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第162話 アルの半身

「アルの半身……?」


 どういう意味なのか直ぐに分からなくて首を傾げれば。


「お前の半身ってどういうことだ? お前みたいな奴がこの世にもう一人、存在するってことか?」


 と、私よりも先にセオドアがアルに対して問いかけてくれた。


「うむ。

 話せば少し長くなるが、僕は元々自然の力によって生まれた存在だ。

 大地も、火も、水も、風も、その全てが長い歳月を経て、僕という存在を形作るいしずえとなった」


「大地や、水、風は何となく分かるけど、火もかよ……?」


「うむ、自然は何も大地や水や風だけではない、火山から湧き出るマグマもまた自然と言えるだろう」


「あ、もしかして、さっき精霊さんから聞いたけど、それが四元素、なの?」


「うむ、そうだな。この世のありとあらゆる物は、四元素を元に成り立っている。

 僕は元々、そういった自然が持つエネルギーの集合体だった、といえば分かりやすいか?」


「エネルギーの集合体?」


「あぁ、元々僕は実体など持ってはいなかったんだ。

 自然のエネルギーが一箇所に集められ、長い年月を経て、どんどん大きくなったことにより僕という存在が形作られていくことになってな。

 初めは意思を持ち、気付けば、五感のうち視覚、聴覚、嗅覚の三つが芽生えるようになるまでに成長していた」


「……よく分からないんだけど、誰かから生まれたとか、そういうのじゃなくて。

 アルは自然が持つエネルギーが集まって出来たってこと、でいいのかな?」


 アルの言葉に驚きながらも、このままいくと分からないまま先に進んでしまい、沢山の情報についていけなさそうだったため……。


 私は一先ず、アルの言っていることを整理するために、頭を働かせ、今の段階で自分に理解出来た範囲でアルに問いかける。


 私のその言葉にアルは一度同意するようにこくりと頷いてくれたあとで……。


「うむ。

 ……そこで僕は、いつしか自由に動き回りたいと思うようになってな。

 自分の中に溢れる魔力で身体を構築し、この世に具現化することさえ出来れば、動けるようになると思って、早速自分の器を作ることにしたんだ。

 ……だが、僕という存在が実体を持つにあたって、とある問題が生じることになった」


 と、その続きを更に詳しく説明してくれた。


「問題、ってのは……?」


「僕が器を持ち、実体化するにあたって今まで僕の中にため込まれた自然のエネルギーがあまりも膨大でな?

 一人分では、実体化する際に、僕という存在の魔力、エネルギーに耐えられるだけの器を確保することがどうしても出来なかったんだ」


「エネルギーに耐えられるだけの器……」


「そうだ。

 ……そこで、僕は僕の意思をさせることにした」


「……意思の二分化?」


「うむ、僕のクローン、と言った方が分かりやすいか?

 どちらが上で、どちらが下ともない、唯一無二の僕の半身だ。

 自由に動き回るために、僕は、魔力と一緒に自分の意思も二分化させて、この世に身体を具現化させたと言えばいいだろうか。

 その際に残りの五感である、味覚と、触覚を手に入れたんだ。

 それで、名前が無いとややこしいだろうという理由で、便宜上、一人を“アルフレッド”と名付け、もう一人を“アルヴィン”と名付けたが、僕達はどちらも元々は“エネルギーの集合体”であり、一つの存在でしかない」


 そうして、はっきりとアルからそう言われて、私は目を瞬かせた。


 妖精という存在がどういう風にこの世に生まれてきたのかなど、その辺りのことは詳しく知らなかったけど。


 アルが長い年月を経て、大地や、水、火、風の四つの自然のエネルギーが一つに集まって生まれた存在なんてこと、想像も出来なかったし……。


 自由に外を動き回りたいという意思を持ったために、身体を魔力で構築し、更にそこから自分の魔力を半分に分けて……。


 もう一人の自分を作り出していたのだということも、今の今まで全く知らなかったから驚いてしまった。


「えっと、アル。

 ……頭がこんがらがりそうなんだけど、ここにいる妖精さん達もアルほど強い魔力は持っていないにしろ、自然のエネルギーの集合体になるの?」


「うむ、火や水など、特化したエネルギーはそれぞれ、子供たちによって違うがな。

 ある程度エネルギーが溜まったら、僕が器を与えてやり、具現化するための手伝いをしてやっているんだ」


 そうして降ってきたアルの説明にまだまだ分からないこともあるけれど、大まかには頭の中で納得出来た。


 自然のエネルギーが溜まって、精霊さん達が具現化する手伝いをアルがしているのなら、アルが精霊さん達のことを子供たちと呼んで可愛がっているのも凄く分かる。


 アルにとって彼らは、本当に自分の子どもや、兄弟のような感覚なのだろう。


「それで、お前に半身がいるってことは分かったけど。

 ……それは、双子とかじゃなくて、元々一つの存在が分かれたって認識でいいんだよな?」


「うむ。

 ……だが、感覚は双子のようなものに近いだろう。

 初めは、同一の存在だったとしても、何100年、何1000年の刻を生きる中で、僕達はそれぞれに自我が芽生えて、既に完璧に同じ存在とは言い難くなってしまっているからな」


