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閑話 秋の味覚をふたりで

栗ご飯とキノコ汁を夕飯に出したら、祟ってる奴がすごく喜んだ。

「わー、すごい、秋って感じ!」

『ワシ、まあまあやるだろ?』

得意げな顔をすると、祟ってる奴は笑った。

「うん、できる怨霊!」

二人でいただきますをする。

「栗ご飯、作るの大変じゃなかった?」

『大丈夫だぞ、甘栗で作ると楽にうまくできるんだ』

「へえー、そんなやり方あるんだ」

『星野さんは、いつも甘栗で作ってるんだって』

二人で夕飯をつつく。アジの塩焼きに箸をつけながら、ワシは言った。

『魚さあ、本当はサンマにしようかと思ったんだけどさ、やたら高いし、それなのに小さいのしかないから、やめちゃった』

「あー、捕りすぎとか気候変動で減ってるんだってね」

『へー、じゃあ買わなくてよかったのかな』

そっか、さんまって令和ではあんまり捕れないのか。もう庶民の味じゃないのかもなあ。

「肉じゃがもおいしいね」

肉じゃがを頬張る祟ってる奴を見ながら、ワシはふと思った疑問を口にした。

『肉じゃがってさあ、家庭の味とか、男が女に作って欲しい料理とか言うじゃないか』

「そうだね」

『でもさ、肉じゃがっていろんな種類あるから、家庭によって味違いすぎないか? 予想外の味来たら、作ってもらっても嬉しくなくないか?』

「豚肉使うか、牛肉使うかとか?」

肉じゃがを飲み込んで、祟ってる奴は返事した。

『あと、塩肉じゃがとかもあるしさ。こないだ、鳥肉じゃがなんてレシピも見た』

今日のうちの肉じゃがは、醤油の豚だけど。

「うーん、まあ、塩の鳥で肉じゃがですって出されたら、ちょっと「えっ」てなるかも……」

祟ってる奴は、また肉じゃがに箸を伸ばした。

「でも、醤油の豚にくじゃがおいしいよ。おいしいのいろいろ作ってもらえるから、仕事頑張れる、俺」

『でも、お前、別に料理作れないわけじゃないだろ』

豚汁やミネストローネを作れる奴なら、別に肉じゃがも難しくないと思うんだけどな。

祟ってる奴は真面目な顔になった。

「いや、できるとやるは天と地の差がある」

『うーん』

そうかな……うーん、まあ、能力的にはできても、やる気が出ないとかあるしな……うーん……そうなのかも……。

「それに俺、ひとつひとつくらいなら頑張って作れても、こんなに毎食いろんなおかず作れないしさ。だから毎食いろいろ食べれるの、うれしい」

祟ってる奴は、キノコ汁をすすった。

『ふーん』

そんなもんかあ。

こいつの人生いいことたくさんあれば、多分こいつはいなくならない。こいつが楽しいこと、人生にたくさん増やしてやったら、多分大丈夫。

それで、こいつの嬉しいことは、うまい飯が食えること。

うーん、じゃあ、毎日やってることだけど、これからも飯作り頑張るか。

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