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第159話【ルーカスSide3】

 侍女長が一瞬だけこの場を離れてから、数分の間に、直ぐに一人。


 彼女に案内されるようにして、皇后宮の庭に来た人間がいた。


 仮面で顔を隠していて年齢がどれくらいか直ぐに察することは出来なかったけど。


 骨格からして男なのは間違いなく、推定年齢は15~20代前半くらいの間だろうか。


 俺より極端に年上な感じも、極端に年下の感じもしない。

 服装はカラスみたいに黒一色で統一されていて。


 侍女長の後ろを歩いていながらも、足音一つすら立てずに此方にやってきたことからすると。


 隠密行動にもの凄く長けた人物なのだろう。


【テレーゼ様の影か何かかな……?】


 それにしては、かなり特徴的な派手な仮面をつけているな、と内心で思いながらも。


 声も出さずに目の前の男を観察していたら。


「どうやら僕っ、来客中だったのにお邪魔してしまったようですね」


 と、目の前の男の方がテレーゼ様に向かって声をあげるのが聞こえて来た。


 その声色から、まだ若いな、と思いつつ、20歳までにはまだいってなくて。


 本当に俺と同じくらいの歳なんじゃないかと俺はその範囲を更にせばめていく。


い。

 丁度そなたにも、ルーカスを紹介したいと思っていた所だ」


 テレーゼ様のその言葉で、俺はいつものように、にこやかに笑みを向けながら。


「ただいま紹介に預かりました、ルーカス・エヴァンズです」


 と、声をあげる。


 彼はそんな俺を仮面越しに見てから、此方に向かって一度、礼をするように頭を下げてから。


「……挨拶もせずに失礼しました。

 エヴァンズ侯爵の一人息子であるルーカス様。

 あなたのお噂はテレーゼ様より、かねがね拝聴しておりました。

 ……僕のことは、どうぞ“ナナシ”とでも」


 と、声を出してくる。


「ナナシ……?」


 ここらじゃ、聞き慣れないような名前に思わず首を傾げれば。


 目の前の男が、苦笑するのが聞こえて来た。


「元々、名前すらつけられたことの無い孤児でしたので、テレーゼ様からは“名無しナナシ”と呼ばれています」


 はっきりとそう口にする目の前の人間に驚いて、テレーゼ様を見れば。


 ティーカップに残っていた紅茶を優雅に飲みながら、テレーゼ様はその唇の笑みを深めて。


「大方そなたも予想はついているかと思うが、私の手となり足となり暗躍している影だ」


 と、俺に向かって彼の正体を補足するように説明してくれる。


 予想通りのその内容に、ああ、やっぱりかと思いつつ。


「へぇ、テレーゼ様の影、か。……じゃぁ、遠慮無くナナシって呼ばせて貰うことにするよ。

 ところで、君はその首にどんな首輪をかけられているの?」


 にこりと笑って、どこまでも不躾に、俺は突っ込んだ所までいきなり入ってく。


 だけど、はっきりとそう口にした俺の言葉を聞いても、一切、動揺の色さえ見せずにその場に佇んでいるナナシと名乗ったその男に。


【成る程、その手のプロって訳か。……これは手強いな】


 と、内心で思いながら俺は目の前の男の情報やプロフィールを頭の中でどんどん更新して書き換えていく。


 仮面で顔は隠して見えないと言っても、突拍子もないことを聞かれた時、人は身体が硬直したり、指先や足の動き、肩の動きなど、身体にほんの僅かでも何か反応が出たりするものだ。


