目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

【魔女集会の日 2】

 やがて夕日が沈んでいき、空が闇に染まっていく。

 ティアナの後ろを追う形で、エシカ達は魔女集会の場所へと向かった。


 民家のある場所を抜けて、森の方へと入る。

 何か結界のようなもので、その場所は封じ込められているみたいだった。


 空間が引き裂かれていく。


 森の中に、別世界へと行く入り口のようなものが現れる。

 ふと、その入り口の近くには魔女ディーバが佇んでいた。

 彼女はエシカを一瞥すると、先に裂け目の入り口の中へと入る。


 気が付くと、奇妙な場所に辿り着いていた。

 そこは一般的な民家の大きな部屋のような場所だった。


 既に、何名かの者達が椅子に座ってそこにはいた。

 エシカが此処、数日の間に顔を見ていない者もいた。


 美しく輝くオレンジ色の髪を靡かせている女性だった。


「私の名前はアティラ。光の精霊達と契約しているんだ」

 名を名乗った女性は、にっこりとエシカに微笑みかける。

 アティラの隣には、ヴォルディとディーバがいた。


 しばらくして、ヒルデが現れる。

 彼女は何処か虚空を眺めながら、楽しそうに鼻歌を歌っていた。


 部屋の中には、燭台の焔によって明かりが灯されていた。


「では。始めましょうか。魔女集会を」

 ディーバが告げる。


 一つのテーブルを囲って、部屋の者達はそれぞれの魔法を見せ合う集会。


 最初に自身の魔法を見せる事になったのは、ティアナだった。彼女は占い道具を取り出す。水晶に魔法石。そしてタロット・カード。


 ティアナはカードを取り出していく。

 そして、ティアナはそれぞれ、この席に付いている者達の未来を占っていった。そして過去に起こった出来事なども。リシュアとエシカは、ティアナの占いをぼうっと見ていた。部屋の中にいる者達は、ティアナの占いに関して関心を寄せている。


「また腕をあげたわね。ダルードも素晴らしいと言っているわよ」

 ディーバはくくっ、と笑う。


「あたしはあんたの占いに従って、明日以降に西に行くのを止めるよ。かなりの危険が待ち受けているんだろう?」

 ヴォルディはティアナの占いを楽しんでいるみたいだった。


 そして、それぞれティアナの話に納得して、次は別の人間が魔法を広める事になる。


 今度は、アティラという女だった。

 彼女は掌から、何かを生み出していく。

 それは、光で紡がれた犬や猫達だった。狐やタヌキもいる。それらが空中に浮かびながら、部屋中を駆けずり回っていた。


「やはり、素晴らしいわ。貴方の魔法は、見る者の心を落ち着かせる」

 ディーバは賞賛の言葉を贈る。


「ありがとう。光の精霊達も貴方達と会えて喜んでいるみたいだよ」

 アティラは嬉しそうに言った。


 そして、次は獣使いであるヴォルディの番だった。彼女は掌から無数の鳥を出して、無数の鳥を操り、空中に鳥で魔方陣を描いていく。それは見る者全てがうなるような光景だった。


 そして、次はヒルデの番だった。

 ヒルデは近くにある蝋燭の焔を吹き消す。


 すると、宇宙空間のような場所にみな、飛ばされていく。

 そして、空には様々な星々が煌めいていた。

 ヒルデは更に空に線を引いて、星座を作っていく。

 様々な神話の怪物や英雄達の星座が生まれていく。


 そして、ヒルデの魔法のお披露目も終わった。


 そして、エシカの番になった。

 エシカは炎の魔法を使って、時計を作ってみる事にした。

 エシカは十二個の焔を生み出して、宙に時計を描いていく。真ん中に細長い炎を三つ程、生み出した。中々、難しかったが、上手くいった。時計はくるくると秒針を刻み始め、周りにいる者達みなを驚かせてくれた。


 ディーバはそれを見て拍手を送る。


「素晴らしいわ。新参さん。貴方の火時計。確かに見せていただいたわ」


 そして、最後はディーバの番だ。


「最後は、私か。でも、私の魔法の性質上、他者に悪意を向ける力が強いのよね。何とかそれを制御して、心地良い時間を作らないといけないわね」


 気付くと、ディーバの背後に何者かが立っていた。

 あのシャベルを手にした、頭に角のある悪魔だ。悪魔ダルード。


 みな、酷い眠気に襲われたみたいだった。

 ティアナもヴォルディも、みな、次々と眠っていく。


「私は夢を支配する事が出来る魔女なの」


 エシカも眠気に耐え切れず、眠りに付いた。


 気付けば、みな、同じ夢の中にいた。


「ふふっ。これが私の魔法。去年は、みな、各々、自分自身の影と向き合う事になったわね。今年もそういう催しにしようかしら?」


「相変わらず、少し趣味が悪いわね。みな、自分の苦しみ。影は見たくないものなのに」

 ティアナが抗議の声を上げる。


「そう。では、止めておこうかしら。では。現実世界に戻すわよ」

 そう言って、ディーバは指先を鳴らす。


 気が付くと、エシカは夢の中から出ていた。


 そして、最後に、みな互いの魔法を褒め合って、魔女集会は終わった。


 何て事は無い。魔法使い同士の交流会だった。


 後は用意された、豪勢な料理やワインが振舞われ、今年の魔女集会も無事、終わりを告げたのだった。


「凄い魔法だったわよ。貴方の魔法」

 光の精霊を使う、アティラから、エシカは声を掛けられる。


「いえ。アティラさんの方こそ、とっても凄い魔法でしたっ! この部屋全体に、光の精霊達が駆けまわっていてっ!」


「そう。嬉しいわ。私、普段は劇団員もやっているの。それでショーを行う事もあるわ。観客達は、精霊達を見て、凄く嬉しそうな顔をする。私は彼らが喜ぶ顔がとても嬉しいの」


「はい。本当に、アティラさんは、人を楽しませる事が好きなんだろうなあ、って見てて思いましたっ!」

 エシカは屈託ない笑みを浮かべる。

 実際、アティラからは、ディーバやヒルデのような不気味さや悪意はまるで感じなかった。純粋にエシカは彼女に好感を持った。


 やがて夜は更けていく。

 みな、色々な雑談をしていた。

 これまでの旅路の事や、普段の生活の事。

 気付けば、ラベンダーもリシュアも、魔女達に溶け込んでいた。


 エシカは、魔女集会に参加出来て、本当に良かったと思った。


 ヴォルディが酔った勢いで、リシュアに抱き付く。それを見てエシカが嫉妬して、ヴォルディとしばし口論になった。

 それを見てラベンダーが爆笑していた。


「なんで、笑っているんですか? ラベンダーッ!」

 エシカは怒り出す。


<いや。女の嫉妬は怖いなと思ってな>


 そう言うと、ラベンダーは天井付近を飛び回り、エシカのもとから離れていく。


「もうっ! 炎の魔法をぶつけますよ!」

 そんなエシカの反応を見て、光の精霊使いであるアティラが笑い転げていた。


 相変わらず、ヒルデは何を考えているか分からなかったが、ディーバは酒の席では本当に楽しそうにしていた。意外と気さくに話せる女性なのかもしれない。


「貴方達、早く結婚すればいいと思うわ」

 ディーバがそう言うと、エシカは真っ白になる。結婚? エシカにはちょっとよく分からない感覚を持つ言葉だった。


 そうして、みな笑い合いながら、ペイガンの夜は更けていった。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?