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第36話 (侑希side)

数時間後。おしゃべりを楽しんだ私達はカフェを出た。沙紀と海はこれから予定があるらしく、カフェの前で別れた。私と結衣は同じ方向なので一緒に帰ることになった。


「侑希ちゃんを振るなんて、見る目がないなぁ〜」

横で歩く結衣が、いつものおっとりした調子でそう呟く。

「ありがと。結衣は好きな人とかいないの?」

「うーん。実はね、私付き合ってるの」

「え、えぇ?!」

結衣が付き合ってるなんて聞いたことがない。他の2人も知らないはずだ。

「どんな人?写真とかある?」

「え〜、見たい?」

「うん。見たい!」

「侑希ちゃんだけ特別に。他の2人にはまだ内緒ね」

そう言って彼女はバッグからスマホを取り出した。しばらく画面をスクロールして一枚の写真をタップすると、私の前に差し出した。

「え、これ…」

「うん。私の彼女」

見せられた画面には、結衣の横に寄り添って笑顔でピースしている女の子が写っていた。ゆったりしてる結衣とは真反対の活発そうな女の子だ。


「女の子と、付き合ってる、の?」

「そう。びっくりした〜?」

「うん。びっくりした…」

「侑希ちゃんなら言ってもいいかなって思って」

ニコニコしながらそう話す結衣は本当に幸せそうで羨ましくなった。彼女になら、凛のことを話せるかもしれない。

「結衣、あのね、」

「ん?」

「私も、その…」

言い淀んでいると、結衣は歩くのをやめて私の顔を覗き込んだ。

「もしよかったら、うち来る?」

突然のお誘い。私はこの後予定もないし、今日は何となくもうちょっと誰かと居たい気分だった。

私は結衣の言葉にこくっと頷くと、彼女の家に向かった。


「おじゃまします…」

「どうぞどうぞ。ちょっと散らかってるけど」

結衣の部屋はいかにも女の子らしい部屋で、小さな机には今朝使ったと思われるメイクグッズが出しっぱなしになっていた。


促されるままにソファーに座っていると、結衣が冷たいお茶を淹れて持ってきてくれた。

「ごめん、今お菓子とかなくて」

「ううん。ありがとう」


私達はソファーに並んで座った。

出してもらった冷たいお茶に口をつける。外の暑さにやられて渇いた口がみるみるうちに潤っていくのが分かった。


「結衣の彼女さんは、うちの大学の人?」

「うん。一個上の先輩だよ」

「先輩?!どこで知り合ったの?」

「高校の時の先輩で、球技大会の時に一目惚れしたの。それで私から猛アプローチして付き合ったの」


いつも穏やかな結衣が先輩にグイグイいってる姿なんて、まったく想像がつかない。結衣をそんな風にさせるなんて、先輩はどれだけ魅力的な人なんだろう。


「侑希ちゃん。私で良かったらなんでも話聞くからね?」

「え?」

「なんか、色々悩んでそうに見えたから」


そういって私の目を見て優しく笑う結衣が、いつかの凛と重なる。凛もよく、こうやって私の目を覗き込んできた。

特別なものを見るような目で私のことを見るから、だから私は勘違いしてしまったんだ。


「あのね。私が振られたのも、女の子だったの…」

そう言った途端、胸がいっぱいになって思わず涙が出てきた。今まで誰にも言ってこなかったけど、もしかしたら私はこの気持ちを吐き出せる場所が欲しかったのかもしれない。

結衣は私の方に身体を向けると、ぎゅっと抱きしめてくれた。柔らかい体に包まれながら、私は結衣の肩に頭を預けた。鼻を啜りながら話す私の背中を優しく撫でながら、彼女はずっと話を聞いてくれた。

「辛かったね。今までよく頑張ったね。」

あの日から泣かないように、なるべく思い出さないようにしてたはずなのに、押さえつけられていた気持ちは無くなるどころか大きく膨らんでいたらしい。

彼女の腕の中に包まれながら、私は涙が枯れるまで泣き続けた。



「テストおわったぞぉ〜!!!」

2週間におよぶテストがようやく終わった。そして、いつもよりテンション高めの海に呼ばれた私達は、テストのお疲れ様会を結衣の家で開くことになった。


テスト終わりの夕方。3人で適当に買い出しを済ませた後、結衣の家へと向かった。


インターホンを押してしばらくすると、お風呂に入った後なのかだいぶ無防備な姿の結衣が出てきた。

「おぉー!なんか結衣めっちゃ可愛い!!」

海の言葉に結衣は照れ笑いしている。沙紀は海が暴走しないように、いつもの通り彼女の首根っこを引っ張っていた。

「初めて来た。やっぱ女の子っぽいな」

「侑希ちゃんは一回だけ来たことあるよね〜」

「うん」

「そうなの?!知らなかったんだけど!!!」

ちょっと悔しそうな海は置いておいて、私達は買ってきたピザやお寿司を机に広げた。今までこういうパーティーらしい事を友達としたことがないから、何だかワクワクする。

「そんじゃ、テストお疲れ!かんぱーい!」

「「「かんぱーい」」」

全員未成年だから、ジュースで乾杯する。お酒が飲めるようになるまであと一年。本当に、時間が経つのは早い。


「夏休み、4人で遠くに旅行行きたい!」

「おっ、それいいじゃん。9月だったら部活もバイトもないし行けるそう」

「結衣と侑希は?」

「私もあいてるわ」

特に予定もないから二つ返事でオッケーする。

「私は、う〜ん。前半だったら行けるかも?」

「よっしゃ!じゃあどこいくか決めよ!」

海と沙紀はそう言って、すぐにスマホで旅行先を調べ始めた。ちらっと横目で結衣の方を見ると、LINEで誰かに連絡しているようだった。流石に内容までは見えないけど。


結衣がちょっと迷っていたのは、やっぱり彼女のことなんだろうか。お泊まりだから、許可を取らないといけないとか?なんかそういうの、付き合ってるっぽくていいな。

そんなことを勝手に想像して、ひとりで羨ましくなった。

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