 普段は、その変化を見ることによって、今その人が緊張しているかとか、大まかにどういう感情があるのかを、喜怒哀楽で、判断する材料に出来るんだけど。


 彼には全くその兆候すら見当たらない。


 恐らく顔を隠すこの仮面を今つけていなかったとしても、表情の変化すら見せていないタイプだろう。


 訓練して、そういうのが全く表に出ないようにしているのか。


 それとも、元々感情の変化に乏しいだけのタイプなのか……。


「首輪、ですか。

 そうですね、僕の場合は莫大な報酬でしょうか。

 テレーゼ様の任務を一つ、こなすその度に、入ってくる金払いの良さがの依頼者とは圧倒的に違うので、専属契約しています」


 そうして、あっさりと。


 まるで何でもないことのようにその感情を読ませない抑揚のない声で自分の事を暴露するナナシに俺は驚き、目を見開いた。


【俺もそうだけど、普通はそういう事を明け透けに暴露するのは嫌うだろう】


 そういった物差しで、最初から測ったような見方をしていたことに気付いて、俺は今浮かんできた自分のその考えを即座に修正する。


「成る程、お金か……。

 まぁ、確かにテレーゼ様は報酬に関して出し惜しみなどしない方だからね」


「あぁ。気紛れで神出鬼没な所が玉にきずだが。

 ナナシは大金さえ払えば、どんな任務も忠実に遂行する実力者でもある。

 故に私も、ルーカス、そなたと同様に重宝して使っているのだ」


 そうして、テレーゼ様から補足するように降ってきたその言葉に、驚きつつも、納得はしていた。


 テレーゼ様が使えぬ人材をいつまでもその傍に置いておく筈が無い。


 その言葉の通り、彼も、何かに秀でているからこそ、テレーゼ様から重宝されていることは間違いないだろう。


 一方で、テレーゼ様の言葉を聞きながら一瞬だけ。


 侍女長がその顔色をさっと負の方に変えた所を見ると、侍女長は彼のことを信用はしていないのかな?


