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第213話 その男の目的2



 どこまでも真剣な表情を浮かべて此方を見てくるヒューゴに。


「却下だ。……アンタの言っていることは全く現実的じゃない」


 と、声を出したのは、セオドアだった。


「……なっ!

 た、確かに黄金の薔薇が鉱山の奥地に絶対にあるとは限らない以上は、そうかもしれないがっ!!

 それでも、そんな一刀両断せずにっ、ちっとは前向きに考えてくれたっていいんじゃぁ、ねぇのっ!?」


 セオドアの言葉に、慌てたようにガタッと椅子から立ち上がり。

 此方に向かって声を荒げてくるヒューゴに


「当然、それも含めてだが、俺が言ってんのはもっと根本的な部分だ。

 そもそも、この話自体が、オカシイんだよ」


 と、淡々とセオドアが声を出してくる。


 その声は酷く落ち着いていて、どこまでも冷静で……。


「鉱山ってのは、基本的には人工的に坑道が作られ、それに沿って採掘するもんだが。

 アンタの言う黄金の薔薇ってのは、今までに見つかった前例のある場所が、そのどれも人の手が入っていない、更にその奥地にあったとされるもんだろ?」


 真っ直ぐにヒューゴの方を見返して


 ――鉱山の奥、人の手の入っていないような未開の地。


 と、ぽつりと声に出したあと。


「小さく開いた洞穴どうけつの中や、道なき道を通っていかなきゃならない上に、基本的に鉱山ってのは金が絡んでくる以上、“その中”についてはだ。

 みんな、自分で地図を作って長い歳月をかけて、何度も何度もマッピング作業をしながら採掘に挑むのが定石になる。

 そして、普通の人間なら、自分が手塩にかけて作った金脈とも言えるその内部の構造を誰にも教えたりはしない。

 ここいらの鉱山に一度も入ったことのない俺たちじゃ、そもそも暗い鉱山の中で迷子になるのが関の山だ」


『そのことを、アンタが知っていない筈ないだろう?』


 ヒューゴに向かってそう問いかけてくるセオドアの瞳はかなり冷たくて、警戒するようなものだった。


「アンタの本当の目的は何だ?」


 厳しい口調でセオドアから放たれるその言葉に、ひゅっ、と小さく喉を鳴らして。

 ヒューゴの瞳が、動揺したように、一瞬だけ左右に揺れたのが見えた。


 その表情を見て……。


「……もしかして、誰かから俺たちのことを貶めるように頼まれたのか?」


 と、セオドア同様に険しい表情を浮かべたお兄さまがそう問いかけると、ヒューゴはふるりと、その首を左右に激しく振り。


「……違うッッ!」


 と、声を荒げて、それを否定してくる。


「地図ならば。……長い年月をかけて俺と、俺の親父が作った地図だ。

 信憑性については、自分で言うのもなんだが“かなり正確”だぜっ!

 それに合わせて、ノクスの民の兄さんならっ!

 んならっ、俺らが入れねぇようなとこにも入れるんじゃねぇかって思っただけだっ!

 ……そ、それにっ、噂じゃ、皇太子様だって難関だって言われるシュタインベルクの騎士団に10歳の時にはもう、入団出来るって言われてたくらいその腕前は確かなんだろうっ!?」


 そうして、カウンターの上に、懐から取り出した手書きで書いたのであろう、くるくると折りたたまれた紙を広げて、鉱山内部の地図を見せてきて、必死ともとれるような声を出してくるヒューゴの姿に。


 ヒューゴ自身、何かまだ私達に言っていないことは確かにあるのかもしれないけど。


 その瞳からも、嘘は言っていないような気がして……。


「あのっ、そもそも、ヒューゴは金の薔薇を見つけて、どうするつもりなんでしょうか?

 ……何か目的があるから、金の薔薇を採取したいと思っているんですよね?

 それに、私達が行ったところで、金の薔薇を確実に見つけてくることが出来るとは限らないし、先ほどお兄さまがヒューゴに話していたとおり、私達にはあまり時間がありません。

