笹野さんの結婚式を終えて戻って来た俺たちは、早速美馬からもらったデータを聞いてみた。
言ってた通りにバッチリと二人の声が入っている。
「まず複製を作ります」
「そうだな。それから東堂課長と当麻さんにも共有しよう」
「弁護士も必要になるだろうし……でも本当にいいのか?湯井沢」
「うん、……でも最後に湯井沢家の面々に会いたい」
「……そりゃそうだよな。仮とはいえしばらく一緒に暮らしてたんだし」
「違うよ?」
「ん?」
「あいつらの悔しがる顔が見たいだけ」
「そ、そうか、それなら良かった」
彼らを路頭に迷わせることに少しでも躊躇いがあるのならやめようと言うつもりだった。けれど湯井沢の気持ちはもう本当に彼らには無いのだ。
「面白そうだから俺も行きたい」
「いいね!一緒に行こう!」
湯井沢が証拠のデータや写真を全てコピーして楽しそうに封筒に詰め出した。それを見ていると段々と俺も面白くなって来る。
「後悔してもらおう。こんな賢くてよく出来た息子を捨てるような真似をした事を」
「ふふっ早速約束取り付けるね。あいつら飛びついてくると思うよ」
湯井沢のその言葉通り、会いたいと言った連絡に彼らは今すぐにでも!と返事を返してきた。
翌日、二人で湯井沢の実家を訪ねた。
以前とは違い、俺たちの気配だけで湯井沢の両親が転がるように玄関に出て来て俺たちを出迎えてくれる。
美恵子さんは隠す事をやめたのか派手な身なりのままで。そして初めて会う父親はどことなく湯井沢に似ていて少し胸が痛んだ。
案内されたリビングでは湯井沢の弟が不貞腐れた顔でソファに寝転んでる。父親がそれを怒鳴りながら蹴り飛ばした事に驚いたが、蹴られた弟はもっと驚いたのだろう。かなりショックを受けた顔で部屋を後にした。
……よほど今まで甘やかされて来たんだろう。信じられないものを見るような目で父親を見ていたが、これからもっと信じられない目に遭うのだから予行演習としては上等だ。
「久しぶりだな浩之、元気にしてたか?」
「はい」
「いやー会いたいなんて言ってくれて父さんはとても嬉しい。今までお前のために良かれと思い、厳しく育てたがすっかり立派になって父さんは嬉しいぞ」
「はい」
……湯井沢全然聞いてない。
「ところで今日来たのは前に母さんから頼まれた別荘の件だろう?今住んでるマンションも売って帰ってくるんだって?これから一緒に暮らせるのが楽しみだよ」
「……まあその件ではあるんですが、他にも色々とお伝えしないといけないことがあります」
「他にも?他にも何か不動産を持ってるのか?それは助かる!ありがとう!」
俺は驚愕した。なんて都合のいい考え方をする人なんだろう!!
少し似てるなんて言ってごめん、湯井沢。金のことしか頭にない卑しい顔をした守銭奴とお前は似ても似つかないよ。
「その前に、このあいだ僕が入院したのはご存知ですか?」
「え?いや、知らなかった。どこか悪いのか?保険は入ってるか?受取人は誰だ?」
この親父!本当に最低だな。最低過ぎてテレビの中のコントを見てる気分だ。
「いえ、原因は美恵子さんがご存知かと思いますが」
湯井沢の言葉に美恵子夫人がびくりと分かりやすく肩を揺らした。
「?美恵子?知ってたのか?どうして俺に言わなかった?」
「え?あの、私は何も知りません……」
「美恵子さん、愛人に指示して部下を使い、僕の部屋に入りましたよね」
「……愛人?美恵子なんの話だ」
おおっ!面白くなって来ました!
「あっ愛人だなんてやめてちょうだい。ひろくんは冗談が好きなんだから~。あなた、ほら私の秘書のことよ!勘違いしないで」
そこですかさず湯井沢が手元の封筒から写真を取り出した。
そこにはホテル街で抱き合っている二人や、家の中で半裸で睦み合っている見苦しい姿が写っている。
……当麻さん、これどうやって撮ったの?
「美恵子……!」
「きゃあっ!なに?合成よ!こんなの偽物だわ!」
ヒステリックに叫びながら写真をビリビリと破く美恵子さん。合成なら破く必要ないですよね。
「そんなことより!別荘の話をしましょうよ。それが一番大切なことでしょう?」
「……確かにそうだな。この件は後でじっくりお前に聞くことにしよう」
「ひっ……」
妻の不倫より金の話か。本当に湯井沢と血が繋がってるのか疑わしくなって来た。
「その話ですが、まずあの別荘で火事を起こしたのは美恵子さんですよね」
「何を言って……」
「正直に話してくれたら僕も前向きに考えます」
「……え?」
「確かにあんな遠くにある別荘、いらないかなって。燃やしちゃえば解体費用もかからないし保険もかけてたんでしょ?一石二鳥のすごい計画で尊敬します」
「え?そう?まあそうね、あれは一番の方法だと思ったわ。保険金もね、早速振り込まれたの。満額よ?それだけでも焼け跡の片付けでお釣りが来るわ」
得意げにそう語る美恵子さん。録音してるとも知らないで。
火事の件だけは証拠がなかったんだよね。
「それで?どうして美馬を犯人にしたんです?」
「あいつは使えない奴だったのよ。本当に文句ばっかりで。だから犯罪に加担させて言うこと聞かせようと思ったのに逃げたのよね。絶対見つけて捕まえてやるわ」
薄ら笑いを浮かべる美恵子さんの顔はとても醜悪で、以前会った時とは比べ物にならない様子に心底げんなりする。それは湯井沢も同じだったようだ。
「父さんにも聞きたいことがあるんですが」