家事の合間に組み紐を組んで、腹が減るから毎食どんぶりご飯食べて、眠くなるから夜は寝て、なんだかんだで組み紐が三本できた。
『おい! 見ろ! いい感じのできたぞ!』
組み紐単体としてもけっこううまくできたので、仕事してる祟ってる奴に見せに行った。
「わ、すごい、力作じゃん!」
小さな鈴付きの赤いのが二本、白と黒と緑で編んだのが一本。
『これがワシの右手、これがワシの左手、そんでこれがお前の!』
白黒緑のを祟ってる奴に渡した。
「わー、ありがとう、大事にする」
『うん。ワシのは鳴子だから左右につけるけど、お前のは守るのに全振りしたお守りだから、左右どっちかにつければ大丈夫だからな』
「へえ、そういうふうに作り分けられるんだ」
祟ってる奴は、興味深げに白黒緑の組み紐を眺めた。
『手首か足首に結んでおける長さにしたから、好きなところにつけろ』
「ああ、そうか、ずっと身につけてないとダメだよな」
『風呂のときもつけとけよ』
「そうだねえ、一番防御力低い時だもんな……」
祟ってる奴は、自分の左右の手首を見比べて少し考えていた。
「うーん、右は利き手だから左手につけたいんだけど、片手で結ぶのやりにくいから結んでくれない?」
『わかった』
祟ってる奴が大人しく左手を出したので、結んでやる。手首を締め付けないくらい、指二本くらい入るゆるさで、でも外れないようにしっかり固結び。
「うん、これでいい、ありがとう」
祟ってる奴は、組み紐をはめた手首を見て微笑んだ。
『なあ、ワシも両手首につけときたいんだけど、やりにくいから結んでくれ』
「オッケーオッケー」
『ワシ大きさ結構変わるから、ちょっと緩めで頼む』
「あ、そうだね、気をつける」
祟ってる奴は、ワシの両手首にていねいに組紐を結んでくれた。
『よっしゃ! これでワシ最強!』
両手首を掲げてそう言うと、祟ってる奴は笑った。
「まあ、これで一安心だね。でも、いつも鈴付けてるのうるさくない?」
『あ、この鈴な、ゆらしても鳴らないようにしてある。ワシに何が悪いことしようとする奴が近づいた時だけ鳴る』
「へえ、そんなんできるんだ、すごいな」
『ワシ、できる怨霊だろ?』
ニヤッと笑ってやると、祟ってるやつは笑って拍手した。
「うん、できる怨霊! すっごく有能!」
ワシは、ほめられていい気分になり、そして思いついたことがあって『あ』と呟いた。
『なあ、星野さんにはさ、お前と同じ防御全振りのお守り組紐あげるつもりなんだけど、緑さんはもう〈そういう〉力すごくあるから、鳴子の方がいいかなあ?』
「うーん、そうだなあ……」
二人で首をひねる。
「うーん、あんまり面白い解決法じゃないけどさ、やっぱり本人に聞くのが一番じゃない? 意外と防御全振りがいいかもしれないし」
なるほど。
『それもそっかあ』
「星野さんにあげるのもさ、身に付けなきゃいけないならさ、星野さんが好きな色聞いて、その色で作ったら?」
『そうだなあ』
そういうわけで、ワシは二人にLINEしてみた。
緑さんは、防御全振りがいいって。星野さんは、オレンジと黄色で作って欲しいって。うーん、聞いてよかったな……。
夕飯の準備までまだだいぶ時間あるし、新しく組み紐作ろうかなと思ったけど、一段落ついたら眠くなっちゃった。
一時間くらい寝れば大丈夫だと思うけど、それくらい寝ても大丈夫な時間だけど、どうしよう、いつも祟ってる奴にくっついて寝てるからくっついて寝たいんだよな、でもこいつ、仕事中だしな……。
我慢しようと思って、でも何かする気にもなれなくて、食卓のテーブルに座ってたけど、うとうとしてガクッとなって、ハッとした。
「ん? 千歳? どうした?」
『あ、んー、その……』
「眠いの? 寝たら?」
祟ってる奴は、椅子から立ってワシのことを見に来た。
『……眠いけどくっついて寝たい、でもお前仕事中だから……がまん……』
ぐらぐらしながらそう言うと、祟ってる奴は「ちょっと待って、ならなんとかする」と、机からノートパソコンを持ってきた。
「俺さ、しばらく布団でうつ伏せで仕事するからさ、そうやって添い寝しようか?」
『うん……』
祟ってる奴が布団敷いて用意してくれたので、ワシはすみやかに祟ってる奴に巻き付いた。
「お休み」
背中をぽんぽんされる。
『うん……』
キーボードをカタカタする音を聞きながら、まどろんだ。
組紐、念込めるとやっぱ疲れて眠くなるな……そう言えば、組紐の作り方、ワシの核が知ってるからできたんだよな……朝霧の忌み子の作るお守りとか護符、結構強かったみたいだから……。
ワシの核、夜はずっと一人で寝てたけど、こうやってくっついて寝てくれる人がいたら、すごく嬉しかっただろうなと思う。くっついて寝てくれる人がいたら、多分死んでからもぐちゃぐちゃな気持ちになって暴れなかったと思う。
こいつ、ワシがくっついて寝たいって言ったら、できるだけ言うこと聞いてくれるんだよな……。今は、あの頃とは違うんだな……。
今なら、あの頃みたいに暴れたりしないで、人助けやれるな……。こいつがいつでもくっつかせてくれるなら、ぐちゃぐちゃな気持ちに、多分、ならないから……。