 王都に帰るまで2日かかると思えば、私達が本来ブランシュ村に自由に滞在出来るのは今日を含めなかったらあと3日ほどで……。

 そこからどんなに滞在時間を伸ばせても更に3日ほど追加することが出来るかどうかです」


 と、私はみんなの話の最中に割って入るのもどうかと思ったけど。

 ヒューゴの目的を聞いた上で、自分たちに限られた時間についての説明のため、口を開いた。


 お兄さまがお父様の仕事を手伝っている関係上、最大まで伸ばせても1週間から+αプラスアルファで2、3日ほど猶予が貰えるかどうかだ。


 本来、スムーズに事が運べば、1週間、と言われていた今回の旅の日程で。


 私達には7日しかないと仮定して考えた時、1日目はホテルに泊まり。


 2日目の今日、朝からホテルを出てお昼過ぎにブランシュ村に着いたことを思うと。

 帰りも当然、1日半は、ホテルに泊まる時間と、馬車での移動時間に使われてしまう。


 つまり、本来の予定では1日目、2日目はその大半がホテルと馬車での移動。


 ――明日からの3~5日目の3日間が私達の自由に使える時間。


 6、7日目は帰るのにバタバタしそうだから、朝から動く可能性を考えると。

 私達が使える時間はかなり限られてしまっている。


 この場合、引き延ばしても6日目のお昼前には出立しなければいけなくなってしまうだろう。


 最悪、調査が惜しいところまで進み、もうちょっと聞き取りすることが出来る時間を作ることが望ましいと判断されれば……。


 そこから更に2、3日、引き延ばすことはお兄さまがお父様から許可を得てくれているらしいので……。


【だから、最大でも、10日。

 2日目までは、もう既に終わっているから、3日目~8日目までの、あと6日ほどなら自由が利く。

 9日目には帰るために馬車で長時間移動しなければいけないことを考えると、その間に、希少とも言われている金の薔薇を見つけることは本当に至難の業だろう】


 それに、その全ての時間をヒューゴの目的の為に費やす訳にもいかない。


 私達の目的はあくまでも、囚人の毒殺事件に関する調査であり。

 その間に村人達から可能な限り聞き込みをして、アーサーが行きそうな場所など、有力な情報を得ることもしないといけないし。


 ヒューゴの為に私達が割ける時間だけで見積もって考えれば、本当に伸ばせてもくらいじゃないだろうか……。


 内心でそう思いながら。


 そんな短期間に、幾らヒューゴとその父親が長い期間をかけて作ってくれた鉱山内部の地図があるとしても。


 野生生物なども出てくるような恐れもあるし、暗い鉱山の中を歩いて、金色の薔薇を見つけるということを実現するには普通に考えれば、どう考えても難しく、殆ど無茶ぶりとも言ってもいい。


 ――だけど、逆を考えれば。


 ヒューゴが、自分たちの作った大事な金脈となる地図を私達に見せてまで、こうも必死にセオドアやお兄さまに助けを求めていることを思うと、それだけ今の状態が切羽詰まっているようなものなのだと察することは出来る。


