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第32話 (侑希side)

[どうだった?]

お寿司屋さんを出てLINEを開くと、凛からLINEが来ていた。

家族でお祝いのご飯を食べに行っていたから、合格発表があると彼女に伝えていた時間から、もう3時間も経っている。

だいぶ待たせてしまった。


大学に貼り出されたたくさんの受験番号と共に笑顔でピースした私の写真を送る。

[受かってた!!]

私の送ったメッセージは、ずっとトーク画面を見てたんじゃないかってくらい一瞬で既読がついて、すぐに、おめでとう!!と返信が来た。

[ありがとう!]

[じゃあ予定通り、明日会えそうだね]

[うん。はやく会いたい]

スマホをぎゅっと握りしめて胸に当てる。幸せとドキドキでいっぱいだった。



ーーーーーーーーー


ピーンポーン。

インターホンの音で、私は階段を駆け下りて玄関へ向かった。久しぶりのこの感覚に、自分の胸が高鳴るのが分かった。

誰が来たのかろくに確認もせずに、勢いよく扉を開くと、ずっと会いたかった人が目の前に現れた。

「おめでと、侑希。お祝いのケーキ買ってきたよ」

「そんな、わざわざいいのに。ありがとね。ほら、上がって?」

「はーい」

凛からもらったケーキを紅茶と一緒にお盆にのせて、私たちは2階へ上がった。


2人でソファーに腰かけてケーキを食べる。

「好きなケーキ分かんなかったから、ショートケーキにしといた。食べられる?」

「うん。大好き」

ケーキを口に入れると優しい甘さが口いっぱいに広がる。そのおいしさに思わず横を見ると、ちょうどこちらを向いたばっちり凛と目が合って、2人で顔を見合わせたまま、美味しいね、と笑いあった。



ケーキを食べ終わったところで、凛は急に横になると、当たり前みたいに私の膝に頭をのせてきた。私は特に抵抗することなく、そのサラサラの髪の毛を撫でてやる。

「久しぶりだね、こうやって会うの」

「うん、そうね」

「4月から侑希はひとり暮らしだよね。家は決まった?」

「うん、受験の時にお母さんが仮押さえしてくれてたところ。教えて欲しい?」

「教えてくれるの?」

「当たり前でしょ。LINEに送っとくね」

私はすぐにスマホを手に取ると、自分の新しいマンションの住所を打ち込んで、凛のLINEに送った。

「侑希が大学生なったら会える頻度減っちゃう」

「そんなことないわ。少なくとも受験期よりは時間があるだろうし」

「でも侑希はきっと、大学で新しい友達作って、私のことなんて忘れちゃうんだ」

「なーんで、そんなこと言うのよ。凛が1番大事に決まってるでしょ」

そう言うと、侑希はくるっと頭を回して、私の膝の上に頭を預けたままこちらを見上げてきた。

「ほんっと、変わったよね」

「え?」

「前から可愛かったけど、もっとかわいくなった」

「な、なにそれ」

恥ずかしくなってぷいっと顔をそらすと、すぐに頬に手を当てられた。

「へへっ、かぁいい」

凛はゆるっゆるっの笑みのまま上体を起こしてきて、いつかの時のようにそっと唇に触れた。

「ばかっ」

思わず凛をどかして、逃げるようにベットの方に向かった。そのまま布団の中に潜り込むと、すぐに追いかけてきた凛にポンポンっと布団を叩かれる。それも無視しているとベットが少し沈んで、毛布ごと抱きしめられた。


