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#055


 地図上では、このへん一帯は、ヴィラスーラ平原という正式な地名が付いている。

 もともとはヴィラスーラ大原生林と呼ばれてたそうで。

 ゲーム「ロマ星」では、街道のほかには何も無い、だだっ広いフィールドでありながら、異常にエンカウント率が高く設定されていた。

 だいたい数歩ごと、下手をすれば一歩ごとにモンスターが現れて戦闘になるという、とてつもなくイライラさせられるフィールドである。

 ダンジョン内ほどではないけど、出現モンスターのレベルも比較的高め。ダンジョンに入る前に、ここでキャラを鍛えろ! 経験値を稼げ! といわんばかりのバランスになっていた。

 ゲーム後半には、主人公ルナちゃんは金竜「ソル」くんを入手し、空を飛んで移動可能になるため、ここいらは素通りできるようになる。

 さらに終盤になると、ルナちゃんは『転移』の魔法を修得し、ファストトラベルが可能となるので、そもそもヴィラスーラ平原を通ることすら無くなる。

 ようするにゲーム序盤から中盤にかけて、ルナちゃんのレベル上げをやるために存在しているような場所だ。

 ……で、いま、わたしも、きっちりエンカウントしちゃっている。

 いえ、素通りできますよ? 例によって『認識阻害』は掛けているので、一応、モンスターに気付かれずに、ここを通り過ぎることは可能なのだけど。

 でも現在、よりによって街道のど真ん中に、モンスターの一群が居座っちゃってる。ものっすごく邪魔。

 なにより、これを放置しとくと、後で馬車で通る人たちが困っちゃうだろうからね。

 道を塞いで、なにやら騒いでる狼藉者ども――。

 ゴブリン、コボルド、ブロスターウルフといった、おなじみの面子が、合計十数体。これらと、見慣れない大型モンスター三体が、まるで対立関係でもあるかのように、街道上で睨みあってる。そんな状況だ。

 大型のほうは、ひとことでいえば、超でっかい、二足歩行の羊。

 そう、ヒツジさんだ。

 体長は三メートル弱。だいたいヒグマぐらいかな?

 顔は、もう完璧に羊そのもの。頭には二本の巻き角が、くるりんと生えている。胴体はモッコモコの毛皮で覆われてる。

 ただ、手足は羊じゃなくて、まるで人間のようになってる。

 ぶっちゃけ、かなりアンバランスなスタイルで、どう見てもカッコよくはない。毛のない四肢は筋骨隆々ムキムキマッチョ。

 はっきりいって……うん。

 これは、気持ち悪い部類かもしれない。

 モンスター図鑑には、これに近い姿のモンスターが載ってた。名称はフォーモリア。

 分類としては人型モンスター。知能は高く、独自の言語を持ち、さまざまな武器、道具類を使いこなす。魔法も使う。

 ただし、人間との意思疎通は不可能。フォーモリアには、なにか人間に対する致命的な「認識の断絶」というものがあるそうで。よくわかんないけど。

 ともあれ彼らは決して人間を対話の相手とみなさず、問答無用で攻撃してくるのだとか。

 一方で、他のモンスターとは、敵対することもあれば、協力関係を結ぶこともあるらしい。意外と面倒くさいな、モンスターの関係性も。

 で、いまはお互い睨み合いをやっている。縄張り争いとか?

 全部まとめて『旋風』とかで吹っ飛ばしてもいいんだけど、なんだか珍しい状況になってる。

 ちょっとだけ、観察させてもらおうかな。







 三体のフォーモリアは、それぞれ長剣みたいな武器……蛮刀とかいうやつ? を手に携え、互いに声をかけあって、なにか相談してる様子。

 独自の言語……っていうけど、わたしの耳には、メエメエとしか聴こえないよ。羊の鳴き声そのものだこれ。

 でもそれで意思疎通できてるみたいなのが不思議。翻訳とかできないものかな。無理か。

 一方、その他モンスターズは、そんなフォーモリアたちと一定の距離を保ちつつ、油断なく睨みつけている。

 ほんと、どういう状況なんだろ、これは。

 やがて、フォーモリアたちは、小さくうなずきあって、モンスターズに向き直った。

 おお、方針が決まった、って感じかな?

