ゴールデン・リザードを討伐した仲間として、リシュアは昼間っからドワーフ達の飲み会に誘われた。その日はドワーフ達の世界の建国記念日だとかで祝日だったそうだ。
リシュアは酒を遠慮する事にしたが、ドワーフ達は良く熟した果実酒を飲みながら、下戸であるリシュアに酒を進めていた。
「俺達は、あの強大な怪物を倒したんだ! もっと派手に祝おうぜっ!」
ドワーフの一人が叫ぶ。
ロンレーヌは部屋の隅で、食事を取っていた。普段、幽霊は食事など取る必要は無いらしいが、一応、口にする事は出来るらしい。大盛りのミートソースのパスタを食べながら、ロンレーヌは嬉しそうな表情をしていた。
ラベンダーは幾ら酒を飲んでも酔わないと言った。
ドワーフ達は赤ら顔になりながら、いきなり部屋の中でボール投げをするなどのスポーツを始めていた。少し離れた場所にあるアンダー・ワールドという街は、自分も都市開発に携わったと言っている者達もいた。
アンダー・ワールドに出稼ぎに行っているドワーフ達も多い。
「そうだ。兄ちゃん、嬢ちゃん、ちょっとお使いを頼まれてくれないか?」
ドワーフの一人が、良いながらリシュアとエシカのもとに近付いてくる。
「お使い……ですか?」
エシカは酒臭いドワーフの話を聞きながら、少し困惑していた。
「この街の端に、北西の処だな。妖精の胃袋という小さな森があるんだが、そこで花を摘んできてくれないか? “明け方のリコリス”と呼ばれる紫色をした彼岸花だ。それを見つけてきてくれると嬉しいだが」
ドワーフは、その花は、酒を造る上で、かなりの香料になるのだと言った。
「いいけど。報酬は出してくれるんだろうな?」
怪物を倒した報酬に対して不満があるリシュアはそう釘刺す。
「そうだな。持ってきてくれた分だけ、出すとするよ。ちなみに、俺は普段は酒屋の店主をしている、バードックって言う。人間の兄ちゃん、嬢ちゃん、よろしく頼むよ」
バードックはそう言うと、ぷはーっと、酒樽ごと大酒を飲み干した。
「私も行く。私も連れて行ってっ!」
ロンレーヌは席から立ちあがる。
そして、ドワーフの街の中での次の冒険が始まった。
†
バードックいわく、明け方のリコリスは、森の各所に咲いているらしい。
そこに辿り着くには、森の魔物から逃げていかなければならないが、森の奥にある小さな湖畔の辺りに咲いているそうだった。
さっそく、リシュアとエシカ。ロンレーヌの三名は、その場所に行く事になった。
ラベンダーの方は、興味が無いらしく、ドワーフ達と宴を続けていた。
ラベンダーは、ドワーフ達から小さな青い妖精と呼ばれていた。
ティアナのラベンダーに対する呼び方を想い出して、エシカは笑う。
そして、三名は街の北西の場所へと向かった。
広大な森が広がっていた。
三人は中へと入る。
一応、魔物もいるらしいから三人は警戒しながら奥へと進んでいった。
一時間程、森の奥へと進んだ頃だろうか。
人喰い花の亜種と思われる魔物が何体か現れる。
牙を持つ口。鋭い蔓を辺りに伸ばしていた。
エシカは慎重に、その怪物を避けて炎の魔法を撃とうか考えていた。
森での戦いは、山火事になる可能性がある為に、そんな事は出来ない。
リシュアが替わりに、光の刃を振っていって、人喰い花の魔物を退治していった。
そして、やがて湖が見える。
大量の紫紺の彼岸花が咲いていた。
リシュアは、手に入るだけ、それらを摘んでいく。
「あの親父がケチ臭くないと良いんだけどなあ」
リシュアはぶつぶつ言う。
「まあ。恰幅の良い方でしたから、大丈夫なんじゃないですか?」
エシカは笑う。
やがて、その日は夕暮れまで、紫色の彼岸花を摘んでいった。
あの酒場に帰る頃、ドワーフ達はまだ酒を飲んでいた。
バードックに会って、紫紺の彼岸花である明け方のリコリスを見せる。
「どうやって、この量を持ってきたんだ?」
バードックは、その量に驚いているみたいだった。
「魔法のカバンを以前、買ったんだ。大量にモノを詰め込めるようにな」
リシュアは笑う。
バードックは驚いたまま、これで美味しいドリンクを作ってやると言った。
そして、バードックは、その日のうちに、紫色の奇妙な飲み物を出してくれた。なんでも、ソーダと一緒に割った明け方のリコリスを使ったノンアルコール飲料らしい。
リシュアとエシカの二人はそれを飲みながら、不思議な味に感銘を覚える。
やがて、飲み物は、徐々に青や緑へと変化していった。
この彼岸花は、マロー・ブルーのように、徐々に色を変えていくらしい。
また、不思議な旅の想い出が出来たね、と言いながら、ロンレーヌもそのドリンクを飲み干した。どうやら、バードックには霊感があるらしく、ロンレーヌが見えているみたいだった。さりげなく、幽霊のお嬢ちゃんにも、と言って、ロンレーヌの分も彼は飲み物を作ってくれたのだった。