 それに、普通で考えれば不可能とも思えるようなことも。


 もしかしたら、アルの力を借りることが出来れば……。


 私以外のみんなの協力を得ることが必須の条件にはなってしまうけれど。

 金の薔薇の採取に関しては、可能性の芽が絶対にないとは言い切れないだろう。


【これに関しては、私自身が協力できることは本当に少ないし。

 みんなの負担ばかりが大きくなってしまうようなことになるのは避けられないから、私がヒューゴのその願いを安請け合いする訳にはいかないけれど】


「セオドアやお兄さま、それからアルがその話を受けてくれるとして。

 どんなに頑張って、ヒューゴの為に時間を割いても恐らく最大で3日しか取れないでしょう……。

 ヒューゴからするとしか取れない上に、私達にとってはです。

 その間に、金の薔薇が採取出来なかった場合、当然、報酬に関しては貰えないのでしょうから、私達はその時間、全てを無駄にしてしまうことになっちゃいます」


 ヒューゴの目を見て、真っ直ぐに伝えれば。


 驚いたような表情を浮かべたあとで……。


「あ、あぁ……。いや、コイツは驚いたな……。

 皇女様、まさか、今の話の最中に、自分たちに使える時間を計算して俺の為に見積もってくれたっていうんですかい?」


 と、言われて私はこくりと頷いた。


「はい。……ですが、あくまでも、お兄さまやセオドアがあなたに協力することになったらの話です。

 お兄さまやセオドアが戦闘面を。

 それと、アルも植物などに詳しいので、鉱山の中に自生しているような危険な物についてなどそっち方面で力を発揮してくれるようなことは可能でしょうが……。

 私は戦力的には全く役に立たないので、申し訳ありませんがヒューゴのお願いを安請け合いするようなことは出来ません。

 その辺りの判断は、私以外のみんなの意見に委ねられると思います」


 可能性として、もう一つ、もしも私に出来ることがあるとしたならば……。


 ――それは、時間を戻すことだけ、だろう。


 頑張って戻せば、“”ようなことも出来なくはないかもしれない。


 能力の反動があるから、何とも言えないけれど……。


 でも、何も知らないお兄さまに事情を話せないのは勿論のこと、他人に自分が魔女であることを説明する訳にもいかないし。


 本当に出来るかどうかも分からないことを迂闊に約束してしまうことは私には出来ない。


 だから、結局は私以外のみんなの協力が必須になってしまうし。


 ヒューゴに私がしてあげられるようなことも、みんなほど多くはないというか。


 寧ろ何の役にも立たないということを、こうして伝えることしか出来ない私に……。


「いや、勿論。それに関しては分かっちゃいるが。

 その歳で、そこまで考えられるのが、滅茶苦茶凄いっていうか……。

 本当に、皇族の方達は、第一皇子様も第二皇子様も華々しい噂ばかりが流れているようなイメージがあるが、まさか皇女様までとはっ。

 上に立つ人間ってのは、みんなそんなにも教養があるもんなんですかねぇ?」


 と、ヒューゴから言葉が降ってきて、私は目を瞬かせた。


「……?? ごめんなさい、私、今、ただ単に自分たちが手伝える可能性のある日数について言っただけですよね?

 ヒューゴの言っていることがよく分からないんですが、お兄さま達は私なんかよりももっと凄い功績だらけですよ?

 そのっ、寧ろ、私は落ちこぼれで……」


「はぁっ!? 落ちこぼれっ!?

 皇女様が落ちこぼれだって言うんなら、俺ら庶民は一体何だって言うんですかいっ!?」


「えっ? あ、あのっ、ごめんなさい。

 もしかして、私、また何か常識外れなことを……?」


 ヒューゴの言葉に首を横に傾げて。


 さっき、セオドアが私の騎士であることを一般庶民の人達が知っていると思いこんでしまっていたように。


 自分がまた何か可笑しなことでも言ったのかと思って問いかけると


「いや、皇女様の常識がオカシイっていうより、そもそも住む世界が違うっていうか。

 俺等、庶民の常識と皇女様の常識に、相違があるが故のことなんでしょうね。

 俺からしてみりゃぁ、その歳で直ぐに頭のなか回転させて。

 色々な状況について自分たちの出来る範囲のことを探って、人に寄り添った上で、適切な言葉で説明出来るってことは、充分凄ぇと思いますし、ソイツも一種の才能の内だと思いますよ」


