いろいろあった日の風呂上がり、濡れた足にクーにすり寄られて毛を付けられていると、着替えと一緒に置いていたスマホが震えた。
「ん? なんだ?」
身体を拭いて服を着て、見てみると和泉さんからのLINEだった。
「いきなり申し訳ありません。実は私、だいぶ前から狭山さんの裏垢知っていて、あっちの作品にお世話になっていました。それで、厄介ファンの『裏垢メス男子』とその副アカウントらしきアカウントを5つ見つけたので、お伝えします」
腰を抜かすかと思った。は!? 和泉さん僕の裏垢『エロチャ坊主』知ってるの!? しかも前々から!? どこから分かったの!? 知ってて僕との仕事受けてくれたの!? しかもお世話になったって何!? 読んで使ってるの!?
パニックになったが、よく考えたら、重要なのは送られてきた文章の後半の方だ。え、あの厄介ファン、つまり『裏垢メス男子』の複垢特定!?マジで!?
さらに和泉さんから、LINEが送られてきた。複垢らしきTwitterアカウントのURL五つと
、補足。
「裏垢知ってることをずっと言わなくてすみません、千歳には全部秘密にしているのでご安心ください。この特定した5アカウントは、狭山さんのフォロワー全部入れたリスト作って数日分の疑似TL作ってチェックして、怪しいなと思ったアカウントのうち、『裏垢メス男子』が公開している携帯電話番号末尾二桁とそのアカウントの携帯電話番号末尾二桁が一致したものです」
そ、それは確かに確からしいけど、でも僕の裏垢フォロワー4桁なんだけど!?
……いや、うん、たまにいるよ、OSINTの仕事やったほうがいいんじゃないかってくらいソーシャルハックの才能がある人。公開情報を全てさらってつなぎ合わせて、そこから新しい事実を見抜ける人。公開情報すべてを噛み砕いて嚥下できる、妙に情報処理能力の高い人。
Twitterの情報は多くが文字だ。だから、文章の読み書きを職業にしてるような人なら、大量のツイートを噛み砕いて嚥下できておかしくない。いや、でも、こんな身近に、こんな人がいて、それが和泉さんだなんて。
和泉さんが、仕事のTwitter垢を普段とても淡白に使っていて、仕事の実績をお知らせするくらいにしか使っていないのを思い出す。そりゃこれだけソーシャルハックできる人じゃ、自分の出す情報で何がわかっちゃうかわかるもん、情報発信に慎重になるだろうな……。
いや、でも、わからないことは、和泉さんがどこから僕の裏垢を見つけたのかということ。
「ありがとうございます、すみません、ものすごく混乱しているのですが、まず、僕の裏垢、いつ、どこ経由で知ったんですか?」
とりあえずそう送ったら、すぐこう返ってきた。
「藤さんと会ってすぐくらいに、白折玄Twitterのいいね欄で見つけて、後はツイートの内容から狭山さんだと思いました。主に猫ツイート内容が、クーちゃんの特徴と一致したので」
だいぶ前からじゃん!! うえーん、もう迂闊なこと言えない……。
いや、でも、これまでずっと黙っててくれた人だから、そうじゃない人に知られたよりはマシなのか……うーん、女性レーベルのてんころと、TS男子中心R-18同人作品、絶対名義分けた方がいいし、お互いに繋がりがあるのも知られたくないし。『裏垢メス男子』は僕のデビュー前からのファンだからつながりを知ってるんだけども、てんころもTS男子も好きみたいだからその辺は暴露しないでここまで来てるけど……。
……『裏垢メス男子』、その名の通り自分の女装エロコス写真を撮って貼りまくってるんだよなあ。僕女装男子は趣味じゃないから、その全ツイート見て垢の背景を調べるのきつくて、何もできなくて放置で……うーん、ここまで調べられる人、味方にいたら百人力なのは確かなんだよな……。
どう返事していいか考えあぐねていたら、また和泉さんからLINEが来た。
「差し出がましいことをして申し訳ありませんでした。狭山さん、裏垢は別名義完全別物でやりたいのはわかってたんで、こちらもひっそり楽しむだけにしておきたかったんですが、今日の話聞いたら多分ある程度調べられるなと思ったので、調べてしまいました」
うわー、謝んなくていいよ、これまで黙っててくれただけで上等だよ!
僕は慌てて返信した。
「いや、謝らないでください、本当にありがとうございます! 調べてくださったことも、これまでずっと黙っててくださったことも!」
送ってから、そう言えばこの人『エロチャ坊主』名義作品読んでくれてるんだよな、と思って、さらに付け加えた。
「R-18方面でも、ご贔屓にありがとうございます」
すぐ返信が来た。
「最新作、DLsiteで買いました」
うわー! 最新作なのに十ヶ月前でごめんなさい! てんころとあかりさんの手伝いで忙しくて!
「んるるるにゃっ」
ずっと脱衣所でスマホを打ってたので、クーに早く寝室に行こうと文句を言われて、僕は我に返った。
「あー、ごめんね、今行くからね」
僕はクーに先導されつつ寝室に向かい、もっとちゃんと和泉さんに今回のお礼を言わなきゃなと考え始めた。単に仲立ちしてもらおうと思った人が、別方向からこんなにやってくれるなんて。
まあ、『裏垢メス男子』とその副アカウントをすぐにブロックできるわけじゃないんだけど、いざとなったら全部ブロックして鍵に引き込もれるだけで気持ちが楽になる。misskeyとタイッツーとBlueskyの方でも対策は必要だけど、エロチャ坊主垢移行はmisskeyのみに絞ろうかと思ってるし、まあ、なんとかやっていこう。