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第122話 私達の戦い

 トトが壁を突き破ってこの部屋に乱入してきてから一体どれくらいの時間が経過しただろうか

 目の前でおこなわれる一進一退の攻防戦を私は現な脳でただ静観していた

 自分の作戦で散々に冷やされた身体は既に感覚がほとんどない

 冷たいや痛いという感覚がない時点で私の身体の凍傷の度合いは二度か、深くて三度まで達しているだろうか

 だがその深い凍傷のおかげでフーカの糸で与えられた沢山の裂傷から失血死することは免れている

 そういう感じだろう

 そんな無駄な考えばかりが頭を巡る

 そもそもトトが戦っているのにこんなことをのんきに考えている時点でおかしい

 だがなにかを考えていなければすぐにでも意識が飛びそうで

 本当なら立ち上がって何か、トトの戦闘の役に立つことをしなければいけないのに身体を動かすことすらままならない

 作戦はまだ、まだ何個も立てている

 もしこれが失敗したとき次はどう動くのか、それらを全て考えてからさらに先のことまで考える

 それは最早昔からの癖のようなものだ

(応用と……、そういう問題ですらな……思うんだけ……ね)

 トトの焦ったような声が途切れ途切れに聞こえる

 フーカが自身の脚を捨てたのは、彼女の性格からすればさほど驚くことではない

 トトと何かを話して、おそらく覚悟を決めた彼女であればなおのこと

(自分にはこの糸がありますから、あなたの武器は必要ないって訳です、分かります?)

 彼女の武器を作ろうとしたとき、彼女はそう言って武器自体を作ることを断った

 それはきっと、大人の力を借りることが嫌で出た言葉だったのだろうが今思えば確かに以心伝心があれば変に武器を持つよりもそのままの力で戦ったほうが彼女は強いだろう

 だが強化手術でどれ程までに以心伝心が強化されているのかは分からないが元来彼女の糸は粘液で出来ている

 失くした脚の代わりを見た目上作れたにしてもそれが、本来のそれのように完全に機能するものではない筈

「……ぁ」

 出来ることならそれをトトにも伝えたい

 だが開いた口から出たのはそれこそ心もとないただのうめき声だった

「……」

 私は、死ぬのだろうか

 死ぬこと自体は怖くなかった

 そもそも最悪死ぬ気でこの作戦は考えた

 まぁこの作戦以外でも私の生存率は軒並み低かったが

 全てが終わった時に私が生きていれば色々と円滑に進むとは思っていたがそれでも勝率をあげるにはそれしかなかったと言っていい

 なのに

「……ははっ」

 それなのに

 私の作戦をダメにしてまでトトが現れた時

 嬉しいと思ってしまった自分を思い出して自嘲の笑いが口から漏れる

 罪悪感から拾った子供

 彼はソラちゃん達との一件から自分の命を軽んじていた

 私は私でこの現状を打破できるなら真っ先に死んでもいいと思っていた

 そんな彼は今では前を向き、この戦いが終わった後のことを何の気なしに私に話してくれた

 それがどうしようもなく私は嬉しかった

 そして、彼の成長をこれからも見届けたいと思った

 それには私も生きていないといけないのに私の立てる作戦は私が死ぬものばかりで

 今回最終的に行き着いた作戦も結果的には自分が死ぬものだった

 さっきも言った

 自分が死ぬことは怖くなかった

 そう、なかった

 過去形だ

 今は、死ぬことに漠然とした恐怖を覚える

 自分が死んだあと、トトは一体どうするのかとか、そういうことを考えた

 底無しちゃんのことだってあるのにとか

 ソラちゃんとウミちゃんの帰る場所を用意してあげないといけないのにとか

 そうすればフーカにしがみつく自分の手が否応なしに震えた

 死にたくないと、そう思った

 だからトトが来てくれたときに喜んでしまったのだ

「にん、げんは……変わる、生きてても、死んで……ても」

 いずれか言ったそれを復唱する

 それは私にも言えたことだったのだ

 動かしづらい身体は頬って置いて目で二人のことを見やる

 トトとフーカ、まだ二人の戦いは続いていた

 長引けば長引くだけトトが不利になる

 冷却は永続ではないし、フーカは自身の傀儡化にどんどんと慣れていく

 そうすれば勝算はどんどんと下がっていく

「……ああ、そう……か」

 戦う二人の姿に昔の、自分達の姿が重なって見えた

 そうだ、ヨハネ

 私はまだ君との勝負に決着をつけていないじゃないか

 これは、私達の戦いから始まったことなのに

 私は昔のことを思い出しながら、そのまま意識を、手放した

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