「秋支度兼ねてさ、身の回りのもの少し買い直したいんだけど、いいかな?」
おやつの手作りレモンヨーグルトケーキを千歳と一緒に食べながら、俺はそんなことを口に出した。一時期より経済的に余裕できたから、もうちょっと生活を見直してもいいかなと思って。
千歳(黒い一反木綿のすがた)は不思議そうに首を傾げた。
『身の回りのものって、何だ?』
「いや、大したものじゃないけど、部屋着とかバスタオルとか、下着とか」
『おっ、いいじゃないか』
千歳は賛成してくれるようだった。
『いつでも女に見せられるパンツ買っとけ!』
そっちの意味で賛成!?
「いや、その、そういう機会は当分ないです」
そう言うと、千歳はふくれた。
『この野郎、いい加減ナンパとかしろ!』
「でも、逆に聞くけどさ、ガリのアラサー男がそういうので見られても恥ずかしくないパンツって、どんな?」
『…………。うーん……』
千歳は難しい顔で考え込んだ。
「特に千歳の希望がない場合は、黒とか紺のトランクスを買おうと思います」
『うーん……まあ、それが無難だな……』
「千歳的にさ、これボロいからいい加減買い換えろっていうものがあったら教えてよ。ユニクロとAmazonとヨドバシ見比べて、いいの探す」
『うーん、そうだな、布団のシーツ、だいぶボロいから、洗い替えも考えて、2枚ほしいな。あと、手拭きタオル、もっと水よく吸うやつがいい』
千歳は、いろいろ思い出しつつ考えるような顔つきで言った。
「わかった、じゃあ、今日時間あるから注文しちゃう」
いつまで夏が続くのかという気温だったが、ようやく秋めいてきた。秋が来て、冬が来て、また春が来る。
千歳と初めて会ったのが去年の春。俺はもう、千歳のいない生活が考えられなくなってる。千歳は今の生活が割と幸せらしいから、なるべく、ちょっとずつだけど、生活の質を良くするってこともがんばるよ、俺。