 ということが、今の段階で俺にも推察することが出来た。


【名前も無いから、ナナシか】


 一体、テレーゼ様はこの男をどこで拾ってこられたのか。


 少なくとも、孤児だと本人が言っている以上は、貴族の家や一般市民などの家で育った人間ではないのだろう。


 自分を名乗る時に礼をしていたけれど、侯爵家の俺に対しての正式なマナーで挨拶をしていたかと言われたら、とてもじゃないけどちゃんとした物ではなかったし。


【まぁ、マナーに関して別に不躾な態度を取られたとしても、俺は別に気にしないけど。

 ……俺も他人に対してその人の考えを知るために、人を見て問題にならない程度に敢えてそういう態度を取ることもあるし】


 ただ、彼の場合は、敢えてという訳ではなさそうだった。


 別に家柄だけが全てじゃないし、俺はその辺り気にしないけど。


 ちゃんとした家庭で育ったということは、その人を最低限保証してくれるってことだから。


 テレーゼ様の言う神出鬼没という所も気にかかっているのだろうけど、そういう所も含めて侍女長は本当に彼のことを信用していいものなのかどうか迷いがあるような気がした。


 段々と俺にも、テレーゼ様、侍女長、ナナシの三人の関係が薄らと見えてきたところで。


【それにしても、お金か。

 ……そんな風に莫大な富を得てどうするつもりなのか】


 と、頭の中で考える。


 俺だって、テレーゼ様からの報酬に関しては恩を感じて感謝している部分もあるし、それが無ければテレーゼ様のお側につくようなことすらなかっただろう。


 俺と彼とでは恐らく“報酬”の意味合いは大きく変わってくるけれど。


【その辺り、テレーゼ様は本当に飴の使い方が上手い方だ。

 誰にも平等に同じ味の飴を与える訳じゃ無く、飴の種類は与える人間によって変えてくる。

 その人間の本当に望んでいる物を、この方はよく分かってる】


 内心でそう思いながら……、ナナシは、他人の為にお金を使うから貯めているのか。


 それとも自分が使うために貯めているのか。


 ということに思いを巡らしていく。


 見た感じ、お金という物に執着するようなタイプでも無さそうなのに、と思いながらも、これ以上の情報がない以上は、彼のプロフィールを更新するのは無理だろう。


 何のためにその報酬を使うのか、まで突っ込んで聞いてしまって。


 何かの拍子で『あなたは?』と聞かれてしまい、自分に矛先が向けられた時には俺も答えなければいけなくなる可能性もある。


 ……そうなると都合が悪い。


 だから、俺はこのタイミングで一度、ナナシの情報をそれ以上整理することをスパッと諦める。


【初めて会ったばかりだし、彼のことは追々、知っていけばいい】


「ふむ、ところでそなた、その仮面、前につけていた物と違い、随分派手ではないか?」


「あぁ、これですか。

 前に使ってた物は僕の許可も得ずに

 仕方がないから、これをつけているんですけど、そんなに派手でしょうか?」


「ああ、うん、そうだね。

 ……確かに隠密行動には向いてないんじゃないかな?」


 そうして、テレーゼ様とのやりとりで。


 ナナシがそう俺とテレーゼ様に問いかけてくるのを聞きながら、苦笑しつつ、ありのまま自分の思っていることを正直に答えれば。


「ご安心下さい。

 僕は、誰かの背後に音も無く忍び寄るのも、何処かに紛れ込むのも得意ですから」


 と、どこか調子外れな回答が返ってくる。


「ふむ、そなた、悪いことは言わぬから、その仮面は止めた方がいい。……私が新調してやろう」


「いえっ、お金が勿体ないですし、別に僕はこれで困っていないので構いません」


「……そなたは、そのようなこと気にせずとも良い。

 その飛び出ている羽の部分も使い古されて少しよれているではないか」


 俺がナナシの調子外れな回答に何て言ったらいいものなのかと、言葉を選んで悩んでいるうちに会話は進んでいて。


 扇で口元を隠しながらも、けれど隠しきれないほどにその目は何処までも嫌そうな表情を浮かべて、テレーゼ様が大丈夫だと豪語するナナシのことを見ていた。


 あぁ……。


【その仮面、滅茶苦茶ダサいから買い換えろ。

 私の影がそのような美的センスの欠片もないことを私自身が許せない。

 大体、その仮面から飛び出ている羽の飾りは何なのだ? 全てが、気に入らない】


 ってことだろうなぁ……。


 内心でテレーゼ様の意図を正確に汲んでから、頭の中でその言葉を丁寧に翻訳したあとで苦笑する。


 色々と良い物を見て磨かれてきたであろう、その美的センスからしたら、この仮面は大幅に、この方の許容範囲を超えてしまっているのだろう。


「うん、俺も新調した方がいいと思うよ」


 へらりと笑みを溢しながら、俺はテレーゼ様の言葉に同意するようにして、彼に仮面を買い換えることをお勧めする。


 このままだと、テレーゼ様の怒りのボルテージが上がっていくだけだろう。


 俺とテレーゼ様からそう言われて。


 彼はあっさりと、『では、そうします』と言って俺たちの言葉に同意した。


 身なりのこととかに対しても、あまり気にもならないタイプなんだろうか。


「それで、そなた……。私に用事があったのではないか?」


「はい。頼まれていた任務が完了しましたのでご報告に」


「それはそなたが此処に来た時点で分かっている。

 まどろっこしい事はい。……どの件だ?」


「テレーゼ様が、気にしていた“茶髪の少年”が何者なのかが分かりました」


「……っ!」


 はっきりとそう言葉を口にするナナシに驚いて目を見開く俺とは対照的に。


 口元を歪めて満足そうな笑みを溢すテレーゼ様が視界に入ってくる。


「それで、何者だったのだ?」


「はい、数年前に滅びてしまったとある国の最後の生き残りの王子です。

 陛下とは、外交的なものから個人的な交友なども含めて、随分と親交があった国と君主だったみたいで、どうやら、その縁で彼は陛下に引き取られたようです」


 変わらず、あまり抑揚のない声で淡々と口にするその言葉に『どこでそんな情報をっ?』と普段、そういった事は、思ってもなるべく俺自身、顔に出ることがないように気をつけているけれど。


 顔に出てしまっていただろうか。


「陛下の仕事部屋に置かれていた資料を漁るのは、僕にも骨が折れました。

 流石に資料までは盗んでくることは出来ませんでしたけど、今回の報酬は特別、弾んで下さい」


 と、事もなげにナナシが口にする。


「陛下の仕事部屋に、バレることもなく侵入したのっ?」


 陛下関連の場所に関しては、仕事部屋も含め、皇宮の中でも、どの場所をとっても、セキュリティーは万全の筈だ。


 陛下がその場所に居ない間はきちんと施錠され、かなり厳重に管理されているし。


 特に機密文章などが保存されている場所に関しては、騎士なども常駐して昼夜見張っていたりする。


 そんな場所に、あっさりと侵入してきたのだというのだろうか?