 フォーモリアたちは、メエメエとモンスターズに声をかけた。

 たちまち、モンスターズは警戒を解いて、フォーモリアたちのもとに一斉に駆け寄り、合流した。

 和気藹々……というほどではないけど、お互い、攻撃対象ではないと認識して、共存を選んだ。そんな感じだろうか?

 それから、わたしのいるほうには背を向けて、一斉に、ざっざっと移動を開始した。

 わざわざ街道のど真ん中を、大小のモンスター十数体、一団となって、南へと向かいはじめている。

 進行方向、わたしと同じ……。

 このまま街道沿いに進むならば、その行く手に待ち受けるのは、宿場町ルリマス。

 まさか、このモンスターたち、ルリマスを襲いに行くつもりなのかな?

 ゲームでも、ルリマスはしばしばモンスターの襲撃を受けている。

 ルリマスには、頑丈な外壁と外門が備わっている。自前の防衛戦力もあるし、冒険者たちも依頼を受けて防衛戦に参加したりする。

 ゲームでは、ルリマスの街を訪れると、しばらくオートでイベントが進行する。

 ルナちゃんの到着直後、いきなりモンスターの大規模襲撃が発生し、ルナちゃんも一冒険者として、その防衛戦に参加することになる。

 このとき、その時点で最も好感度の高い攻略キャラが、「偶然」ルナちゃんと顔を合わせ、戦闘NPCとして初めてルナちゃんとパーティーを組むことになる。

 二人で力を合わせてモンスターを撃退。そこからさらに親密に……ってな感じのイベントなのである。

 ただ、じゃあなぜルリマスがそう頻繁に集団襲撃を受けるのか。そこはゲームでは説明がなかった。

 モンスター側に、どんな理由や事情があるのかは、さすがに、わたしにも測りかねる。

 ただ、ルリマスが危険に晒され続けている、という事実だけは確かだ。ゲームでもそうだったけど、今も現在進行形でそうなりつつある。

 しばらく、モンスターたちの後を、こっそり追ってみた。

 こうやって見てる間にも、街道の左右から、一体、また一体と、ゴブリンだのブロスターウルフだのが現れて集団に合流してきてる。この調子で数が増えていくなら、ルリマスに着く頃には、どんな大所帯になってることやら。

 ルリマスの防壁は頑丈だ。滅多なことじゃ破られることはないだろうけど、これだけの集団に襲われて、被害ゼロとはいかないだろう。死人だって出るかもしれない。

 ……しょーがないな。

『獄炎』

 わたしは、迷いなく火炎系最上位攻撃魔法の詠唱を行い、モンスターの群れのど真ん中に発動させた。

 炸裂する閃光、地を覆い噴き上がる紅蓮の爆炎。

 巨大な炎の柱が、ぐぶおおおお! と、轟音とともに天高く突き立ち、灰色のキノコ雲が、どこまでもどこまでも空へと伸び上がってゆく。

 モンスターたちは、一撃で、灰すら残さず消え去った。

 激しい爆風で、わたしのスカートも思いっきりまくれ上がったけど、誰も見てないからよし。

 ……これでルリマスの街も、当分は安全でしょう。

 はー。久々の最強魔法で、気分もスッキリ。進路もクリア。

 ついでに街道の石畳まで吹っ飛んで、ちょっと爆心点がクレーターみたいになっちゃったけど。明らかに、やりすぎたけど。うん、気にしない。

 これ、補修にどんくらいおカネかかるのかなーとか深く考えたら怖くなるので考えない。

 侯爵家はとってもおカネ持ちのはず。これくらい、余裕でどうとでもしてくれるでしょう。そう思うようにしましょう。

 よし、先を急ごう。目指すルリマスの街は、もうすぐだ。





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