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No.68 第22話『献花』-4



「殺されたくなかったんだろうな……そっからは必死で知ってること全部吐いてた。お前から金もらって、下流階級の施設へ侵入して虐殺する取引したってさ」

「……!」

「あとは何だっけ。……ああ。コネで18歳から警察官になって?13年間下流階級の女児を殺して遊んでたとか何とか…聞いてもない生い立ちまで懺悔し始めた。よっぽど怖かったんだろ…俺に仕事されんのが」


持っていた警察手帳をゴミ収集車の後方に投げ入れる。

まるで普段の仕事を熟すかのように処理され、警察手帳は騒音と共に収集車の奥へと消えていった。


「ここまで話したら察してるだろうけど、念のため伝えとくな?」

「……。」

「俺の質問には正直に答えろ。嘘はすぐに殺されると思え」

「ッ……」


本当のことを話したところで、俺も警察官と同じように始末されるんだろう。

男の質問に答えて、最後まで話し終えた瞬間に殺されるのが目に見えている。


かと言って拷問に堪えられるほど信念があるわけでもなく痛みに強いわけでもない。

肉体的苦痛を与えられれば終わりだ。全てが詰んでる。


悟った未来に絶望して口を閉ざしていると、男が再び俺の前へと屈んで囁いてきた。


「なんで俺がパスワードについて気付けたかわかるか?」

「パスワード?…………ッ!まさか」


画面に表示されている文字を読んで仕組みを理解し、画面操作が出来なければロック解除なんて発想は下流階級の人間に出てくるわけがない。


だとすると、パスワードについて尋ねてきたのは……


「下流階級の、人間じゃない…」

「そうそう、俺にも中流階級の協力者がいる」


冷めた表情のまま見下ろしていた男が、俺の胸倉を掴んで上半身を持ち上げてくる。

身動き出来ず為す術がないまま間近で視線を合わせると、更に冷え切った表情で言い放たれた。


「で、ここからが本題な。下流階級だと思って舐めてるとお前もあいつみてェに始末するけど、本当のことを話せば逃がしてやる。俺の協力者…中流階級の人間のところに」

「ッ…?!本当、なのか…」

「生き延びられる可能性出てきたろ?答える気になったか?」


なら全部話せ。俺がこれから聞くこと全部だ。


そうはっきり脅された後、男からの尋問は何時間も続いた。

逃がしてもらえる可能性に賭けるしか方法はなく、ただひたすら尋ねられたことにボソボソと答えていく。


金儲けで動画撮影をしていたこと、俺が所属している犯罪組織のこと、カメラのロック解除方法、組織内で使用しているパスワード、組織に所属している他のメンバーについて、クライアント向けに動画を公開している裏サイトについて。


他にも山ほど尋ねられたが、話すと確実にまずい内容は主にこれだろう。

俺が逃げられたとしても、組織にバレればかなり危うい。他国に逃げるべきかと思考を巡らせていると、男がある1つの動画を視聴し始めた。


先日遊郭内で撮影した、八の仕上げ動画。

まだ編集が一切済んでいないそれを大音量で再生して、黙ったまま床に腰を下ろし集中し始める。


聞こえてきた音から察するに、八が俺と遊女の部屋へ乗り込んできた辺りから息絶えるまでの映像を、一度も止めることなく再生しているようだった。


数時間視聴を終えた後、何も言葉を発することなくその場から立ち上がり、俺の背後へと回ってくる。

何をする気だと身体を強張らせていると、顏の見えない状態で低く囁かれた。


「……お前を自由にしてやる」

「…?!」


急に拘束を解かれて、手足が自由になる。

意味が分からず混乱して、即座に男から距離をとり、様子を覗いながら後退りした。


「急に…何で……」

「全部話せば逃がしてやるって約束だろ。……さっき言ってた中流階級の協力者がすぐ外にいる。さっさと行けよ」


目線を逸らしながら発せられた言葉に、思わず口角が上がって歓喜する。

助かる。逃げられる。この男が底なしの馬鹿で助かった!


一目散に扉へと駆け出して、外の様子を確認する。

協力者とかいう中流階級の奴がいても、拘束されてなければ振り切って逃げられる。


そう思い、意を決して扉の外に出たはずが、倉庫と同じく人の気配は全く感じられなかった。


「……誰も、いない…」


何かおかしい。

察した瞬間だった。


「ぐあああああ゛ッ」


後ろから響いてきた銃声に、右足が痛みで動かなくなる感覚。

咄嗟に左足で身体を支えようとしたが、それも空しく2度目の銃声で機能しなくなりコンクリートの地面へと倒れ込んだ。


「あああああ゛ッ!!」

「……なんでお前はこんなこと平気で出来んだろうな」

「足ッ!あ、し…がッ」

「足…?ああ……でもお前が身請けしてやるって騙して殺した女は、こんな程度の遺体じゃなかったけどな」

「は、八…ッ、八のことか?!悪かった!!悪かったから頼む!許してくれッ!!」

「……もういい。もう謝んな」


お前の謝罪に意味なんて何もねェよ。


そう小さく発しながら、銃口を眉間に突き付けられる。

撃たれた両足の痛みと死への恐怖で震える中、男が低く低く言い放った。


「自由にしてもらえるって期待して、殺される……女の疑似体験どうだった?」


俺は最悪の気分だよ。


そう最期に聞こえてきた男の声はひどく疲弊していて、

最期に見た男の顏は、苦虫を嚙み潰したような表情だった。

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