ガンッ!!!
強固になった身体にさらに中から凍結され始めている肉塊にバールがぶつかると大きな音を部屋に響かせた
「……お願い、これでっ……」
凍結した上で弱点とも言える全力の打撃を与えられた肉塊は叫ぶでもなくただピタリと行動を停止する
それを見て私は両手でバールを抱き締めながら願うように呟く
「……」
それからおそらくは数秒
だだっ広い施設の中を、さっきまでは五月蝿いくらいだった空間を
不気味な程の静寂が包み込む
これで、ダメだったら
ソラちゃんが戻ってこなかったら
それこそ手詰まり、もう次の突破口はない
ごくりと口にたまった唾を嚥下したその時だった
ピシッ
元はヨハネさんだった、今は見る影もない肉塊に大きな亀裂が走る
「……こ、れは」
そして、そのままピシピシと音をたてて亀裂はクモの巣のように広がっていってそのまま
パンッと大きく爆ぜ、そのまま沢山の氷解となって音をたてながら地面に転がった
「……」
だが私はそれでも警戒を解くことも喜ぶこともしない
何故ならこの化物はソラちゃんが細切れにした時でさえまた集結して一つの肉塊へと再生して見せた
もしかしたらまたこのまま集まって、くっついて、一つの肉塊に戻るかもしれないからだ
だがそんな私の杞憂をよそに砕けた肉体は周りを覆う氷を溶かすことすら出来ずにそのまま地面に転がり続けていた
「勝っ、たの……?」
私はついそう呟きながらそっと自身の足元に転がってきていた氷塊に触れる
根拠は、はっきり言って分からない
本能とか、感とか、言い方は沢山あると思う
何故か私はその時この肉片がまた集まって再生する、その可能性が限りなくゼロであることを理解していた
「……良かっ、た……っ、ソラちゃん……!!」
一瞬、この化物と化したヨハネさんを止めることが出来たことに対する安堵感が身体を支配するがすぐに私はそれを振り切って氷塊の山に駆け寄って片っ端から氷塊を退かしていく
ソラちゃんが、消化されていなければ、必ずこの山のなかの何処かにいる筈なのだ
「……どこなのっ……ソラちゃん!」
無駄に大きくなったそれの欠片もまた大量で
どれだけ避けても一向に減らないしソラちゃんも出てくることはない
私は大きくソラちゃんの名前を叫ぶ
絶対に死んではいない
ただそう信じて
「……ミ、さん」
「ソラちゃん!!」
ひとつ、またひとつと氷塊を退かしていけばふと、とても聞き覚えのある声が、弱々しく聞こえた
だからこそ私は強く返事を返してさらに肉塊を掻き分ける
「っ……やっと、見つけた、ソラちゃん……」
そして、掻き分けたその下には所々身体を凍らせたソラちゃんが、力なく笑っていた
私はもう一度、しっかりと名前を呼ぶ
「ウミ、さ、ん……相談もせずに即断即決して、ごめん、なさい……でも、こうして私がまた、あなたの顔を見れたということは、ヨハネ博士だったそれは、もう……」
ソラちゃんの異能の副作用で辿々しい口調でソラちゃんがそう聞いてくるから
「……うん、もう、大丈夫、全部、終わったからっ……」
私は安心させる為にも笑って全てを伝える
「……っ、ははっ、はぁ、死ぬかと思いました、もう死んでるんですけど……」
それに釣られるようにソラちゃんはその大きな相貌をさらに大きく見開いてから破顔したようにそう言って笑う
「冗談言ってる場合じゃないからね……本当に死んじゃったらどうするつもりだったの!」
だけどそんなソラちゃんに少しだけ腹が立って私は語気を強めてそう詰める
「いやぁ、死ぬ気はなかったですよ? 本当に、ただ、あなたとの未来の為にがむしゃらだった、だけです」
それでもソラちゃんは何の悪びれもなくただそう言うだけで
「ソラちゃん……」
それだけの言葉で簡単に絆されて嬉しくなってしまう私は本当に単純なのだろう
「……それにしても、寒いですね、自身の能力ですが、きっとこの体温を戻すのには、独りでは時間がかかります」
ふと、ソラちゃんは意図の読めない言葉を淡々と語り出す
「……ソラちゃん、寒いとかそういうの感じないでしょ……」
ソラちゃんはゾンビだから動きに支障は出ても寒さとか、冷たさとか、そういうのは分からない筈だ
肉塊の口のなかへ飛び込んだからいきなり細胞が復活して、何てことも早々ある話でもない筈
「そこは突っ込まないところですよ、それより、独りでは無理でも二人だったらもっと早く、暖まって動けるように、なる気がするんですけど……?」
だがソラちゃんは私のそんな返答に少しだけ不満げにそう返してくる
その台詞で、ソラちゃんが何を求めているのかに流石の私でも気付いて、一気に顔が熱くなる
「っ……ソラちゃんそういうキャラじゃなかったよね!? ……でも、そうだね」
はっきり言って要求されているそれは少しだけ恥ずかしかった
でも
「二人とも無事だッた、これで全て終わった……良かった……!」
二人とも生きているという実感を私自身感じたくて、飛び付くような勢いで、体温を二人で分かち合う為に、私はソラちゃんを抱き締める
「……もう一生縁遠いと思っていたのですが、こうしてみると、暖かい気さえして、しまいますね……」
ソラちゃんは自分でそれを求めておきながら、少しだけ恥ずかしそうにしながらもゆっくりと、私の背中に自身の手を回した