 それも、一度も騒ぎになるようなこともなく……?


 驚く俺を見ながら、テレーゼ様が此方に向かって微笑んでくる。


「ルーカス、私の影はなかなかの腕前であろう?」


「……なかなかどころじゃ、ありません、って」


 彼の言っていることが、確かなら。


 テレーゼ様が重用しているこのナナシっていう男はどこまでも危険だ。


 ――嗚呼、だけど。


 そんなことが出来そうな人間を、俺はもう一人、知ってるな。


【騎士のお兄さん】


 頭の中でその存在を思い浮かべて、俺は苦笑した。


 少なくとも、今ここにいるナナシという人間は、お兄さんクラスのだってことだろう。

 そして、彼の言っていることが、はったりでも何でも無いということは、テレーゼ様の態度からはっきりと俺にも理解できる。


 テレーゼ様は、彼のその言葉を疑いさえしていない。


 ということは、既に彼には、テレーゼ様の信用に足るだけの実績があるってこだ。


 例え、書類を持って帰ってきていなくても。


 彼のその言葉だけを聞いて、信用出来る程に。


【アルフレッド君が、陛下の親交のあった国の最後の生き残りの王子ねぇ】


 また、とんでもない情報が飛び込んできたな、と思いながらも、俺は陛下がその身を隠しているのには納得する。


 ……もしも、その身分がバレてしまったなら、今、その滅んでしまった国を統率している君主は彼の存在を消そうと動くだろう。


 陛下はそのような状況を懸念して、彼の身分を隠し、お姫様とほぼ対等であることをその言葉遣いなども許しながら、友達とも、従者としても取れる位置につけることで守っているのだろう。


 そうだとしたら、度々、彼の言葉遣いが目上の人間が話しているようなものに感じることも、説明がつく。


 ――生まれた時から上に立つ人間であると英才教育されてきたのなら


「成る程な。……だが、そうだとしたならば、ますます、陛下があの少年を我が子ではなくあの小娘に付けたことが気に入らぬ」


「あぁ、それは恐らく年齢的な意味合いで、お姫様とは釣り合いが丁度取れて良かったのではないでしょうか?」


 テレーゼ様の言葉に補足するように俺が声を出せば、ふんっ、と鼻を鳴らしたあとで、テレーゼ様が難しい表情をされるのが見えた。


 でも、そうだとしたら、森に住んでいたっていう情報は何だったのだろうか?


【滅んだ国から逃げてくる過程で、森に一時期暮らしていたことがあった?】


 頭の中で、ぐるぐると考えを巡らせる俺と考えが一致したのだろうか。


「だが、それならば尚更、あの少年が紙が高価だと言っていた理由に説明がつかぬ。

 ……それから、森に住んでいたというのは?」


 と、テレーゼ様が疑問を口にする。


「森、? 紙が高価? 

……よく分かりませんが、そう言えば、資料の中に陛下に引き取られる前に、ずっと付き従っていた一人の従者と森で暮らしていたと記述がありました。

 もしかしたら、長いこと森の中で暮らしていたので、紙が高価に感じたのではないでしょうか」


 その言葉を聞いて、ナナシがその疑問に対して、明確な答えを提示してきた。


【まぁ、確かにそれなら筋は通っているか……】


 まだ、何か見落としているようなことがあるかもしれないと、俺が思うのは、本当は陛下からの紹介じゃなかったのではないか、という、とんでも理論が自分の中にあるからだろう。