 と、ヒューゴから、そう言われて。


 直ぐに褒められているのだということに気付いた私は。

 ぱちぱち、と目を瞬かせたあとで、ふわっと笑みを溢して、ヒューゴに『ありがとうございます』と、お礼を伝えた。


「あー、っていうか、俺もちょっとばかり熱くなりすぎてた自覚はあるし……。

 皇女様のお蔭で、大分頭も冷えてきて、クールダウン出来ました。

 俺に使える可能性のある時間が最大で3日程しかないと言われてましたが、それでも俺にとっちゃ、充分です。

 少し話した限り、皇太子様はお堅く真面目な性格で一度約束したようなことを、決して反故ほごにするような御仁ごじんじゃぁ、ないってことは分かりましたし。

 可能なら“3日”いやっ、“2日”でもいい。

 最終日に“”村人達にアーサーのことに関して話して貰えるよう俺から声をかけて協力を仰ぐことについては約束しましょう」


「ふむ、それで結局、お前が“金の薔薇”を探しているのは一体何が理由だというのだ?」


 そうして、ヒューゴが私達に力強く、そう約束をしてくれると。


 アルから根本的な部分で、一度私もしたけれど流されてしまった内容の質問が再度、ヒューゴの方へと飛ぶのが聞こえて来た。


 何となくヒューゴのこの感じだと、お金目当てって言う訳でもなさそうだし。


 こんなにも切羽詰まっているような様子も含めて考えると、金の薔薇に関する“見つけたら幸せになれる”なんて、迷信のようなことが目的という訳でもないだろう。


 アルは植物に詳しいから、ヒューゴが何を目的として金の薔薇を見つけたいのか探ることで……。


 もしかしたら何か、代替案だいたいあんなどを提示できるかもしれないと考えてくれたのかもしれない。


「あぁ、いや、なんていうか、俺の知り合いがちょっと喀血かっけつを患ってましてね。

 金の薔薇は、希少性からあまり使う人はいやしませんが、薬草としても優秀で、せきや肺にかなり効くような効能があるって聞きました。

 普通の薬草などを煎じて飲ませるよりも更に効果的だとか……」


「うむ、成る程な、喀血か。……して、その症状は重いのか?」


「えぇ、まぁ。

 そのっ、訳あって村にいる連中のことは頼れねぇし。

 ようなものなので、金の薔薇が無くとも、問題はないのかもしれないが。

 最近特に酷くて、食事もまともに取れないようなことがあるくらいなのは、見ているだけでも心にクるようなものがあって……。

 可能なら俺に出来ることはしてやりたくて」


「うむ、この国に自生している植物に関しては僕もかなり詳しい方だが。

 確かに喀血に効くとなると、金の薔薇ほどの効能はどれも得られぬであろうな。

 血を吐く頻度を抑えるようなことも出来るし、気管支に膜を張り優しく保護をしてくれるような効果もあるのでな。

 治らない病気でも、患者の楽さ加減でいうのならば、飲むか飲まないかで大分変わってくるだろう。

 それだけ金の薔薇が優秀な薬草であることは間違いのないことだ」


 そうして、2、3、ヒューゴに質問をしてくれたアルが……。

 そう結論付けてくれたあとで、私達の方をそっと窺うように見てくれた。


「それで、セオドア、ウィリアム、お前達は、どうするつもりなのだ?

 僕なら、鉱山ならば、昔、薬草を採取するためにかなり通い詰めたのでな。

 大体、その内部が似たり寄ったりなことは知っているから、構造についての把握は僕の手に掛かれば、赤子の手を捻るよりも簡単なものだし。

 目当ての植物を探すことや、鉱山のマッピングについてもドーンと大船に乗ったような気持ちで任せてくれていいぞっ。

 護衛としてお前達が付いて来てくれるのなら、1人で行くより、色々周囲のことにまで気を配らなくて済むし。

 ……金の薔薇について見つける可能性は、通常よりは高まるであろうな」


「オイ、アルフレッド……。

 確かに、俺もお前の植物の知識についてはその博識さを認めてはいるが。

 流石に、1人で行くのは無謀にも程があるだろうっ? というか、昔って一体いつのことを言っているんだ……?

 お前、そんなにも小さな頃から、鉱山に通っていたのか?」


「えっ!? あっ、あぁっ、そ、そうだぞっ!

 森とか自然は僕の友達っていうかっ。

 ……ほっ、ほらっ、そのっ、えっ、えーいっ、昔は昔だっ!

 僕は細かいことに関しては何一つ、覚えていないのでなっ、!

 “何年前”のことなのか聞かれても、もうすぎて忘れてしまったっていうかっ……!」


「あー、安心しろよ。

 アルフレッドのマッピング能力が高いってのは俺も知っているから事実だ。

 ていうか、アルフレッドの事情については、皇帝も隠してる秘匿情報だってのは分かってるんだし、あんまりコイツを困らせるようなこと、言うなよな」


「そうか、お前がそう言うのならそうなんだろうが……。

 だが、アリスがアルフレッドについての事情を父上から聞いて知っているのは一緒に過ごす時間が多いからということで、理解出来るが。

 何故、俺ですらアルフレッドの事について何一つ知らないというのに、お前はアルフレッドの事に関してそんなにも詳しいんだ……?」


「そりゃぁ、まぁ。一緒にいる時間も長いし。

 俺は姫さんの護衛の傍ら、一応、アルフレッドの護衛も皇帝陛下から仰せつかっているもんで」


 口角を上げながら、お兄さまに向かって不敵な笑みを溢して。


 私も忘れかけていた。

 お父様から『誰かにアルについて、何かを聞かれた時』の言い訳の一つを、説明してくれるセオドアに。


【あぁ、もしかして。……だから、セオドア。

 今日、私がアルと一緒に馬車に残るのは反対してくれたのかな】


 と、私は思い至った。


 あの時は、アルが酒場に行く気満々だったから、私もそこまで思わなかったけど。


 2人で馬車に残されること自体は、幾ら戦闘面の魔法よりも、生活魔法の方が得意と言っていても、魔法の使えるアルの傍に私がいても安全は保障されていただろう。


 だけど、お兄さまはアルが魔法を使えることは知らないし。


 お兄さま視点から見れば、私とアルは2人とも、戦闘面では何も出来ないという認識でいるだろうから、セオドアはそれを考えた上で『酒場に来た方がいい』と言ってくれたんだろう。


 馬車で、馭者の人が待ってくれていることを思えば。

 アルと私だけの時に、もしも何かが起こってしまって、アルが魔法を使って私を守ってくれたとしたら、そのことが、目撃されてバレてしまう恐れもあっただろうし。


 どうやって倒したのかと問われても、私とアルとではあまり嘘が得意な方じゃないから……。


 それに対する言い訳が思いつかなくて、困ってしまっただろう。


「……お前が、アリスのことを抜きにして、アルフレッドの傍にいる姿を俺は見たことがないけどなっ?」


 そうして、何故かもの凄く怪しんでいるような、胡乱うろんな視線をお兄さまがセオドアに向けると。


「まぁ、宮廷の中で“”でもあるアルフレッドに手を出してくる奴なんざ、余程の馬鹿でもねぇ限り、そうそういねぇだろ?

