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秋の誘いで出かけたい

狭山さんに招待してもらったDiscord「茶の間大海」では割と楽しませてもらっている。進捗報告スレッドが一番賑わっていて、進捗報告をする度にメンバーの人達に肯定的なリアクションもらえるのは嬉しいし、進捗報告をしたメンバーにいい感じのリアクションを考えるのも楽しい。いい感じの写真をあげるスレッドも賑わっていて、俺はたまに千歳が作ってくれたご飯の写真や祖母のために撮った花の写真をたげている。親切な人ばかりなので、けっこうリアクションや感想がもらえる。

「茶の間大海」ではマダミスのテキストセッションやウミガメのスープも定期的にやっていて、俺は周りの様子を見つつ少しずつ参加させてもらっている。狭山さん以外の人ともいい感じにやり取りできるようになっていて、これも嬉しい。


夕飯とお風呂を済ませた後の、夜のまったりタイム。千歳はタブレットでてんころのアニメを見返しながら組紐を作り、俺は「茶の間大海」を見ていた。

すると雑談チャンネルに投稿があり、見ると狭山さんが「新作脱稿! 新作脱稿! 新作脱稿!」と書いていた。

祝福のリアクションが次々につく。俺もクラッカーを打つリアクションをつけ、千歳に話しかけた。

「ね、狭山さん新作書き終わったって」

『え、本当か!?』

千歳は組紐の手を止めて俺のスマホを覗きに来た。

『ディスコードってやつにお知らせで来たのか?』

「うん、内々の場所での発表だから、狭山さんが表で言うまで人に言わないほうがいいと思うけど」

『でも、それなら、新作読めるんだよな!?』

千歳の目がキラキラした。

「うん、そのうちね。なんかね、本に制作協力者で俺の名前も載せる予定だって」

担当さんとの相談にもよるが、ちょっとした漢方系コラムを追加で依頼するかも、と言われている。ありがたいことだ。

『すごいなー! あ、お前さ、プロットって言うの見たから内容知ってるんだよな?』

「知ってる、第一稿もチェックした。でも、千歳、内容を俺から聞くより、何も知らないで新刊を読む方が楽しめるんじゃない?」

『うーん』

千歳は悩んだが、やがて言った。

『……本買うまで我慢する!』

「ふふ、えらいえらい」

俺は笑った。

すると、俺のスマホが震えた。LINEだ。見てみると、狭山さんからだった。

「こんばんは、ディスコで見ていただいたと思いますが、脱稿したんですよ」

「おめでとうございます、千歳も楽しみにしてます」

「ありがとうございます、それでですね、前お誘いしましたが、打ち上げってことで飲みに行きませんか? コロナも今減ってるし」

そうだ、そういう話だった! わあ、友達と言えそうな人と飲み食いするのなんて、俺何年ぶりだ? 

「行きます!」

即答したら、歓喜して踊る猫のスタンプが来て、それから予定その他を詰めるやり取りをした。狭山さんが店を選んでくれるそうだ。

「和泉さん、嫌いなものとか食べられないものとかあります?」

「嫌いなのはパクチーくらいですね。過度な刺激物と油が腸的にダメだけど、多少なら大丈夫だと思います」

「じゃ、いい感じに飲めてつまめてゆっくりできそうな所探しますね」

そんなやり取りをして、千歳に「狭山さんに打ち上げ飲みに誘われちゃった」と伝えたら、千歳は『ちゃんと友達じゃないか!』と喜んだ。

『よかったなあ、お前』

「うん、気持ちよく付き合えそうな人と知り合えて、本当によかった」

『あ、飲みの日、夕飯いらないのか?』

「そうだね、まあ、千歳はたまにはお休みということで」

いつも食事作ってもらってるの、ありがたいと同時にいつも働いてもらって悪いなと思ってるんだよ、俺も。

そしたら、千歳はウキウキした顔で言った。

『あのな、ワシ、緑さんにハイティーっていう夕飯行こうって誘われてるんだ、候補の日にお前の飲みの日が入ってるから、その日ワシも外食にしたい』

「わかった、じゃあその日はお互い外出るということで、スペアキー持ってってね」

金木犀が香る、過ごしやすい気候の秋。外出するにはいい季節だ。楽しんでこよう。

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