 そして、俺のその考えが適合性の取れるような物では無いことは自分でも分かっている。


「ふむ、話は分かった。ご苦労であったな?」


「いいえ。……それと、陛下の仕事部屋に侵入する前に、テレーゼ様がどこかに隙がないかと探しておられたので、僕も一度、皇女様のお部屋に行ったことがあるのですが」


「あぁ、そう言えばそんな話も、そなたにはしていたな」


「残念ですが、僕が少し近づくだけで。

 ……皇女様の騎士に勘づかれてしまいました。

 それもかなり遠くにいたのにも関わらずです。

 その時、ウィリアム皇子様もその場にいらしゃったのですが、話の内容までは聞き取れず。

 皇女様の騎士はかなり厳重に皇女様を守っているようです」


 ナナシに対してテレーゼ様が労いの言葉を出すのが聞こえて来たあとで、ぽつり、と思い出すように話してくるナナシのその言葉に、俺は目を見開いたけど。


 その言葉を聞いて、俺よりも、もっと驚きを露わにして、わなわなと目を見開いたのはテレーゼ様の方だった。


「……ウィリアム、がっ?

 あの小娘の部屋に、だと……?」


 ひく、ひくっと、その口元が引き攣るように小刻みに痙攣するのを見ながらも。


 テレーゼ様の表情からその考えを読み取るようなことはせず。


「えぇ、間違いありません」


 と、ナナシが火に油を注ぐような真似をするものだから……。


「あぁ、えっと、俺がこの前、お姫様のマナーに行く日に用事があって、時間を変更して貰ったことがあったから、殿下はそのことをわざわざ伝えに言ってくれたんじゃないかなっ!?」


 俺は大慌てで、補足するように声をあげた。


 完全なる大嘘である。


 殿下がお姫様の部屋に行ったという日は恐らくギゼル様と図書館で一悶着あった日だろう。


 あの日、お姫様とその後殿下が自分の目のことについて話したということは聞いてたし。


 お姫様の部屋に行った日は、それくらいしか思いつかない。


 その次の日、お姫様の都合で時間が変更になったことは殿下から聞いたし。


 後々、調べられたとしても、咄嗟に出したにしては何とか上手い言い訳になったんじゃないだろうか。


 内心でそう思いながら、テレーゼ様の口元の度合いでちょっとだけ怒りが静まったのを確認して、俺はホッと息を吐き出して胸を撫で下ろす。


「……しかし、そなたでも、あの小娘の周辺にどこにも隙が見当たらなかったというのか」


「ええ、今一番この皇宮で安全が保障されているのは、陛下ではありません。

 紛れもなく皇女様でしょう」


「……おのれっ!

 あの赤目の騎士めっ、全く、本当に忌忌しいほどに、どこまでも、私の邪魔をしてくれるものだっ!」


「報告は以上です。……あの、僕、もう帰ってもいいですか?」


【……嗚呼、もう、本当に、勘弁してくれっ!】


 テレーゼ様の感情を全く読み取ることもせずにマイペースにそう言ってくる目の前の男に俺は恨めしい気持ちを抱きながら……、はぁ、っと小さく溜息を溢した。


 無害な人間などではなく、こうやってどこまでもマイペースに人を振り回すタイプだろう。


 しかもそのことに、本人が気付いていない。


 そういう所は、どこかアルフレッド君にも近い物を感じてしまう。


 大体、こんなの髪からして、他では滅多に見ることが無いし。


 変な仮面は付けているし、“誰かの影”としては、自己主張が強すぎるんだよな。


 そう言えば、確か、スラムに一人。


 同じようなくすんだ緑色の髪をした人間を見たことがあるけど……。


 ――ああ、でも似ても似つかないか。


【年齢は合いそうだけど、あの男は、確か下っ端みたいな感じだったしなぁ】


 内心でそう思いながら、俺はテレーゼ様のお気持ちをなだめるまでは帰れないことが確定して、憂鬱な気持ちになりながらも……。


 二人の会話に仕方なく耳を傾けた。




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