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第126話 戻らないなら探そう

「……ネ」

「……カネ」

「アカネ!!」

「ん、ト、ト……ここは……」

 暗闇で何度も何度も名前を呼ばれて、私はようやく意識を取り戻す

「よかった、やっと目が覚めた……」

 目を開けばすぐ真正面にトトの顔が迫っていて、あまりにも見たことのないつらそうな表情をしているから自分が何をしたのか必死で思い出そうとする

「あれ、私は……フーカを倒そうとして、トトが飛び込んできて……」

 対ゾンビ用の機能を使ってフーカを足止めした

 その後にもう少しというところでトトが飛び込んできて、怒りながら動けない私の代わりに戦い始めて、私は意識が朦朧として過去のことを思い出していた、はず

「自分の命犠牲にして勝とうとしてたから僕がぶちギレた、覚えてる?」

 必死で思い出しながら視線をトトのほうに戻せばそこにはさっきみたいな表情のトトはいなくて、いつもの怒っている表情のトトがいた

「何と、なく……っ、フーカは!? ……っ」

 私はそんなトトの表情に安心しながらまだ安心していい時間ではないことを思い出してベットに寝かされていた身体を無理やり起こすと全身に激痛が走る

「ああ、僕がちゃんと倒したから安心して」

 だが慌てている私を気にすることなく何の気なしにトトはそう言ってのける

 彼は……ハイスコアラーをたった一人で倒してしまったのか

 彼のゾンビとしての資質は思っていたよりもとても高いのだろう

 この短期間でどんどんと吸収して、成長していく

 それは、もしかしたら彼が吸収してしまった姉の力もあってのことかもしれないが

「って、よく見たらトト! 君、傷だらけじゃないか……! 腕も片方無いし……いったいどんな無理を……痛っ!」

 フーカを倒した

 その言葉に安堵してトトのことをもう一度よく見てみれば彼の身体は至るところに裂傷を携え、片腕にかんしてはすっぱりと根本からなかった

 慌てて詰めれば残っているほうの手でトトが私の頭を叩く

「それ、アカネにだけは言われたくないんだけど、死のうとしてたくせに、僕はゾンビだから後で直せばいいのー、ほら、腕も拾ってきてるし、それよりアカネは手、動かせる?」

 トトは言いながら床に転がされていた腕を拾ってプラプラと振る

「手……?」

 トトに促されて私は自身の手に力をいれようとして、感覚が殆どないことを知る

「見よう見まねで手当てしたけど、凍傷の具合はどんな感じ?」

 言いながらトトは私の座るベットに手を枕に顎を乗せ、私の様子を伺う

「……ああ、だから包帯やガーゼが……手は……残念だけどあんまり感覚がないかな、さっきよりは感覚が戻ってきてるけど、ちゃんとした治療が必要かもしれないね、でも……トトのお陰でそこまで辛くないよ、ありがとう」

 私は何とか動く首で自身の腕や脚を見れば至るところに慣れない様子で包帯が巻かれていたり、ガーゼで裂傷を塞いでいたりして、トトの努力が見て取れる

「必要かもじゃなくて必要だから、とりあえず僕の腕は直せそうにないから後回しにして……こっちに攻めてきてた敵の将は討ったわけだから外の様子を確認してくるよ、底無しにも色々させてたみたいだから心配だ、こんな状態でも役には立てると思うしね」

 お礼を伝えられたトトは残った手でくしゃくしゃと自分の頭をかいて早々に部屋を後にしようとするから 

「それなら私も……!」

 慌てて私は呼び止める

「いや、その状態でどうやってついてくるつもり?」

 トトは苦笑いしながら私の怪我を指差す

「……そもそも底無しちゃんに無理をさせたのは私だ、私が行かないわけにはいかない」

 そう、こっちが終わったからはいおしまいとはならない

 私は底無しちゃんにも無理を強いた

 その結末は自分の目で見届けなければいけないのだ

「……見るだけ見てまだ戦闘が続いててヤバい状況だったらアカネはシェルター内に戻すからそのあとでちゃんとシャッター下ろしてよ……」

 トトは私の気持ちを汲んでくれたのか言いながら私を自身の背中に背負う

「ああ、この状態では参戦しても脚を引っ張るだけだ、ちゃんと言われた通りにする」

 もしまだ戦闘中なら、私はもう足手まといにしかならないことをしっかり理解している

 だからその場合はシェルターの中にいたほうがきっと邪魔にもならない筈だ

「僕は片手しかないからしっかり捕まってて……欲しいけどアカネも手が使えないんだった、とりあえず落ちないようにね」

 トトは言いながら思い出したように呟くとそのまま私が落ちない程度の速度で走り出した


「この外が、どうなってるかで色々変わってくるわけか……」

 暫く進めばシェルターの入り口が見えてきて、目の前でトトが止まる

「私の白衣の右ポケットに入ってるリモコンの赤いボタンを押してくれ」

「りょーかい」

 手の使えない私はトトに頼んでシャッターの開閉をしてもらう

「開いたか……」

「やけに静かだね」

 外に一歩出れば想像していた喧騒は全くなく、やけに静かな中呻き声のようなものだけが木霊していた

「……これは」

「激しい戦闘痕と……動けないくらいに破損の酷いゾンビイーター達にゾンビ……これは、もう終わってるみたいだね」

 少し進むと激しい戦闘痕が残っており地面には食い散らかされたゾンビやゾンビイーター達が倒れていた

「そ、底無しちゃんは……」

 これをやったのが底無しちゃんなのは間違いないだろう

 だが見渡す限りでは底無しちゃんの姿が見えない

「……いないみたい、この倒れてるなかにもいないし、それっぽいのも見当たらない」

 トトも地面に倒れるゾンビ達をそれぞれ覗き込んで確認しながら回りを見渡してそう呟く

「……考えられるのは、薬の効果で知能がさらに悪化してそのまま何処かへ行ってしまったのか、それとも身体の負担が限界を向かえて……崩れたのか」

 私は言いながら、自分の喉がからからに乾いていることに気付く

 何処かにいるならまだいい

 だがもし、本当に活動限界を向かえてしまっていたのなら、私は

「……そんな簡単には死なないよ、僕達ゾンビだから、取り敢えずはウミ達が帰ってくる場所は守れたんだから戻ろう、それでアカネの手当てして、それが済んだら僕の腕とか縫い直して、その後……底無しを探しに行こう」

 だがトトは私の気持ちを汲んでか本音か分からないがそう言って、それからシェルターへの道を戻り出す

「きっとまた鼻歌歌ってそこら辺歩いてるだけだよ、だから、見つけてあげればいい、そうしたら無理させたことちゃんと謝りなよ」

 そして、トトは何の気なしにそれだけ言うと、もう何も話すことはないというように黙ってシェルターの中へ入るともし戻ってきた時の為にシェルターは開けておこうかなんて言って私のポケットにリモコンを戻した

「……ああ、ああ、そうだね、戻ってこなかったら、探しに行こう」

 私は言いながら、感覚のあまりない手を握りしめる

 私がまた産み出した、犠牲の大きさと向き合うために

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