「あの、一緒に暮らしてるとか、すごく世話になってるとか、おばあちゃんに前に話したことは全部本当なんだけど、恋愛関係ではないんだ、千歳とは」
そう言うと、おばあちゃんはぽかんとした。
「千歳さん、豊ちゃんの彼女じゃないの?」
「ごめん、彼女じゃない。ていうかその……千歳が言っていいって言うから言うけど、そもそも、千歳は女の子か男の子かも曖昧なんだ」
俺は千歳のことを話した。流石に俺が千歳に祟られてることは伏せたが、ひょんなことから出会った霊能力者が千歳だということ。千歳は霊能力が強すぎる上、性別がはっきりわからないせいで、十四歳か十五歳くらいまでずっと座敷牢に閉じ込められて育ったこと。俺と会ってから、戸籍を作ったり仕事したりを始め、少しずつ人間の暮らしになっていること。
おばあちゃんも栗田さんもびっくりしていた。
「女の子じゃないの? こないだ会った時は女の子にしか見えなかったけど……」
「この時代に座敷牢なんてあるのかい?」
そりゃ、そう言う反応になるよな。俺はまずおばあちゃんの質問に対応した。
「えっと、千歳は、なんていうかその……特殊メイクみたいなことがすごくうまくて、割といろんな姿になれるから、女っぽくも男っぽくもなれるんだ。で、千歳的には、若い女の子の姿は怖がられにくくて好かれやすいらしくて、だから、おばあちゃんと会うときは女の子の格好で行ったんだ、本人なりに気を使った結果」
「そうだったの……。でも、どういう風に男の子か女の子か分からないの?」
「いや、うーん、詳細は俺もわかんないけど……」
千歳の性別がどういう事になってるのか。確かに少し気になるけど、あなたの性器はどうなってるんですか、なんてそうそう聞けないよ。しかも、「孕むことも孕ますこともできない」なんてネガティブ満々に記録されてた状態なんて。
「まあなんていうかその、あんまり他人に言いたくない体のプライベートな部分だし……ただ、病院でちゃんと「どっちかわかりません」って診断書もらってて、戸籍に性別載せなくていい特別措置してもらってる」
「そんなのがあるのねえ」
おばあちゃんは目を瞬いた。俺は栗田さんに対しても説明した。
「霊能業界は家制度が強くて、血を残すことが重要だから、血を残せないけど力が強い、みたいな千歳はとりあえず閉じ込めておくことになったみたいなんです。建物的にも古くて大きい家がけっこうあって」
俺は二人にさらに千歳についての説明をした。千歳の生家はちょっとアレだが、今は生家とは別の霊能業界の家が、千歳に仕事だの何だのいろいろ援助してくれていて、千歳は去年、その家の養子になったこと。その後、千歳は、千歳の生家に嫁入りした人とひょんなことから友だちになって、仲良くしていること。何にせよ、俺と千歳の今の生活に問題はないこと。
「ずいぶんいろいろありますねえ……」
「そんなにいろいろあったのねえ……」
栗田さんもおばあちゃんも嘆息した。フォローの必要を感じて、俺はさらに説明した。
「育ちの割に、千歳本人はすごく明るいけどね。で、生まれのせいか育ちのせいかわかんないけど、千歳、恋愛的な意味で人を好きになるっていうのがピンときてないみたいで。中学生くらいまでずっと閉じ込められて育ってきたような人だから、情緒的にまだ幼いところもあって。だから……恋愛関係にはなれないんだ、だから彼女じゃない、ごめん」
そうなんだ、俺は、そういう感情を千歳に向けちゃいけない。本当に大事で、大好きな人だけど。
栗田さんが、少し心配そうな顔で聞いてきた。
「千歳さんはいろいろあった人みたいですが……豊くんにとって、どういう人なんです?」
俺にとっての千歳。
……あ、だめだ、これ、すごく真剣に答えなきゃいけない場面だ。おばあちゃんに聞かせて、栗田さんにも聞かせて、二人を安心させるために、俺が二人に正直に話すために、避けて通れない。
俺は少し考え、大きく深呼吸して、言った。
「千歳は……私にとって、とても大事な人です。そりゃ、お互いいろいろあるけど、でも千歳が来てくれてから、私は本当に幸せなんです。ずっと一緒にいたい人です。これからもいろいろあるかもしれないけど、私は千歳と一緒にいるために、できる限りのことをしたいと思っています」
口に出してみて、言い過ぎたかなと思ったけど、大げさな言葉ながらすべて正直な気持ちだった。俺、こんなに千歳のこと大事で、大好きで、一緒にいたいんだ……。
「…………」
「…………」
栗田さんとおばあちゃんは、少し驚いたような顔をしたが、やがておばあちゃんが俺の腕に触れた。
「……今、豊ちゃん、幸せなのね?」
……うん、そうだ。千歳が来てくれてから、俺はすごく幸せになった。
「うん、幸せ。全部、千歳のおかげ」
「それなら、おばあちゃんはもうなんにも言うことないよ。千歳さんと仲良くしなさい」
おばあちゃんは、やさしく微笑んだ。