「嫌だった?」

不安げに揺れる声に申し訳なくなって、私はすぐに顔を出した。別に、本気で怒ってるわけじゃない。

ただ、この関係に名前を付けないまま、これ以上先に進みたくないだけ。

「びっくりしただけ」

「そっか」

凛は毛布に潜り込んできて、私の腰を抱き寄せた。何か始まりそうな雰囲気に、慌ててポケットに入っていたスマホを取り出す。

「前見たいって言ってた映画!あれ、今見ない?」

「うん。いいよ」

私がそう提案すると、凛は案外あっさり離れてくれた。

2人で横になったまま、交代でスマホを持ち替えて映画を見た。凛はすごく集中してたけど、私の方は、内容がほとんど入ってこなかった。



凛は案外ふらっとしている人だ。

他人に何かを押し付けることはしないし、少し目を離したらいつの間にかいなくなってしまうような、そんな雰囲気がある。

受験が終わった今日、私はもしかしたら告白されるんじゃないかと思っていた。でも、さっきのキスで、なんとなくだけどそれはないんだと悟った。

凛にとって、キスがどれだけの意味を持つのかは分からない。でも、彼女が私に少なからず好意を寄せているのは間違いないと思う。


だからもう、待つのはやめた。

来週には卒業式がある。私はその日、凛に告白すると決めた。自信はあんまりないけど、でも、何もせずに終わるのは一番いやだ。

「凛、あのね」

「ん?」

「卒業式の後、なんか予定ある?」

「ううん。1日中空いてるけど」

「じゃあさ、ちょっとお話がある」

「んー。なに?」

「今は言えないこと」

「なんだそれ笑」

凛はそれ以上深くは聞いてこなかった。ただ、笑って私の肩に頭をグリグリ押し付けてくるだけ。

その笑顔がいつもよりぎこちなく見えたのは、私の勘違いなんだろうか。


卒業式前日。

私は家から少し離れた小さな神社に来ていた。

本当は家でゆっくり過ごそうと思っていたのだが、明日の告白が不安で、テレビを見てもスマホをいじっても、なんだか落ち着かない。

それなら神頼みでもなんでも、出来ることはやってやろうと思い、神社に来たのだった。


この時期に、しかも平日の真っ昼間に来ている人は私以外に誰もいなかった。

階段を一段ずつ登っていく。一番上につく頃には、すっかり荒い息になっていた。


おみくじは、なんだか怖くて引けなかった。万が一凶なんて出たら、ショックで寝込んでしまいそうだし。


結局、お詣りだけして帰ろうとしていた時、

「あれ、月宮さん?」

突然名前を呼ばれて、私は声のした方に顔を向けた。

「遥香、ちゃん?」

「うん。名前知っててくれたんだ!」

「どうしてここに?」

「ここ、うちの神社!」

「ええっ!」

「へへっ、びっくりしたでしょ〜」

驚いた私の反応を見て、嬉しそうにそう言って笑う遥香ちゃん。神社の子だなんて、全く知らなかった。

「月宮さんは、どうしてここに?」

「えーっと、まぁ…」

苦笑いをしていると、遥香ちゃんは私の顔をじぃーっと覗き込んできた。

「月宮さんってさ、りんりんと仲いいよね」

「ふぇ?!」

突然出てきた凛の名前に驚く。みんながいるところでは一度も凛と絡んだことはないはずだけど、どうして知ってるんだろう。まさか凛が自分で言うわけないし。

「ふふっ、そんなに驚かなくても笑」

「えと、いや…」

どこまで話していいのか分からなくてモジモジしていると、遥香ちゃんが喋り始めた。

「私さ、結構前にりんりんに告ったんだけど、振られちゃった」

「え、告白したの?」

「うん、ずっと好きだったからね」

「そう、なんだ…」

「りんりん、振った理由は教えてくれなかったんだけどさ、私は絶対好きな人がいるんだろうなって思ったの。だから、潔く身を引いた。あのりんりんを夢中にさせる相手なら、私に勝ち目なんてないって思ったから」

「へぇ…」

「そっからはお互いに気まずくなっちゃってさ。まぁ、そんなもんだよね」

そう言う遥香ちゃんは寂しそうだったけど、どこか吹っ切れてるようにも見えた。

「そういえば、どうして私たちが仲良いことを知ってるの?」

「月宮さん達、学校では全く絡まないけど、会った時にするちょっとしたアイコンタクトとか、たまにりんりんの通知に月宮さんの名前が表示されてたりとか。そういうので分かっちゃったんだ」

盲点だった。てっきり誰にもバレてないと思っていたが、凛の1番近くにいた遥香ちゃんの目は誤魔化せてなかったみたいだ。

「りんりんの好きな人は、きっと……。うーん、やっぱなんでもない!」

「え?」

「だからね、もし月宮さんもりんりんのこと好きなら、後悔が無いようにしてね。私が言ってあげれるのはそれくらいかなぁ」

遥香ちゃんはそう言って、人懐っこい笑みを浮かべた。

凛と近くにいるからって理由で今まで勝手に彼女に嫉妬していたけど、遥香ちゃんは私よりよっぽど大人で、すごくいい子だった。

「ありがとう」

「いえいえ。で、月宮さんはりんりんのことが好きなの?」

「えっと、うん…」

「じゃあ頑張りなよ?応援してるから」

そう言ってポンっと背中を押された。優しい彼女からの応援は、何よりも御利益がある気がした。



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