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お守り作って守りたい

緑さんから俺と千歳に連絡が入った。千歳を呪った犯人はまだちゃんと特定できないものの、非常に隠密に優れた相手なので身の回りに気をつけて欲しい、とのことだそうだ。

「うーん、でも、気をつけろって言われても、どうすればいいんだ?」

俺は首をひねった。そんな、気づかないうちに呪ってくる相手なんて。

『うーん、自分用にもお守り作るかなあ』

千歳(布団を取り入れたばかりなのでヤーさんのすがた)はつぶやいた。

「ん? 千歳のお守りって、千歳にも効果あるの?」

『守るっていうか、鳴子みたいな使い方になるな、ワシだと』

千歳は詳しく説明してくれた。千歳の作るお守りは千歳の念がこもっていて、ちょっとした機能性も持たせられるそうだ。千歳が自分にお守りを作っても、千歳の念は千歳本体の力以上にはならないが、悪意ある存在の接近を感知して警鐘を鳴らすくらいはできるらしい。

「ならいいじゃん、作りなよ!」

そういうことなら、身の回りに気をつけるのはどうにかなりそうだ。俺はホッとした。

「あ、でも、何をお守りにする?」

『んー、組紐作れたらそれが一番なんだけどな』

「くみひも?」

『飾り紐みたいなもんだけどな、作るときに念を込めやすいんだ』

ググってみたら、確かに和装で使われそうな飾り紐がたくさん出てきた。趣味で編む人も多いらしいと知り、Amazonで探してみたら道具と材料がいろいろあったので、千歳のLINEにいくつか商品のアドレスを送った。

『うーん、ナイロンと絹、どっちが丈夫かなあ』

スマホでAmazonを見つつ、千歳は難しい顔をした。

「物理的にも丈夫な方がいいの?」

『うん、物理的に壊されたら、効果なくなる』

「俺も少し出そうか?」

『うーん、じゃあ、紐はワシでじっくり選ぶから、このちょっといい組紐ディスク買って欲しい』

千歳が指差す道具は、確かに他の似た道具より高めの値段だが、千円もしない。

「おっけーおっけー、出す」

そんなこんなでいろいろ買った。Amazonは仕事が早く、翌日には道具と材料が届いた。

ダンボールを開けて中身を出しながら、千歳は嬉しそうに言った。

『紐けっこう長いな、たくさん作れそうだ!』

「いっぱい作っていっぱいつけときなよ」

千歳の身の安全、俺は絶対に確保して欲しい。

『たくさんあれば強いってもんじゃない、ひとつか二つで十分だ』

「そんなもんか」

『そんなもんだ』

そう言ったあと、千歳はちょっと考える構えに入った。

『なあ、お守り作って誰かにあげるのって、人助けに入るか?』

「入るんじゃない? 千歳のお守りなら十分効果あるんだし」

『心霊とか妖怪とか、〈そういう〉方面だけだけどな』

千歳は腕を組んで考え始め、しばらくして腕をほどいて、指折り数え始めた。

『うーん、絶対たくさん作れるから、まずお前に作って、星野さんと緑さんにもあげたいし、あとは、そうだな、金谷家の人達とお前のおばあちゃんにも作るか』

「え、俺にもくれるの?」

おばあちゃんにも?

千歳は得意げな顔をした。

『組紐なら、松の五芒星よりもっといいの作れるからな! 今度は絶対にさらわれないようにするぞ!』

千歳は俺をどやした。……そういえば、俺、悪霊に一回、九さんに二回で、これまで計三回さらわれてるんだよな……。姫か? 俺は。

まあ、確かに、俺も身の安全を考えるべきではある。

「じゃ、作って欲しいな、ありがとう」

俺はお礼を言い、一応こちらの対処法を緑さんに伝えたほうがいいかと思って、千歳は自作のお守りで対処するつもりです、と彼女に連絡しておいた。

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