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第128話 疎ましい存在

「ヤマトが……負けた……?」

 研究施設の中から監視カメラでその事実を見届けた時、涌き出た感情はヤマトに対する少しの憤りと

 それ以上の自分に対する大きな失望感だった

 私の用意した最大のコマをまた、アカネは最低限の行動で無効化してしまったのだ

 それどころか自陣へと引き込んでしまった

 私はヤマトの考えるところを理解した上でヤマトに今回の指揮を丸投げした

 いや、その時点で私はこの戦いから視線を反らしていたのだろう

 ヤマトの言葉を借りれば盤面を放棄した、と言えば良いだろうか

「この後、私は……」

 落ち着く為に一度ダンっと大きくテーブルを叩く

 このまま進めば私は負ける

 ソラでもウミでもない

 アカネにだ

 私は学術院の時も、大人になって研究員となった後も、一度だってアカネに勝ったことなんてなかった

 毎回何をしてもアカネのほうが秀でていた

「……」

 私は白衣のポケットを探って一本の注射器を取り出して眺める

 これは、もしもの時の為に用意したもので、使う気なんて更々なかった

 だがもし、この最終局面でこれを使わなければこのまま待つのはまた、敗北だ

 ヒカリの命が懸かっている以上この戦いでだけは負けることが出来ない

 私の死とヒカリの死はイコールで結び付いている

 だから、負けられない

 だからこそ……

「……この子達は、一体どこに向かっているの」

 私が頭の中にポンポンと浮かんでくる雑念を取り払い監視カメラを確認すればソラとウミは迷うことなくある一点を目指して進んでいた

 この子達の目的は私を殺すことのはず

 なら何故関係ないところへ向かうのか

 しかもあの子のいる場所へ

「っ……やってくれるわねアカネ……!!」

 私は思い切り力任せにもう一度机を叩くと慌てて警備室を後にする

 あの子達が何をしようとしているのかは嫌でもすぐに分かった

 そしてそれを指示したのがアカネであることもだ

「あなたは……ヒカリを殺す気なのね……させない……絶対にさせないっ……!!」

 私はカツカツとヒールの音を静かな廊下に響かせながらあの子の元へと急いで向かう

 歩きながら私は手の中の注射器へとまた視線を移す

 私は今だって思ってしまう

 アカネがもし、あの時研究から手を引いていなければ、ヒカリはこんなことにならなかったんじゃないかって

 世界は、こんなめちゃくちゃにならなかったんじゃないかって

 勿論ヒカリがそれを望んだからアカネが行動に移したことは分かっている

 ヒカリの気持ちを踏みにじっているのが私のほうだということもよく理解している

 だけど、貴女がこの研究から手を引いて、ヨルさんと二人だけになった後の私はいつだって不安が頭からこびりついて離れなかった

 最初に共同研究を持ちかけられた時は飛び上がりたい程に嬉しかったのを覚えている

 私一人では無理でも貴女がいればこの研究は上手く行き、ヒカリを助けることも不可能なことではないように思えたから

 貴女がいたからこそ、私は希望を捨てることなく研究に邁進できた

 だって貴女は何時だって一番だった

 私の一歩も二歩も前を、迷うことなく歩いていた

 学生の頃から変わらずずっと、ずっと貴女は

 私からすれば憧れで

 それ以上に疎ましかったのだから

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