視線の端にキラリと何かが光ったような気がして咄嗟に斧から力を抜いて後ろへと飛び下がる

 そうすれば鼻先すれすれを鋭利な糸が寸断する

 あのままあそこにいれば間違いなく首が飛んだ

 もう流れていない血の気が引き、斧をもう一度強く握り直す

「感も大分鋭くなったんじゃないです?」

 フーカは自身の攻撃を避けられたにも関わらず余裕綽々といった様子でそう言いながら手の中に粘糸を紡ぐ

「自分のこと見直してもその上から目線は変わらずなんだな」

 もうそこまで傀儡状態で動けることへの焦りもあり僕はあえて棘のたつ物言いをする

「別に行動理由を見直しただけで自分は自分、根本は変わりませんよ、あなただってそうでしょう?」

 だがフーカは特に気にした様子もなく言いながら僕のほうを指差して見せる

「……まぁ、それもそうだな」

 実際にその通りだとそれを肯定しながら、それでいてやはり覚悟の決まったものは強いということを実感する

 確実に、自分の役目を全うすると決めた後のフーカのほうが戦いずらいことこのうえない

 心理的な揺さぶりももう効かないだろう

 そもそも僕にはそんな頭を使うことは出来ないのだが

「それにしても……単調な動きで読みやすくて戦いやすいですねー」

 言いながらフーカは余裕綽々に何度も作った糸をこちらへと飛ばしてくる

 僕はそれを避けたり凪払いながら斧での攻撃を続けるがそれは一向にフーカには届かない

 僕の斧は頑丈で攻撃力が高いだけ

 それ以外は一切ど返しで作って貰った

 それがまさかここに来て問題となるとは思わなかった

 そこまで考えてから僕はフーカから少し距離を取るとふらついたように壁に手をあてる

「ゾンビなのに貧血ですかー? それか、緊張してるとか」

 フーカは言いながら、それでも手を止める様子はなくまた糸を飛ばす姿勢を取る

「……僕は考えるのは得意じゃないんだ、だけど……」

 だから僕は

「おっとっ……!」

 そのまま異能を発動して壁の中を通った腕をフーカの真横の壁から思い切り飛び出させる

 フーカはあわててそれを避ける為に壁から距離を取る

 だがこちらへの警戒は解いていなく、余裕を残していた

「残念ですけど、さすがにバレバレじゃないで、す……っ!!」

 壁越しの奇襲

 それは当然のように予測されていた

 そして予測されることは僕も予測していた

 だからこそもうひとつ布石を打っておいた

 フーカが避けた先の地面から生えた手がフーカの足に絡み付く

「アカネみたいに色々と考えるようなやつと一緒にいると……どうやらそういうのも移るらしい」

 壁と床からの二重の奇襲

 まぁアカネのようにはいかないし

 それ程までに奇をてらった作戦ではないがパワータイプのすっからかんだと思われているのであればこれでも充分だ

「……たく、厄介なことこの上ないです……っ!」

 足元の腕を糸で凪払おうとしているフーカに今度は距離を詰めて斧を思い切り振り下ろす

「でもちゃんと力でもごり押ししていくから気を抜かないように!」

 フーカは瞬時にそれに対応して糸の束でそれを受け止める

「このっ……!!」

 柔らかく強靭なその糸にからめとられながら、それでも僕は力を抜くことなくさらに腕に力を込める

「重っ……これは、捌ききれないか……!」

 フーカは言うが早いか足元の腕を一掃していた糸たちを全て僕の斧の対応へと回す

「それだと、胴体がお留守だけど……!」

 僕は斧から力を抜くことはせずに自分の身体から生やした腕でフーカを拘束にかかる

 足はまだ腕で掴んでいるから斧を掻い潜って避ける、という選択肢は出来ない 

「くっ……」

 このまま押しきれる、そう思った瞬間

 フーカは自分の両足をふくらはぎのしたから自分の糸で切断すると斧と手を避けて糸の力でうしろへと飛んだ

「……おいおい、正気?」

 流石の即断即決に流石に僕も正気を疑う

 確かにあのままでは負けてたかもしれないがそれで両足を捨てるという肉を切って骨を絶つを即選べることに驚きが隠せない

「正気も正気、とても大真面目ですよー」

 だがフーカは気にした様子もなくただそう言って笑う

 勿論両足のふくらはぎから下がないので地面に尻餅をついた状態で

「……それでどうやって戦うつもりなんだ?」

 即断で脚を捨てたのはいい

 だがフーカはこの期の展開をどうするつもりなのか

 単純に疑問を持って問いかける

「ああ、策はありますので心配せずー」

 フーカは言うが早いかまた両手に沢山の糸を生成し始める

 いつもよりも多く紡がれたその糸たちはフーカの脚のほうへと伸びていき

「……なっ」

 そのまま糸は沢山の束になってフーカのふくらはぎにくっつき、どんどんと脚のかたちを形成していく

「はい、これで元通り、何度も言ってますが以心伝心は……とても応用が効くんですよ」

 そして僕が驚いているたったそれだけの時間の間に脚の形になって取ると何の問題もないというようにフーカは立ち上がってそう言うとまた笑う

「……応用とか、そういう問題ですらないと思うんだけどね」

 ほぼチートのようなその以心伝心の応用力に僕はそう言ってただ、苦笑いするしかなかった

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