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第138話 プレッシャーと突破口

 部屋の壁をガラガラと崩して現れた肉塊を前にしてから多少の時間が経過していた

「斬撃は?」

 私は言いながら確認するようにソラちゃんの持っている刀に視線を向ける

「もう固すぎて殆ど通りませんね、氷結弾のほうも……」

 だがソラちゃんは首を振りながらそう言って今度は私の持つ銃に目を向ける

「もう一発も残ってないね、白冷夜行も……」

 銃弾は通常弾を含めて全て既に肉塊に向かって使ってしまっていた

 そして頼りの白冷夜行もまた

「刀が通らないのもあって表皮を凍らせても殆ど意味は成さないと」

 内部から凍らせられないことから殆ど意味を成さなくなっていた

 ただ表面が凍ることで攻撃の手数が減ったことは大きな前進だった

 何せこうして色々なことを試しながら模索する時間が稼げるからだ

 だがそれを加味してもこれ以上大きくなれば本当に手をつけられなくなることは事実だ

「この、肉塊が、まだゾンビっていうくくりのなかに収まってるなら後は首を落とすか脳を破壊するかだけど……」

 言いながら私は肉塊に視線を戻して全体を観察しながらそう呟く

「そもそも首も脳もどこにあるのか分からない、と……というか切れ端を見るに内臓とかも見当たりませんでしたから脳が残っているのかすら不明ですね」

 だがそれも叶わないだろうというのはソラちゃんから聞くまでもなく明白ではあった

 ソラちゃんが何度も切り離してもそもそも内臓すら見えなかったことからこのヨハネさんだった肉塊は本当にただの赤黒い肉の塊なのだろう

「後は……燃やすとか……!」

 私は考えた末にもう一つ提案してみる

 今は少しでも色々なことを試してみる他ない

「……少し離れてください、ね……!」

 ソラちゃんは私を手で制するとカバンから焼夷弾を取り出してピンを引き抜くと肉塊に向かって投げる

 ボンッと音をたてて爆発すると大きな火柱が上がる

「……どう、だろう」

 私は祈るような気持ちで煙が晴れるのを待つ

「これは、効いてないですね……」

 だが残念なことに炎は殆ど効いた様子はなく焼けた表皮は簡単に再生していく

「……じゃあ、後は……っ!」

 次の方法を模索しようと唸る私は自身に迫るそれに気付いてぎりぎりのところで思い切り横に飛び退ける

 煙に紛れて気付くのが遅くなった

 私が居た場所には肉塊から飛び出した鋭いトゲが深々と地面を抉っていた

 まだそこにいた時のことを想像して背筋を冷や汗が伝う

「ウミさん!!」

「え、あっ……待ってソラちゃん!!」

 慌てて私の名前を叫ぶソラちゃんのほうを見て私はあることに気がついて叫び返すとソラちゃんの手を掴んで自分のほうへと引き寄せる

 瞬間ソラちゃんのいた場所に肉塊に出来た大きな口が着地する

「……え、また、口が、しかも今……」

 ソラちゃんは自身の居た場所に視線を向けるとじゅうじゅうと音をたてて溶ける床を見ながら口を開く

「ソラちゃんのこと、食べようとしたよね……」

 そう、あからさまに今までと違うその行動に私達はただそう事実を羅列することしか出来なかった

「……明らかに叫ぶための口ではなかったですね、ゾンビとしての補食本能は残っているのか、それともこれだけ大きくなれば力を使うでしょうから補給が必要になったのか……」

 いくら原型をとどめていなくてもゾンビであり生き物である

 何の栄養も接種せずに長期間これほどの巨体を動かし続けることはさすがに不可能なのだろう

「補食なんてするならそれこそここでどうにかしないと……!」

 このサイズの化物が無差別に人間を補食していけばそれこそ人類が滅亡してもおかしくない

 どんどんと引けない理由が積み重なって、それは重く、プレッシャーへと変わっていく

 まぁ最初から一貫してあったことではあるがこれは既に私達だけの問題ではなかったのだが 

「そう、ですね……後は――――っ!」

「ソラちゃんっ!!」

 次の手を考えるソラちゃんに向けて丸で底無しちゃんのように肉塊から沢山の口がソラちゃんに向かって一斉に放たれ、私は慌ててソラちゃんの名前を叫ぶ

「このっ……」

 そしてソラちゃんが刀で捌き逃した触手にバールを振り下ろす

 ゾンビに打撃は殆ど意味を成さない

 たが慌てた私にそこまで考える余裕がなかった

 瞬間

 バールで殴り付けられた肉塊が耳を突くような声で叫ぶ

「……え」

 そこまで力を込めた一撃ではなかった

 だからこそ咄嗟に間の抜けた声が漏れる

「……成る程……正解は打撃でしたか、ゾンビに打撃は殆ど通用しないのが主ですが、その逆を行くとはどこまでいっても性格が悪いですねヨハネ博士は」

 だがソラちゃんは至って冷静に、そう言って肉塊を見つめる

「でも、これが突破口になるかもしれない……!」

 咄嗟の行動だったにしても打撃が効くという事実を知れたのは大きい

 これを先駆けに突破口が開ける可能性に緊張して手に汗が滲む

「そうですね……攻守を交代しましょう、私が肉塊から出る触手から守りながら道を切り開きます、ですからウミさん、あなたがリミッターを外して全力で打撃を加えてください」

 ソラちゃんは言うが早いかすぐに迎撃ように刀を構える

「……分かった」

 私もそれに続く為に一度深く深呼吸してから、両手でしっかりとバールを握りしめた

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