「おはようございます!」
挨拶をしながら、待ち合わせ場所にいた面々の元へと近づいていく。改めて誰がいるのかを確認してみたが、どうやら、菊野さん以外のメンバーは揃っているようだ。真中さんと一華ちゃん以外のメンバーの私服姿は初めて見るので、見慣れなくて新鮮である。
「おはよう。貴女の隣にいるのが、今回誘ったっていうご友人?」
「おはようございます、真中さん! そうです、高校からの友達で、江長一華ちゃんって言う子です!」
勢いで言い切り、くるりと隣を振り返る。一華ちゃんがこくりと頷いて、すっと一歩前に出た。
「初めまして。ご紹介に預かりました、有谷真衣の友人の江長一華と申します。どうぞよろしくお願い致します」
「私は、有谷さんの上司の真中瞳。こちらこそ宜しくね」
一華ちゃんがお辞儀をして、真中さんもお辞儀を返す。美女同士の挨拶とお辞儀は様になっているな……と思いながら眺めていると、真中さんの隣に真中さんと良く似た女性がいる事に気づいた。
「ああ、ごめんなさいね。ええと、この子が私の妹よ」
「初めまして、真中真奈美と申します。姉がいつもお世話になってます」
「こちらこそ初めまして! いえ、そんな、むしろ私の方がいつもお世話になりっぱなしで……お姉さんには、いつも助けて頂いてます。ありがとうございます!」
お礼を言ってお辞儀をすると、上からふふっと柔らかく笑う声が聞こえてきた。素直な子なのねぇと言って微笑まれて、何となく面映ゆい。
「初めまして。僕は、有谷さんの同期の月城要と言います。宜しく」
「貴方が? 私は江長一華です、宜しく」
「おはよう月城君」
二人分の挨拶を聞いた月城君は、にこにこと微笑んだ。以前のような悲壮感は見られないので、ほっと胸を撫で下ろす。
「各自、自己紹介は終わったかな? ああ、俺が今回のキャンプの主催をやっている菊野大和だ。彼らの部署の課長でもある」
「江長一華です、宜しくお願い致します」
「宜しく」
「真中真奈美です。姉がいつもお世話になっております」
「ああ、話はかねがね聞いているよ。いやいや、真中君には頼りっぱなしでねぇ。本当、頼りになるお姉さんだ」
「そうですか。姉は何かと不器用なので、そう言って頂けると嬉しいです」
「……あのミニバン、乗っているの菊野君じゃないですか?」
何とも居心地悪そうな真中さんが、話の流れを無視して角を曲がってきた青いミニバンを指さした。確かに、運転席にいるのは菊野さんだ。
「皆揃っているか?」
ミニバンから降りてきた菊野さんも、当たり前だがいつも見るスーツ姿ではなくて私服姿だった。Tシャツと長ズボン、薄い生地の長袖パーカーにスニーカーというラフな格好なのだが、元が格好良い人なのでそれでも様になっている。
「ばっちりだ」
「そうか、それなら予定通り……ああ、俺は菊野蒼治と言う。普段は別の部署で働いているんだが、キャンプの幹事をするなら打ってつけという事で呼ばれたんだ。宜しく頼む」
「江長一華です。宜しくお願い致します」
「真中真奈美です。宜しく」
「二人とも宜しく。それじゃあ、用意してきてもらった食材を後ろに積んでくれるか?」
「分かったわ」
「分かりました!」
返事をして、順に持ってきた食材を積んでいった。今回のキャンプでは、キャンプ場の利用料金は菊野さんと課長が折半、真中さん姉妹が昼のバーベキュー用の食材、私と一華ちゃんが夜のカレー用の食材、月城君は飲み物とお菓子の調達がそれぞれ任命された役割である。
「今回のキャンプの幹事は俺だから、各自連絡先を教えてもらっても良いだろうか。俺の分も伝えておく」
「電話番号で大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ」
「分かりました。私の分はこれです」
「私は瞳ちゃんから離れないと思うけど、一応伝えておいた方が良いかしら?」
「何があるか分からないからな。お願いしたい」
「分かったわ」
「俺はこれです」
「ありがとう、皆」
一華ちゃんも真奈美さんも月城君も、躊躇いなく菊野さんに自分の電話番号を伝えていく。いや、別に、私だって伝えるのが嫌とかでは勿論ないけど……ただ、何となく照れてしまうというだけで。
「……有谷さんも教えてくれるかな」
「はい!」
いけない、もたもたしている場合ではなかった。そうだ、これは必要な事だから聞かれているんであって、他意は無いんだから。変に意識していてはいけない。
「ええと……これです」
「ありがとう。あれ、君も携帯会社この会社なのか」
「え? あ……ほんとだ、同じですね」
「同じだな」
だから何、という話ではあるのだが。やっぱり、好きな相手との共通点があったというのは嬉しいものだろう。そんな事を考えながら、スマホ画面に映った菊野蒼治の文字と電話番号を眺める。
「……何ですか、あれ。今時、連絡先の交換なんて小学生でももっとスマートにやるものですよね?」
「貴方もそう思う? 周りも皆そう思ってるわ」
「瞳ちゃんは人の事言えるの?」
「あれ、そうなんですか? 差し支えなければ、そこの辺りもうちょい詳しく」
「差し支えしかないから止めてくれる?」
何やら外野から色々聞こえてくるが、聞かなかった事にしよう。浸っている場合でもないので、スマホの電源を切って鞄の中に仕舞う。
「それじゃあ出発しよう。皆ミニバンに乗ってくれ」
菊野さんから指示が出たので、順にミニバンへ乗っていく。真中さん姉妹が一番後ろで、私と一華ちゃんと月城君が二列目、課長が助手席で菊野さんが運転席だ。
「二時間くらいで着くから、各々好きなように過ごしてくれ」
そう言った菊野さんが、鍵を挿してエンジンを掛ける。七人を乗せたミニバンは、軽快に進み始めた。