 セオドアの問いかけに丁寧に答えてくれるアルを見ながら、アルの半身であるアルヴィンさんはやっぱりアルにそっくりなんだろうか、と内心で考えていたら……。


 私の考えていたことが、アルに伝わったのか、アルは此方を見ながらも……。


「元々、自分たちを具現化するのに作った見た目は、今の僕そのもので。

 そう言う意味で、アルヴィンも僕と確かにそっくりではあったが、僕が面倒で自分の姿を変えることはないのに対し、アルヴィンは暇があったら自分の姿を気分で変えていたぞ」


 と、教えてくれた。


「気分で、コロコロと見た目を変えることが出来るってだけで充分、凄いだろ」


「まぁ、其れに関しては魔力もそう使わぬし、僕達にとっては難しいことでもないからな。

 因みに僕にとっても、アリスの成長に合わせて歳を取るように自分の見た目を変化させることは、造作も無いことだ。

 人間は歳を取るごとに見た目が変わって大変だからな」


『これでも気付かれない程度に普段から定期的に数ミリ単位で身長を伸ばしているんだぞ』


 と、声を出して此方に向かってそう言ってくれるアルのその言葉に私はびっくりしてしまった。


【……全然、気付かなかったっ】


 直ぐに誰の目にも分かる範囲で身長を伸ばすわけじゃなく。


 あくまで徐々に、気付いたら身長が伸びているように、周囲の人間に違和感がないよう、アルが配慮してくれていたことを今知って、その配慮は凄く助かるものだなぁ、と思う。


 確かにこれから先のことを考えると私が成長するにつれて、アルの年齢がずっと変わらず同じままだったら問題だと思っていたし、そう提案してくれるのは本当に有り難い。


「お前達、2人でも……性格も随分違うんだな?」


「元々、好奇心旺盛な所は2人とも変わってはおらぬ。

 前にも話したことがあるが、僕達は基本的に分からない物ほど探求したくなるような種族だしな。

 だが、二つに人格が分かれた時、アルヴィンは武に、僕は知識により特化したと言った方が良いかもしれぬな」


「武と、知識……?」


「うむ、僕達の魔力を半分に分けた時、どちらかというなら、僕は補助系や生活魔法に特化して、アルヴィンは攻撃魔法により特化していた。

 勿論、どちらもお互いの魔法が完全に使えぬ訳ではないが、そういった得意、不得意な分野はある。

 ……性格も同じような所も多々あるが、やはり完全に一緒とは言い切れぬだろうな。

 それと、見た目的にも僕が茶髪なのに対して、アイツは森のような緑色の髪をしていたぞ」


 アルの説明だけ聞いていたら、元々一つで、同じ存在だったとは思えないくらい。


 アルヴィンさんとアルとでは、違う箇所が沢山あるのだということが私にも理解出来た。


 そこまで分かった所で、私はアルが未だに持ってくれている黒の本に視線を向ける。


「……それで、アルの半身であるアルヴィンさんはどうして、この本を作ったのかな?」

 私の視線が本に向いた所で、その場にいた全員がアルの持っている本へと視線を動かしたのが見えた。


 アルの半身だというアルヴィンさんが、この本を作った理由について。


 肝心なことがまだ何一つ、解決していなかったことを思い出して、問いかけた私に。


 アルが少しだけ難しい表情を浮かべたあとで……。


「うむ、……それが、今一、よく分からぬのだ」


 と、根本から覆すような言葉をぽつり、と外に吐き出すのが聞こえてきた。


「分からないって、どういうことだよ?」


「いや、これに関わった魔女が複数いることも……。

 本を作るにあたってアルヴィンが関わっているのだろうということも、その魔力の痕跡から把握は出来たのだがな?

 なぜ、アルヴィンがこの本を作ったのかの意図については、明確な答えが得られなかった」


 いつもはっきりと物事を言うアルからしたら珍しく。


 一瞬だけ言葉を濁すようにして、私達に向かって声を出してくることに驚きながらも。


「そっか。

 ……じゃぁ、もしかして、折角アルが調べてくれたのに無駄骨になってしまったの?」


 と、声を出せば……、アルは、私の言葉に一度首を横に振り。


「いや、そうとも言い切れぬ。

 確かにこの本がなぜ作られたのは分からぬままだが、なぜ王宮の図書館に置かれていたのかは、僕にも把握出来た」


 と、教えてくれる。


「あぁ、それについては確か姫さんにこの本を見せたいがために、王宮の図書館に置かれていたんじゃないかって話だったよな?」


「うむ、僕のその仮説は恐らく99%間違いないだろう。

 王宮の図書館にこの本が置かれていた理由は、アリスの元にこの本を届けるのが目的だったに違いない」


「どうして、そう言い切れるんだよ?」


「……この本を作った魔女の中に、“未来予知”の力を持つ魔女が関わっていたからだ」


 そうして、セオドアとの遣り取りで、アルの口から……。


【未来予知の魔女】


 という単語が出てきて、私は目を瞬かせた。




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