目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

ホントのことを話したい 上

おばあちゃんに、老人ホームの面会予約ができたことをLINEで告げると、とても喜んでくれた。

「会えたら、栗田さんのこともちゃんと紹介するわねえ」

「俺も、千歳のこともっとちゃんと話すね」

そう、千歳は俺の彼女ではないとちゃんと話して、誤解させるような言い方をしたのを謝らなくてはならない。

おばあちゃんに宣言してから、俺は夕食の席で千歳にも宣言した。

「あのさ、面会の席で、おばあちゃんに千歳のこと彼女じゃないってちゃんと話すね」

『うん、頑張ってこい』

千歳(幼児のすがた)は、鶏の照焼を頬張った。

「できるだけ正直に話すよ、千歳が怨霊だってことと、俺を祟ってることは流石に伏せるけど、恋愛関係じゃない同居人だってことは、ちゃんと言う」

『うん、ワシ別に女じゃないし、彼女じゃないってちゃんと言ってこい。まあ、男でもないけど』

それ言っていいんだ。まあ、確かに千歳は、どちらの性別でもないと診断書があって、戸籍にも性別は書いてないけど。

「とにかく、しっかり説明してくるよ」

自分を追い込むために、俺はそう言った。


そして、おばあちゃんがいる老人ホームへ行く日になった。地下鉄に乗って、降りて、さらにバスに乗った先。暖色の二階建て、ゆったりしたデザインの大きな建物が、おばあちゃんのいる老人ホームだった。

とりあえず玄関から中に入り、エントランスの受付らしきところを探して職員の人に声をかける。職員の人に挨拶し、利用者の和泉つゆの孫で和泉豊だと名乗ると、職員さんは「面会の方ですね?」と愛想よく迎えてくれた。

「いつもお花の写真ありがとうございますね、みんなで見てるんですよ」

「え!?」

え、確かにおばあちゃんが喜ぶから近所の花の写真撮って送ってるけど、他の人も見てるの!?

「お部屋までご案内します。お部屋に行く途中に、お写真貼ってありますから、見てください」

職員の人に廊下を先導されて歩く。確かに、壁のあっちやこっちに、撮った覚えのある花の写真がちょこちょこ貼ってあった。

「生のお花は管理が大変で置けないから、利用者さんたち、お花の写真楽しみにしてらっしゃるんですよ。栗田さんがデータくれて、プリントして飾ってるんです」

おばあちゃんは実はLINEを使えないので、おばあちゃん宛のLINEはおばあちゃんの友達である栗田という人のLINE宛に送ってる。俺はその栗田さんも見ること承知で送ってるし、花の写真なんかはおばあちゃんに栗田さんと見て楽しんで欲しい、と思ってるが、まさかそれ以上の人が見てたとは。

「そうだったんですか……」

近所の花で目についたの撮ってるだけなんだけど、えらいことになってたな……。

廊下の横にある、談話室で歓談しているご老人たちが目に入った。職員の人がそちらに声をかける。

「こちら、和泉さんのお孫さんですよ、いつもお花の写真送ってくださる方」

すると、俺はご老人たちににこやかにあいさつされてしまった。

「あらー、そうかい、いつもありがとうね」

「楽しみにしてるよ!」

俺、そんなにここの人たちに認知されてるの!?

びっくりしたが、無視は無作法すぎるので、ひとまず愛想笑いを浮かべて頭を下げた。

「祖母がお世話になっております。近所で撮れる分だけですが、いいの撮れたらまた送らせていただきます」

それから、職員の人についてもう少し建物の奥に行き、利用者の個室のドアが並ぶ棟についた。

「和泉つゆさんは、こちらのお部屋です。特別に、栗田さんもお部屋にいらっしゃいますから、一緒に面会してあげてください」

「ありがとうございます」

ドアをノックして「来たよ、おばあちゃん」と声をかけて部屋に入る。

「豊ちゃん!」

部屋に入ると、おばあちゃんが、ソファから立ち上がって杖にすがってこちらに歩いてこようとしていた。

「久しぶりねえ、よく来てくれたわねえ」

かなり歩き方が危ういので、俺はあわてておばあちゃんに駆け寄って支えた。そうか、何年も会ってないもん、年取って足悪くなってて当然か……。

「おばあちゃん、無理しないで、とりあえず座って!」

ソファの傍らには、車椅子のおじいさんがいた。

「つゆさん、嬉しいのはわかるけど、無理をしないでください」

「ごめんなさいねえ。あ、豊ちゃん、こちらが栗田さんよ」

おばあちゃんはソファに座り、車椅子のおじいさんを手で示した。

え、栗田さんって男だったの!? 友達って言うから、勝手に同年代のおばあさんを想像してたけど!?

「こ、こんにちは、初めまして、和泉豊と申します。いつもLINEをお借りしててすみません」

「いえいえ、いつもつゆさんと二人で楽しく見てますよ」

栗田さんは微笑んで、俺に頭を下げた。

「栗田大和と申します、こちらこそ、初めまして」

とりあえず、気持ちよく付き合えそうなおじいさんだ。それはよかった。

しばらくの間、三人で軽く近況を話した。ここに来るまで時間かかったか、とか、最近どんな感じだとか、そんな軽い話。

その後、おばあちゃんが話を切り出した。

「あのねえ、一度ちゃんと豊ちゃんに話したかったんだけどねえ……。私、栗田さんはお友達ってずっと紹介してたけどねえ、違うのよ、ごめんなさいねえ」

「え、そうなの?」

割と親しげに見えるけど? 部屋に一緒にいて、面会の席にも付き添ってもらって、LINE共有してて、それでも友達じゃない? どういうこと?

訝しむ俺に、おばあちゃんは乙女のように顔を赤らめながら言った。

「栗田さんはねえ、おばあちゃんの、彼氏なの」

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?