『ひとつできた! 疲れた!』
夜のまったりタイム。器用に組紐を編んでいた千歳(黒い一反木綿のすがた)が、大きく伸びをして、それから俺に巻き付いてきた。
「ん? 寒いの? 大丈夫?」
千歳は不満気に口をとがらせた。
『念込めたから眠いんだ、寒いときじゃないとくっついちゃいけないのか?』
あ、そういうもんなの?
「いや、そんなことは……いつでもどうぞ」
『うん』
千歳は尻尾を俺の胴体にまきつけたまま、大きくあくびをして、上半身も俺にくっつけてきた。目がとろんとしている。だいぶ眠いなこれは。千歳、寝る必要はないけど、疲れることをすると眠くなるのか。
俺は別にやることがあるわけじゃないから、少し早いけど、千歳と一緒に寝ちゃおうかな。
「じゃ、もう布団行こうか?」
『うん……』
千歳にくっつかれたまま布団に入る。いつもの就寝時間より早かったので、即寝入る千歳をなんとなく眺めていた。
千歳にくっつかれるとウレタン感触がする。一緒に寝てると、抱きまくらと寝てるみたいだな……。
本当に全然そんなつもり無かったんだけど、「抱きまくら」のワードで、エロい絵をプリントした抱きまくらを連想してしまい、俺はあわてた。
ちがう! 千歳はそういう気持ちでくっついてるんじゃないんだ! 邪な連想を捨てろ俺! これはぬいぐるみがくっついてるようなもん! ウレタン感触だし!! 千歳はウレタンの平べったいでっかいぬいぐるみ!
大体、悪夢が怖くてスキンシップ求めてくるような相手にそんなことしちゃダメだよ。千歳は未成熟かつ、性愛も恋愛もピンときてない存在なわけで、そういう存在にそういう対象として欲望をぶつけるのはダメだ。俺、千歳のこと、本当に大事なんだ。
千歳が今なんとも思わなくても、こんな状態で俺が性的な欲望をぶつけたら、やっぱり後で傷になるかもしれないし、そういう対象にするのはやめるべきだ。俺は千歳のこと大事だから、千歳にはできるだけ幸せでいてほしいんだ。毎日楽しく過ごしてほしいんだ。
……とはいえ、一度いきり立ってしまったものはなだめないとどうにもならないので、俺は千歳を起こさないように、そっと千歳の尻尾をほどいて布団を出た。スマホ片手にトイレに行き、秘蔵フォルダを開いて然るべき処置を迅速にこなす。くそー、千歳が来てから唯一困ってるの、こういうことの処理なんだよな……。
気だるい疲労感を道連れに、また千歳を起こさないように布団に戻る。これですぐ眠れるかな?
千歳を起こさないように気をつけながら、千歳の尻尾を元通りに俺の胴体に巻き直した。
『んー……』
あ、起きそう、ヤバい、と思ったが、千歳の背中をそっとぽんぽんしたら、千歳は速やかに眠りの世界へ戻っていった。
……千歳が背中をぽんぽんして欲しがった夜と、その翌日に起こったことを思い出す。俺が千歳をかばって痛い思いをしたのは、第一に、千歳に楽しく幸せに暮らしてほしくて、苦痛を味わってほしくないっていう気持ちがあったからだ。まあ、千歳のために誰か体張って見せたら、九さんを説得するのがうまくいくんじゃないかというのもあったけど……。
千歳が幸せに楽しく暮らせるためなら、俺はなんだって頑張る。まあ、そんなこと言っても、俺は別に対してできることがあるわけじゃなくて、毎日仕事頑張って毎日の糧を稼ぐだけでいっぱいいっぱいだけども……千歳の望む、結婚して子孫を作ることなんて遠いけど……。
でも、千歳が俺の所で楽しくやっててくれてれば、俺はもうそれだけで幸せだから、だから、そのために仕事も生活も頑張るから。
だから、どうか、これからもそばにいて。