栗田さんとおばあちゃんが語るには、こういうことらしい。
おばあちゃんは、俺が就職して少したった頃くらいに栗田さんと知り合ったそうだ。そして友達になって、そのうち、友達より特別な関係になったらしい。
なので、おばあちゃんは弁護士をしていた栗田さんに、おじいちゃんから相続したものについてや、息子夫婦の問題をいろいろ相談していた。そして、おじいちゃんが昔付き合いで買っていた会社の株が、今かなりの価値になると栗田さんが見つけた。そんな折、おばあちゃんが加齢でギリ要介護1に該当すると判明した。
そして、今ならできると判断した栗田さんが、おばあちゃんの株の売却も二人で入る老人ホーム探しも老人ホームとの契約も、あらゆる手続きをすべて引き受けて、おばあちゃんと同じ老人ホームで最後の時を過ごすことにしたそうだ。
「私は年をとる前から足がダメですが、それ以外は意外と元気でしてね、立ち歩く以外は大体こなせるんですよ」
栗田さんは鷹揚な口調で語り、微笑んだ。おばあちゃんは栗田さんの手をそっと握った。
「栗田さん、とっても頼りになるし、何でもできるのよお」
おばあちゃん、恋する乙女の顔をしている……。自分の祖母のこんな顔を見ることになるとは……。
栗田さんはさらに話した。
「私は移動が大変な人間ですから、パソコン通信の時代からインターネットを便利に使ってましてね。おかげで、身体はここにいますが、歳の割に色々なことができまして」
「そ、そうだったんですか……」
ひえー、インターネット老人会どころの騒ぎじゃない!
「なのでね」
栗田さんは、俺をまっすぐ見て、はっきりした口調で言った。
「私は、ちゃんと調べてしっかりした老人ホームを選びましたし、つゆさんと二人で住み続ける資金は十分ありますし、必要なものも自分たちで手に入れられますから、心配しないでください」
「は、はあ……」
びっくりし続けで、俺は気付くのがワンテンポ遅れた。あ、これは、栗田さんのこの宣言は多分、「こっちはうまくやってるしあんたに迷惑はかけないから、こっちにひどい対応はしないでくれ」をそれなりに含んでる。
俺は、なんとも言えない気持ちになった。誰が悪いって、長い間おばあちゃんを放ってきた俺が悪いのだ。俺がおばあちゃんを放ってきた間、おばあちゃんを支えてくれたのが、この人なのだ。俺、栗田さんにものすごくはっきりと敵視の言動をとられても仕方ないのに……。
「あの」
俺は、できるだけ「自分はあなたと敵対したくない」の感情を声に含ませるように、栗田さんに言った。
「祖母にいろいろよくしてくださって、本当にありがとうございます。祖母孝行をろくにしてこなかった私と、祖母が連絡を取るのをずっと手伝ってくださって、本当にありがとうございます」
そう言って、俺は栗田さんに深々と頭を下げた。
「……ありがとう」
栗田さんの、おだやかな声が聞こえた。
俺は頭を上げ、栗田さんに少し微笑んでから、今度は祖母に話しかけた。
「あの、好きな人がいるっていうのはすごく幸せなことだから、おばあちゃんにそういう人がいてくれてよかったよ」
おばあちゃんは、血色のよい顔で微笑んだ。
「そうねえ、豊ちゃんも千歳さんがいて、いま幸せだものねえ?」
「う……」
い、痛いところを付かれた! いや確かに千歳がいてくれて俺はすごく幸せなんだけど、おばあちゃんの思ってるような関係ではないんだよ!
俺はしばらく考え、観念して、おばあちゃんに言った。
「あの、俺もちゃんと話さなきゃけないんだけど、千歳について誤解させるような紹介した俺が悪いんだけど、千歳とは、その、特に恋愛関係ってわけではないんだ……」