やがて夕日が沈んでいき、空が闇に染まっていく。
ティアナの後ろを追う形で、エシカ達は魔女集会の場所へと向かった。
民家のある場所を抜けて、森の方へと入る。
何か結界のようなもので、その場所は封じ込められているみたいだった。
空間が引き裂かれていく。
森の中に、別世界へと行く入り口のようなものが現れる。
ふと、その入り口の近くには魔女ディーバが佇んでいた。
彼女はエシカを一瞥すると、先に裂け目の入り口の中へと入る。
気が付くと、奇妙な場所に辿り着いていた。
そこは一般的な民家の大きな部屋のような場所だった。
既に、何名かの者達が椅子に座ってそこにはいた。
エシカが此処、数日の間に顔を見ていない者もいた。
美しく輝くオレンジ色の髪を靡かせている女性だった。
「私の名前はアティラ。光の精霊達と契約しているんだ」
名を名乗った女性は、にっこりとエシカに微笑みかける。
アティラの隣には、ヴォルディとディーバがいた。
しばらくして、ヒルデが現れる。
彼女は何処か虚空を眺めながら、楽しそうに鼻歌を歌っていた。
部屋の中には、燭台の焔によって明かりが灯されていた。
「では。始めましょうか。魔女集会を」
ディーバが告げる。
一つのテーブルを囲って、部屋の者達はそれぞれの魔法を見せ合う集会。
最初に自身の魔法を見せる事になったのは、ティアナだった。彼女は占い道具を取り出す。水晶に魔法石。そしてタロット・カード。
ティアナはカードを取り出していく。
そして、ティアナはそれぞれ、この席に付いている者達の未来を占っていった。そして過去に起こった出来事なども。リシュアとエシカは、ティアナの占いをぼうっと見ていた。部屋の中にいる者達は、ティアナの占いに関して関心を寄せている。
「また腕をあげたわね。ダルードも素晴らしいと言っているわよ」
ディーバはくくっ、と笑う。
「あたしはあんたの占いに従って、明日以降に西に行くのを止めるよ。かなりの危険が待ち受けているんだろう?」
ヴォルディはティアナの占いを楽しんでいるみたいだった。
そして、それぞれティアナの話に納得して、次は別の人間が魔法を広める事になる。
今度は、アティラという女だった。
彼女は掌から、何かを生み出していく。
それは、光で紡がれた犬や猫達だった。狐やタヌキもいる。それらが空中に浮かびながら、部屋中を駆けずり回っていた。
「やはり、素晴らしいわ。貴方の魔法は、見る者の心を落ち着かせる」
ディーバは賞賛の言葉を贈る。
「ありがとう。光の精霊達も貴方達と会えて喜んでいるみたいだよ」
アティラは嬉しそうに言った。
そして、次は獣使いであるヴォルディの番だった。彼女は掌から無数の鳥を出して、無数の鳥を操り、空中に鳥で魔方陣を描いていく。それは見る者全てがうなるような光景だった。
そして、次はヒルデの番だった。
ヒルデは近くにある蝋燭の焔を吹き消す。
すると、宇宙空間のような場所にみな、飛ばされていく。
そして、空には様々な星々が煌めいていた。
ヒルデは更に空に線を引いて、星座を作っていく。
様々な神話の怪物や英雄達の星座が生まれていく。
そして、ヒルデの魔法のお披露目も終わった。
そして、エシカの番になった。
エシカは炎の魔法を使って、時計を作ってみる事にした。
エシカは十二個の焔を生み出して、宙に時計を描いていく。真ん中に細長い炎を三つ程、生み出した。中々、難しかったが、上手くいった。時計はくるくると秒針を刻み始め、周りにいる者達みなを驚かせてくれた。
ディーバはそれを見て拍手を送る。
「素晴らしいわ。新参さん。貴方の火時計。確かに見せていただいたわ」
そして、最後はディーバの番だ。
「最後は、私か。でも、私の魔法の性質上、他者に悪意を向ける力が強いのよね。何とかそれを制御して、心地良い時間を作らないといけないわね」
気付くと、ディーバの背後に何者かが立っていた。
あのシャベルを手にした、頭に角のある悪魔だ。悪魔ダルード。
みな、酷い眠気に襲われたみたいだった。
ティアナもヴォルディも、みな、次々と眠っていく。
「私は夢を支配する事が出来る魔女なの」
エシカも眠気に耐え切れず、眠りに付いた。
気付けば、みな、同じ夢の中にいた。
「ふふっ。これが私の魔法。去年は、みな、各々、自分自身の影と向き合う事になったわね。今年もそういう催しにしようかしら?」
「相変わらず、少し趣味が悪いわね。みな、自分の苦しみ。影は見たくないものなのに」
ティアナが抗議の声を上げる。
「そう。では、止めておこうかしら。では。現実世界に戻すわよ」
そう言って、ディーバは指先を鳴らす。
気が付くと、エシカは夢の中から出ていた。
そして、最後に、みな互いの魔法を褒め合って、魔女集会は終わった。
何て事は無い。魔法使い同士の交流会だった。
後は用意された、豪勢な料理やワインが振舞われ、今年の魔女集会も無事、終わりを告げたのだった。
「凄い魔法だったわよ。貴方の魔法」
光の精霊を使う、アティラから、エシカは声を掛けられる。
「いえ。アティラさんの方こそ、とっても凄い魔法でしたっ! この部屋全体に、光の精霊達が駆けまわっていてっ!」
「そう。嬉しいわ。私、普段は劇団員もやっているの。それでショーを行う事もあるわ。観客達は、精霊達を見て、凄く嬉しそうな顔をする。私は彼らが喜ぶ顔がとても嬉しいの」
「はい。本当に、アティラさんは、人を楽しませる事が好きなんだろうなあ、って見てて思いましたっ!」
エシカは屈託ない笑みを浮かべる。
実際、アティラからは、ディーバやヒルデのような不気味さや悪意はまるで感じなかった。純粋にエシカは彼女に好感を持った。
やがて夜は更けていく。
みな、色々な雑談をしていた。
これまでの旅路の事や、普段の生活の事。
気付けば、ラベンダーもリシュアも、魔女達に溶け込んでいた。
エシカは、魔女集会に参加出来て、本当に良かったと思った。
ヴォルディが酔った勢いで、リシュアに抱き付く。それを見てエシカが嫉妬して、ヴォルディとしばし口論になった。
それを見てラベンダーが爆笑していた。
「なんで、笑っているんですか? ラベンダーッ!」
エシカは怒り出す。
<いや。女の嫉妬は怖いなと思ってな>
そう言うと、ラベンダーは天井付近を飛び回り、エシカのもとから離れていく。
「もうっ! 炎の魔法をぶつけますよ!」
そんなエシカの反応を見て、光の精霊使いであるアティラが笑い転げていた。
相変わらず、ヒルデは何を考えているか分からなかったが、ディーバは酒の席では本当に楽しそうにしていた。意外と気さくに話せる女性なのかもしれない。
「貴方達、早く結婚すればいいと思うわ」
ディーバがそう言うと、エシカは真っ白になる。結婚? エシカにはちょっとよく分からない感覚を持つ言葉だった。
そうして、みな笑い合いながら、ペイガンの夜は更けていった。