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第53話

 テレビ電話が終わってすぐのこと。妙な気配がした。


 胸の奥底がざわつき、全身の産毛が逆立つ


 綾斗はタワーに促されるままに塔のタロットカードを解放する。


 次の瞬間、閃光がクルーザーを襲った。


 その閃光の原因がタロットの魔法を発動した際に現れる発光現象ではない。光の源はクルーザーの外だった。


 瞬きする間もなく、船全体が、いや、海全体が大きく揺れた。もともと海には波があるのだから当然のことなのだが、そんなレベルではない。海溝深くで地震が起きたかのように海が荒れ狂い、船も縦横無尽に激しく揺さぶられ、窓には何度も海水が勢いよく叩きつけられている。


 一同は甲板に出て外の様子を確認する。そして、驚愕した。


「アレって……」

「ドラゴン?」


 秋蘭と冬香が言うと夏目が首を横に振る。


「ドラゴンには翼がありますが、アレにはありません」

「ってことは龍だね。アハハ、ほんとタロットの魔獣って凄いね」


 軽口を叩くように春菜が言うがその額には冷や汗をかいている。


 新葉は他の姉妹同様に何か反応するかと思いきや特に何も言わず奥歯を噛み締めている。


 綾斗は左腕を吊るしていた三角巾を乱雑に解き、そのまま吹き荒れる暴風にゆだねる。瞬く間に飛ばされた三角巾は海面につくや沈んでしまった。


「タワーの発動があと少し遅れていたら船は粉々だったかもしれませんね」


 夏目は綾斗の右手に装備されたタワーの盾を見て言う。今も尚、船を中心に巨大な球体型の魔力防壁が張られている。


「グウウン」


 一同は目を見開く。


 笑った。


 龍が笑ったのだ。そのまま龍の首が真っ直ぐ船の方へと向き唸り声を上げる。すると肉食獣を思わせる牙の隙間から金色に輝く光が閃き始める。それは段々と激しさを増していき、それに応じて龍は首を引く。まるで弓を射る前の弦を絞る動作を首でしているようだ。その行為が意味することはもちろん勢い付けだ。


『不味いよ、綾斗!』

『奴はエンペラー。タロットカードの中で最強の一撃、且つ、砲撃を放つことができる攻撃特化のカードや!』


 タワーの警告とサンの解説に一同は息を呑む。


 そして、エンペラーは勢いよく首を突き出し、同時に口を大きく開ける。放たれた最強の一撃、且つ、砲撃は眩い金色の閃光を纏い、目にも映らぬ速さで船目掛けて突っ込んでくる。


「真名解放――『王都不滅の城壁キャメロット・キングダム』――ッ!」


 綾斗は真名を叫ぶや右腕に装着されたタワーの盾を前方に射出する。


 すると円盤状の盾が光り輝き内側から弾け、強大で莫大な魔力で象られた断崖絶壁とも言える半透明の城壁が姿を現す。その大きさは四階建てのビルと同等の高さを誇り、おとぎ話や漫画やアニメに出てくる王都を外敵から守る不落の城壁そのものだ。タロットカードの中で最高峰の絶対守護を冠する魔力防壁。それがタワーのタロットカードの魔法だ。


 最強の一撃対最高峰の絶対守護防壁。


 次の瞬間、海が空が全身が震えた。鼓膜が破れるんじゃないかと思わせるほどの轟音がこの場にいる全員に襲い掛かり、脊髄が震え上がった。そして、少年と彼女たちを驚愕させた。最強と最高峰が衝突した衝撃によって海どころか空間すらも隔ててしまったのだ。


 瞬間的に起きたその現象によって空間ごと弾かれた海と空は、元の場所に戻ろうとするため互いにぶつかり合い、高波を起こし、突風が渦を巻いて巨大な竜巻となり吹き荒れる。まさに天変地異の如き狂乱が綾斗たちを襲った。


 もちろん乗組員を襲ったのだから彼等彼女等が乗る船も例外ではない。


 綾斗が展開した最高峰の絶対守護防壁は船が縦横無尽に揺れた衝撃で少年自体がバランスを崩してしまい消滅してしまった。さらに船は未だおさまることを知らない天災によってあっという間に転覆してしまった。


 六人は抵抗も虚しく海に投げ出されてしまった。


 綾斗は海中で薄れ行く意識の中、五つ子の誰かの手を掴み、そのまま海中にできた渦に呑まれて完全に意識を失ってしまった。


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