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136話 飲み会

「なっ……なんだよ。急に」


「したくなったから」


「……そんなの許可なんかいらないだろ。したければすれば良いじゃん」


「……くっ!このツンデレめ!萌え死ぬだろうが!


「……しらないよ!もう離せ。それより佐久間さんの話だけど」


「……この状態でその話する?後じゃだめ?」


いい雰囲気が台無しじゃないか。


「対策は早めに立てておかないといけないだろ。敵は手ごわいぞ」


「それはそうなんだけど」


俺はしゅんとしながら腕の中の浩之を解放した。


「だってさ、もし朱里ちゃんが学校で健斗のことを自分の父親だって吹聴してみろよ。真魚がどれだけつらい思いすると思う?」


「まあ確かに」


そうだ……俺だけの問題じゃない。それでいじめられでもしたら大変だ。


「ごめん浩之、考えが足りなかった」


「うん、出来れば向こうの旦那さんを交えて話し合いがしたいね。可能であれば先生にも同席して貰えたら助かるんだけど」


「じゃあ早速俺が明日学校に連絡するよ、先生から先方に打診してもらおう」


「分かった」


真魚は俺たちの大事な子どもであると同時に、海と健吾くんにとっても大切な一人娘だ。ちゃんと解決して毎日楽しく学校に行けるようにしてやりたい。……これが親の気持ちというものなのだろうか。


「佐久間さんが病気かもしれない件に関しては、東堂先生の話が聞きたいな。最近会ってないから飲み会でもしようか」


「それならうちでやろうよ。僕が料理作るから。それなら真魚も実家に預けなくて良いし」


「そうだな。そういえば笹野さんが用事でこっちに来るって言ってなかった?どうせなら先輩ママさんの話も聞きたい」


「ああ、確かに。じゃあそこに合わせよう。僕が連絡とるよ」


そうして久々の飲み会は懐かしいメンバーと共に、俺たちの愛の巣で開催することになった。



※※※※※※※※※※



「えっ?!真魚ちゃん?!しばらく見ない間に大きくなったわねえ!」


「真魚もう一年生なの!」


「そっかー!やっぱり女の子は可愛いなあ」


久しぶりに会った笹野さんは家に来るなり真魚に夢中だ。まあそれは仕方ない。だって真魚は可愛いから。


「笹野さんのお子さんはいくつになりました?」


「うちは上が十五で下が十三、絶賛反抗期中よ。どっちも男だからなんの潤いもないのよね」


もうそんなになるのか……自分たちが歳をとった感覚がないからよその子どもの歳を聞くとびっくりする。


「お邪魔しまーす。遅くなってすいません」


「いらっしゃい!」


少し遅れて東堂先生と美馬も現れた。二人一緒の時でもあまり甘い雰囲気もないし、淡々としているけど、付き合い自体は続いているようだ。そのあたりはあまり突っ込むことはしないけど。


「真魚ちゃーん!お土産だよ!」


「わーい!東堂先生ありがとう!」


「今日はお人形とそのお家だよ」


「嬉しい!笹野のおねーちゃん!一緒に遊ぼ!」


真魚は東堂先生に貰った大きな箱を抱えて、笹野さんの所に走っていく。……それにしても笹野さんはいつまで自分をお姉さんと呼ばせる気なんだろうか。


「いつもすいません、東堂先生。手ぶらで来てって言ったのに」


「真魚ちゃんの喜ぶ顔見たいだけだから良いんだよ」


「俺は有名店のケーキを持ってきました。冷蔵庫に入れときますね」


「ああ、美馬もありがとう。座って食べ始めて」


「……ところで面倒な人がいるんだって?」


食事会が始まるなり、東堂先生は真魚に聞かれないように声を潜めて俺たちに話しかけて来た。俺は隣の椅子に座り、先日の佐久間さんの件を手短に話すと、東堂先生の顔が分かりやすく歪む。


「専門じゃないけど、解離性障害や統合失調症がそんな症状だよ。依存されて問題ない相手ならいいけどそうじゃなければ関わらない方がお互いの為だよ」


「やっぱり……。でも子供が同じクラスだし関わらない訳にはいかないんですよね……」


「それは難しいな」


「そうなんです。向こうの旦那さんも交えて一度話をしようとは思ってるんですが」


「その方がいいね。うちの系列病院でメンタルクリニックがあるから入院なんかあれば相談に乗るよ」


「ありがとうございます。その時はお願いします」


俺がそう言うと、隣にいた浩之もぺこりと頭を下げた。本当可愛い。


「なんだよー。本当にもう夫婦だな」


「本当に夫婦なんですから、おかしいことなんかないんですが?」


唐揚げを頬張りながらしれっと浩之がそう言うと「自分で言う?どう思う?笹野さん」と助けを求めた。けれど「いいことだと思いますよ。ちなみにうちもラブラブです」なんて返り討ちにあい、東堂先生は撃沈してしまった。


「なんだよもう。良いなみんな幸せで」


「え?東堂先生も幸せなはずじゃないんですか?」


「……まあ色々あるんだよ」


俺はチラリと隣に座る美馬を見るが、黙々とご飯を食べているだけでコチラを見ようともしない。


喧嘩でもしたのか?まあ二人にしか分からない何かはあるんだろう。


「何かあったら相談に乗りますよ。な?浩之」


「え?そんなの二人で解決しなよ」


「……お前って奴は」


ほんとブレないんだから。


「えーひろくん冷たい!真魚ちゃん!きみのパパがいじめるんだけど!……ってもう寝ちゃったの!?急すぎるだろ」


「子どもってそんなもんですよ。今でも夕食の途中でうとうとしたりしますもん」


はしゃぎ過ぎたのか、真魚はぐっすり眠ってしまっていた。俺は真魚を寝室に連れて行き、着替えさせて布団に寝かせてからリビングに戻った。


「お疲れ様ー」


「ああ、着替えさせても全然起きなかったよ」


浩之が俺のグラスにビールを注いでくれる。これからは大人の時間だ。


「子どもって可愛いけど大変じゃないか?まあ俺なんて周りにもいないし想像も出来ないけどさ」


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