「浩之!何てことすんの!甘い顔したら付け上がって……!あんたなんて最初から自分の子だと思ってなかったわよ!あの女と一緒で邪魔で邪魔で仕方なかったんだから!黙って言うことを聞いてればいいのに!」
「本性を現したね」
怒り狂っている美恵子さんとは裏腹に湯井沢は落ち着きを払い薄ら笑いさえ浮かべている。俺は固唾をのんで事の成り行きを見守った。
「な……なによ!昔はちょっと優しくしただけで懐いたくせに!私のほうが先に彼と付き合っていたのよ!?あんた達がいなきゃ最初から私がこの人と結婚出来たのに!」
……やっぱりそうだったのか。
弟とほとんど年が変わらないはずだ。
「なあ一つだけ教えてくれよ」
湯井沢は彼女の言葉には何の反応もしない。ただまっすぐに彼女を見据えている。
「な、なによ……」
「母さんを殺したのはあんたら二人だよね?」
「……!」
美恵子さんはただ黙って湯井沢を睨みつける。その顔ですべてを理解した湯井沢は、彼女に近づいて渾身の力でその横っ面を張り飛ばした。
「ぎゃあああっ!!」
軽く吹き飛んだ美恵子さんは頬を抑え、信じられないというような顔をして湯井沢を見つめた。その表情にはありありと恐れが浮かんでいる。
「女だから殴られないと思った?これは母さんからだよ」
「ひっ……」
湯井はきっと母親似なんだろう。だって父親とは似ても似つかないから。その湯井沢からそんな事を言われたらもう黙らざるを得ない。美恵子さんは黙って唇を噛み、俯く。
「必ず罪は償わせるから覚悟してて」