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第132話 愛された者達

 私はそのまま、ヨハネの絶叫も無視してヒカリさんに向かって刀を振り下ろした

 瞬間、目の前でぐずぐずなゾンビと成り果てているヒカリさんと、目があったような、気がした

(あれ? あなたも入院中? 私もそうなんだ、でも良かった、この病院大人ばっかりなんだもの、私はヒカリ、仲良くしてくれると嬉しいな)

 瞬間頭のなかでそんな一幕が再生される

 そう、全てを思い出した今、私はヒカリさんと面識があったどころか生前の彼女と会ったこともあるしこうして話をしたことだってあった

 姉が研究者になってからはその関連の病院に移った私はヒカリさんにとって唯一の年の近い人間だった

 彼女は何時だって親であるヨハネと、大切な人だというアカネさんを心配していた

 気丈に振る舞っていた

 それでも私の調子が悪ければ真っ先に心配してくれた

 思い出せば思い出す程にヒカリさんの性格はウミさんとよく似ている

 話し方とか、雰囲気とかそういうものがだ

 そして、私とヒカリさんもまた、よく似た者同士だったのだと今なら分かる

 ヒカリさんは母であるヨハネに、私は姉であるヨルに、愛され、愛していた

 そのせいで、世界を巻き込む程の事件を起こさせてしまった

 そして、死んでもなお、私達二人はその人達の中から消えることが出来ないでいる

 ヨハネはオメガウイルス用のワクチンの制作を疎かにしてゾンビイーター達を私用で扱っているし、私の姉に至ってはいまだに私やウミさんの中から外を見て、自分の思いどおりに事を進めようとしている

 愛されていること自体が、愛すること自体が悪いなんて言わない

 ただ、私達は、各々がちゃんと意思を持った人間なのに、私達の考えを無視して自分の思いどおりにしようとしていることが、いけないのだ

 ちゃんと、きっとヨハネ達も私達も、ちゃんと話し合えていたら、分かり合うことを放棄しなければ、もっと違った未来がきっと私達には残ってた

 でも、だとしてももう過去は変わらない

 起きてしまったことは、砕けた硝子は元通りには戻らない

 だから私は、目があっても戸惑うことなくそのまま刃を振り下ろしたのだ

 ヒカリさんの友として、ゾンビイーターとして、最後を託されたものとして

 シャンっと音がしてヒカリさんの首から頭が飛ぶ

 ごと、ごろっ

 飛んだ頭は地面に着地すると音を立てて少しだけ転がると、私のほうを見た状態で動きが止まる

「っ……」

 一瞬、勘違いでなければ、ヒカリさんの口が動いたような気がした

 笑ったような、気がした

 だから、自分に優しくしてくれた人を死んでるとはいえ手にかける、そんな自分のなかの少しの罪悪感さえ、それで吹き飛んでしまって

 ヨハネだって、この瞬間をしっかりと、見ていれば何か変われたかもしれない

 そうとすら、思えた

 だけど、等の昔に限界だったであろう彼女の身体は、そのまま灰のように崩れて、そのままなくなってしまった

 私はヒカリさんから流れるようにヨハネのほうへ顔を向ける

 そうすればそこには、一瞬だけど安堵したような、肩の荷を全て下ろしたような、スッキリとした表情のヨハネがいたような気がして、驚いて瞬きしたその先には、既にそんなヨハネは存在しなかった

 ああそうか

 ヨハネもきっと分かっていたのだ

 こんなこと終わらせないといけないと

 それでもきっと、それを受け入れられなかったからこうなった

 でも、これで良かった

 この瞬間から、ヒカリを失い止まっていた私達の時が、しっかりと正確に進み始めるのだから

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