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137話 真魚の行方

「確かに大変なことは沢山ありますね。真魚は手がかからないいい子ですが、俺たちは普通の夫婦じゃないのでそこは心配してます。まあ真魚のお父さんの事は近所の人は知ってますし、実家が総出でサポートしてるって分かって貰えてるから、俺たち二人で行事に参加してても特に変な目は向けられませんけど。……でもこれがもっと真魚が大きくなって、生きる世界が広がったらそのうち何か言われそうな気はします」


その時に周りに何と言うか。海外にいるお母さんから預かってるとだけ伝えるのか、それとも俺たちの関係も話して聞かせるのか。話した場合、友達や周りの人に言っちゃいけないと口止めをするのかしないのか。


「恥ずかしい事じゃないし、隠す必要ないんじゃないですか」


美馬がぽつりとそう言うが、ことは簡単じゃない。


「僕はやっぱり心配かな。だから真魚に話すなら慎重に時期を選びたい」


「俺もそれは同感だな。真魚には話すけど、ある程度大きくなってから。周りの人には付き合っていくうちに自然と気付いて貰えて触れないでいてもらえるのがベストかなあ」


理解のある人ばかりじゃない。口さがない者が広めた悪意のある噂で真魚を傷つけたくはない。


「そうよねえ。普通の家庭でも友達関係はこじれたりするもの」


「笹野さんの所も?」


「そうね小さいうちはよくケンカして謝りに行ったり、来られたり……」


「そうなんですか。子供はみんな一緒なんですね」


「そうそう。だから過剰に心配は不要よ」


「先輩ママ頼もしいです!」


「ほほっ、なんでも聞いて。でもね、さっきチラッと聞こえたけど色々な人がいるから気をつけてね?真魚ちゃんもいるんだから慎重に行動するのよ?弱いものから狙われるんだから」


「気をつけます。笹野さん」


……この問題は思ったより難しそうだ、最優先で解決しよう。




※※※※※※※※※※


翌日から、どちらかが定時丁度で退勤し、真魚を学校まで迎えに行く事にした。

真魚は授業が終わったあと、学童保育という校内にある預かり施設に入ることになったので、十七時までは安全に過ごせる。担任の先生に相談して迎えに行くまで誰かが側にいてくれる事になったので、一人になることはないはずだ。

そして今日は俺の番。

バタバタと後片付けをして急いで学校に向かった。


「今日はお父さんだ!おかえりなさい!」


「本当ね。沢渡さんお疲れ様です」


今日は担任の先生がついていてくれたようで、一緒に宿題をして待っていてくれたらしい。俺はお礼を言って真魚を抱き上げた。


「沢渡さん、佐久間さんとの面談の件ですが、佐久間さんのご主人がしばらく都合がつかないそうで……」


「あー。……それは仕方ないですね」


本音を言えばさっさと片付けたい。朱里ちゃんからの目に見える意地悪はなくなったようだが、目が合うたびに睨まれると真魚が悲しそうに話していたのだ。


「あっ!みなみくんだ!お父さん真魚もみなみくんと鉄棒で遊びたい!」


抱っこされているのが嫌なのか、真魚がバタバタと手足を動かすので、俺は仕方なく真魚を地面に下ろした。


「いいけどもうすぐパパも帰って来るから少しだけな」


「はーい!」


真魚は俺の腕からするりと抜け出し、友達の元に駆けていく。……以前は俺や浩之にべったりだったのにと思うと、大きくなったという感慨深さを感じる反面、取り残されたような寂しさを感じる。


「……あの、沢渡さん。少しだけお時間いいですか?」


「ええ、構いませんよ」


担任の先生は「個人的な事なので、ここだけの話にして欲しいんですが……」そんな前置きをしながら、俺に佐久間さんの状況や人となりを話してくれた。


それによると、佐久間さんの実家はそこそこの資産家で、旦那さんは婿養子らしい。にもかかわらず、その婿養子は結婚当初から派手な散財と女遊びが有名で佐久間さんは肩身の狭い思いをしているようだ。最近では彼女の実家でもその放蕩ぶりが知られるところとなり、見放されつつあると言う。


「そのせいで少しお疲れになり、あのような行動に出られたのかと……」


「そうですか……。ちなみになんですが、あの話は事実無根ですから。佐久間さんとは中学の時以来、会ったこともありません」


「大丈夫です、きちんと分かっています。最近、他の保護者の方からも色々とお話を聞く機会がありまして……」


さすがにその内容までは言えないのだろう。先生が言葉を濁す。だがどんな事情があったとしても、他人の家庭を壊して良い訳がない。これが普通の夫婦なら夫はとんでもない濡れ衣を着せられて離婚案件にもなりうるのだから。



「学校内では今まで以上に真魚ちゃんと朱里ちゃんから目を離さないようにいたします」


「お願いします。うちも落ち着くまでは今のように迎えに来ますので。……ではもう遅いので今日はこれで」


「はい。……あら?真魚ちゃんは!?」


「え?」


振り向くと、さっきまで鉄棒で遊んでいた真魚の姿がない。


「真魚!」


そこにいた子供達に聞いてみるが、見てないと言う。肝心のみなみくんとやらも、鉄棒に飽きて他の子とドッジボールに興じていたらしく、真魚のことは知らないと言われた。


「どこに行ったんだ……」


「私は裏庭を探します!他の先生にも声をかけますので!」


「はい!よろしくお願いします!」


そうして俺たちは必死で校内を走り回って真魚の姿を探した。

けれど結局、学校中を探しても大切な娘の姿を見つけることは出来なかった。


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