いつもの喫茶店で、南さんから千歳の状況を聞いてる。九さんも来てる。
南さんはすまなさそうに言った。
「千歳さん、和泉さんを最大級にいい人だと思ってるので、今さらアピールすることは全くないんですが、やはり父か兄みたいな存在という認識から抜けられなさそうで……」
「ああ……」
まあ、予想できたことではある。俺はため息を付いた。
「まあ、私も一生そのポジションは覚悟してたつもりですが、なんかこのまま行くと千歳が他の人と恋愛したり結婚したりも有り得そうで、もうダメです」
「そんな、あきらめてはいけません!」
「千歳は明日錦くんとプラネタリウム行くって楽しそうなんですよ、15の男の子とふたりきりでそんなところ行ったらもう付き合ってるようなもんですよ……」
九さんが「お主も大概面倒じゃな」と眉根を寄せた。
「千歳に、朝霧錦と付き合うのをやめてくれといえば済むだけの話じゃろう」
「錦くんには全く瑕疵がないので、それを言うと付き合っちゃいけない理由を聞かれるし、理由と言ったら私のわがままだけでしかないので……」
「まあ、そう言われるとそうじゃが……うーん、お主がそう言う、わがままを振り回さない人間だからこそ、千歳はお主を信頼している部分はあるじゃろうしな……」
しばらく、三人で顔を突き合わせて唸ったが、九さんが顔を上げて言った。
「いや、妾が来たのはこういうことを話すためではなくての。ミクズメがのう、お主のことを嗅ぎ回っていてのう」
「なんか変に目をつけられちゃいましたね」
ミクズメさん、なんか男を落として食い物にしてそうな人だから怖いんだよな。俺に食い物にする部分なんてないと思うんだけど。
九さんは俺の左手首を指さした。
「その組紐、それは強力な守護力を持っているからの、直接的な危害を加えられることはないと思うが……直接でない危害や、お主が危害と思わないことからからは守れないからの」
「えっ、例えばどういう……?」
間接的な危害、俺が危害と思わない危害?
九さんは説明してくれた。
「宇迦之御魂神様が強化したからの、単純に人から殴られたり蹴られたりは軽減してくれる。霊力による危害からも守ってくれる。しかしのう、異界に誘い込まれるような、間接的な干渉はありうるし、お主が危害と思っていなかったら殴られたり蹴られたりで痛い思いをすることはある」
異界か。九さんに連れ込まれたことある。夏の屋外なのに蝉の声がしない、かなり不気味だった。
「なるほど、変なところに連れ込まれるのは防げないと……いや、殴られたり蹴られたりはよっぽどのことじゃない限り危害と認識すると思いますけど」
「まあ、それならよい。ややこしくてすまんの、手術やら何やらで体を切ったり縫ったりができるようにするには、危害ではないと認識しているものは除外しないとならないのじゃ」
「なるほど……まあ、つまり、ミクズメさんは私を変なところに連れ込むことはできるということですか」
「左様じゃ」
九さんは人差し指を立て、その指を俺の胸にずいと突き刺すようにした。
「つまりのう、ミクズメに変な所に誘いこまれても、変なことをするなよ」
「……? ……あっ、はい!」
変なところに連れ込むって、連れ込み宿的なことかよ!
「わかればよい。妙に縁を結ぶとな、そこから入り込むからな、奴は」
「肝に銘じます」
そっかあ、初対面で言い寄ってくる人だもんな、予想できたことではあるな……。
結局、気の利いた案は何も出ず、その場は終わった。