 姫さんとアルフレッド、どっちの警護がのかなんて、言わなくてもアンタなら分かる筈だ」


 と、セオドアからは『それっぽい言葉』が飄々ひょうひょうと返ってきた。


 正直者のアルのみならず、私でもお兄さまに直ぐにそれっぽく取り繕うのは……。

 急に核心を突いたようなことを聞かれたら難しいと思うのに。


 セオドアは、まるで何でもないように返してくれていて、本当に凄いなぁ、と思う。


「うむ、それで?

 お前達、行くのか? 行かないのか、はっきりしろ。

 アーサーのことを探すのは勿論のことだが、別に話を聞く限りでは、僕はヒューゴが悪い人間とは到底思えぬし。

 人助けをするのは悪くないことだと思うぞ。

 ……それに、アリスもどちらかというのなら賛成派であろう?」


「えっ? うんっ、出来れば私もヒューゴのことを助けてあげたい気持ちはあるけど……。

 でも、私は多分、何もお役に立てないと思うから口を出せる立場じゃないし、みんなの意見に従うよ」


「……っ、はぁ、仕方が無いな。

 アーサーの母親の当てが外れたなら、俺たちの取れる選択肢はかなり限られてくる。

 一つは、あの信用のおけなさそうな領主から、村人に事情を説明して貰う方法。

 もう一つは、まだ、それよりもマシそうな村長から事情を説明して貰う方法。

 最後にヒューゴ、だが……。

 3日潰すことになるとはいえ、アーサーとは、幼なじみだと言っていたよな?

 そうなるとお前自身も、何かしらのアーサーの有力な情報は持っている、ということだ」


「まぁ、わざわざ俺等にっていう無理難題をふっかけてまで声をかけてきたんだ。

 ……その可能性は高いんだろ?」


 私達の意見が金の薔薇探しをすることに多数決をとるようなことをしなくても、全員賛成の方向へと傾いていることを瞬時に悟って。


 ヒューゴがセオドアの問いかけに、こくこくと、何度も同意するように頷くのが見えた。


「あぁっ! アーサーのことに関しては詳しいし、それについては約束出来ると思いますぜっ!

 けど、一つだけ……、皇太子様達は一体何の目的で、アーサーのことを調査しているんですかい?

 それによっちゃ、俺も流石に昔っからの親友を裏切るような真似は出来ねぇっていうか……っ」


 そうして、少しだけ声を潜めながら、此方に向かって心配するような声を出してくるヒューゴに。


「……とある事件についての調査をしている。

 アーサーはが、今現在、消息不明になっていてな。

 俺たちはその安否も含めて、行方を追っている。

 事件の詳細を調べるためにも、一刻も早く探し出してやることが、アーサーのことを保護するためにも重要なことなんだ」


 と、お兄さまがアーサーが罪を犯したかもしれない事件のことは伏せて。


 “”という言い方で、アーサーの心配していることを前面に出して説明をしてくれれば。


「……成る程な」


 と、納得した様に頷いてくれたあとで。


 ヒューゴは、未だカウンターの上の自分の手前に置いてあった、手つかずの高級なお酒をグッと一気に呷り。


 喉を上下させて、勢いよくグビグビと飲んでいき、グラスの中からお酒が空になるまで全部飲みきってしまうような豪快な飲みっぷりを披露したあとで……。


 プハっと、小さく息を吐き出してから。


 カンっ、と机の上に空になったグラスを勢いよく音を立てて置いて。


「……良しっ、美味い酒も飲んで、充分、チャージ出来たしっ!

 そういうことなら、承知したっ。

 ちょっと話しただけだが、皇太子様ご一行は俺の勘が信用出来るって言ってるし……。

 俺もアーサーのために、協力できることに関しては一肌脱いで全面的に協力させて貰いますぜ!」


 と、此方に向かって元気よく声を出してきて。

 眩しいような、はつらつな笑みを向けてきてくれた。



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