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126話 湯井沢家の末路

二人で揃って紙の束を覗き込むと、美恵子さんが起訴されたという文字が飛び込んできた。


「次は裁判か。藤堂先生、継母は執行猶予付きそう?そんな話あった?」


「あー。談合の件だけなら執行猶予案件だったけど、ひろくんに毒を盛った件とかひろくんのお母さんの事故に怪しい点があるとか、ひっくるめて実刑は決まりだって言ってたよ」


「だよなあ。渡と親父は?」


「弁護士と検察はどっちも全力で潰しにかかるって言ってたけど、渡はともかく、親父さんは最悪不起訴かな。あんまり母親の悪事にも直接は関わってなかったみたいだし。後はひろくんのお母さんの件でもっと確実な証拠が出れば上手く進むんだけど」


「そっか……継母の愛人は捕まったのかな。権利書再発行できないって言われたから返して欲しいんだけど」


「ひろくん何か軽いな……」


確かに貸した本を返して欲しいくらいのテンションだ。まあ、権利書単体では何も出来ないらしいし、所有者移転の動きは今のところないみたいだけど……。

それより浩之を拉致して暴力を振るったことはまだ許してないからな。


「あ、弁護士から電話だ。ちょっと待って。もしもし?」


「……なんか動きがあったのかな」


「愛人捕まった?」


俺たちはボソボソと小声で話しながら耳を澄ませて電話の声を盗み聞きする。いい報告ならいいんだけど。そんなことを思いながら。


「ええ、分かりました。じゃあ伝えます。後はよろしく」


「藤堂先生、弁護士は何て?」


「愛人が捕まったって」


「おお!!」


ようやくこれでまた一歩、解決に近づいた。


「ひろくんのタリウムの件だけどさ、愛人の供述によると継母が部下にやらせたらしい。しかも急に大量摂取したら不審に思われるからって、二回に分けて忍び込んで水に入れてたらしいよ」


なんだ。愛人が実行犯だと思ってたけど違うのか。それにしても部下にやらせるって。仕事の部下だろ?それなのに……


「二回も……」


「ひろくんと健斗くん、飲む水の種類違ってたんだって?」


「そうなんです。浩之は硬水が好きなんですけど、あれ俺はイマイチ好きじゃないんですよね」


「それを知っての犯行だ。近しい人間が情報を漏らさないと難しいよね?ところで君たちに聞きたいことがあるんだ。前に美馬くんが消えたって話あったよね?もしかしてあれから彼に会った?」


「……」


美馬ぁあ!!なんであんなに世話になってたくせに東堂先生のとこには現れてないんだよ!!そのせいで俺が怒られるだろうが!!


「えっと……」


「やっぱり会ったんだね?」


「……はい」


藤堂先生は知ってたのか。


「まあ、カードキーは製造メーカーじゃなきゃ複製出来ないし、忍び込むなんて普通に無理だもんな。暗証番号をどこかから探しだして教えたのかな。留守の時間を知る為に盗聴器仕掛けたとか?悪い奴じゃないと思うけど馬鹿だよね。本格的な犯罪に巻き込まれそうになってやばいと思って逃げたんじゃないの?」


「……え?怖……じゃない、さすがですね。その通りです」


ある意味、美馬を一番分かっていたのはこの人だったんだと思う。


「どうしてすぐ教えてくれなかったんだ。追いかけて捕まえることも出来たのに」


「……そうなんですけど」


俺はちらりと浩之を見た。


「ある意味あいつも被害者だからね。うちの親にいいように使い捨てられて火事の犯人に仕立て上げられたんだから」


「……悪ぶってたけど反省もしてました。それに浩之の事が好きだったのはきっと本当だったと思うんです」


「二人とも甘いなあ。それでも被害を被ったことには変わりないのに」


藤堂先生は肩をすくめてため息を吐く。分かるよ。分かるんだけど、あいつの芝居を見に行って、どのくらい俳優って仕事に必死で取り組んでるか分かったから。大事にしてその芽を摘んでしまうのが忍びなかったんだ。


「何にせよ俺に黙って消えたのが許せない」


「あの時は美恵子さんに追われてたそうです。捕まったらなにされるか分かんないですし」


海外に行くと言ってた気がするが、湯井沢一家が捕まった今となっては帰って来ても問題ないだろう。そのニュースはあいつの耳に入っただろうか。


「まああいつの事はいずれ片をつけるとして。……美恵子夫人がもうすぐ保釈されるらしいよ。ひろくんに会いたいって騒いでたから気を付けて。まあ、もし会いに来たら留置所にとんぼ返りだけどね」


「……顔も見たくないんですけど」


「だよねぇ」


当たり前だ。彼らとの別れはとっくに済んでる。


「浩之、もし会う事があるなら俺も同席するからな」


「うん。でも会わないよ。もう籍も抜けたし」


「そうだよな。もう浩之はうちの子だもんな」


「子って言うな」


「ふふふっ」


「はいはい、じゃあ今日はこの辺でお開きにしよう」


「じゃあ帰りますね。色々ありがとうございました。何かあれば教えてください。あと、ちゃんと寝てください」


「気をつけるよ、ありがとう。じゃあおやすみ」


「おやすみなさい!」


俺たちは藤堂先生に挨拶を返して帰路についた。


……それにしてもどのツラ下げて浩之に会いたいなんて言ってるんだろう。厚かましいにも程がある。


だが、俺たちはその数週間後、予想外の人物と会うことになるのだった。


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