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一緒に食べるご飯がうれしい

 天井を見上げると、千歳と九さんが明るい穴から覗き込んでいた。俺は悲鳴のように言った。


「助けてください!」


 九さんは「そのつもりで来たんじゃ!」と穴から部屋に降り立った。


「何もしとらんな?」

「されそうでしたけど未遂です!」

「そうかそうか、よくやった」


 九さんはさっと俺とミクズメさんの間に入った。千歳も部屋に降り立ったが、俺と半裸のミクズメさんを見て目を丸くした。


『え、さらわれて襲われるってそっちの意味か!?』

「そっちの意味でも嫌だよ!」


 俺は叫び、ミクズメさんは忌々しげにしていたが、ふと諦めたような顔でため息をついた。


「つまんないですわね」


 九さんはミクズメさんを睨みつけた。


「本っ当に貴様は……」

「まあ、私、善良な一般男性にはあんまり好かれませんのよねえ」

「自分をよくわかっとるな、帰れ」

「ここ私の家よ、帰るのはあなたがた」

「くそっ、こんなところにいられるか! 帰るぞ二人とも!」


 九さんは床を踏み鳴らしそうな形相で俺と千歳に言うので、俺はありがたく帰らせてもらうことにした。

 九さんが壁を探るように触ると、扉が現れ、その扉を開くと、俺の家の玄関から見る光景が広がっていた。


「ほれ、お主らの家に繋いだからの」

「ありがとうございます」

『ありがとー!』


 三人で扉をくぐり、扉を締めて、俺はため息をついた。


「ひどい目に遭った……」

『筆下ろししてもらえばよかったのに』


 千歳は露骨にがっかりし、その千歳の背中を九さんがはたいた。


「こういうしっかりした男だからお主は支えられとるんじゃぞ!」

『それは……うーん、まあ、そうかも』


 九さんは俺の方を見た。


「あいつは男をたらしこむのが得意じゃからの、変に誘われて変に縁を結んでいたらどうしようかと思っとったが、お主がしっかりした男で本当によかった」

「いやでも、危なかったですよ、押し倒されそうになったし。お守りが危害判定して弾いてくれてなかったらどうなってたか」


 俺はため息を付いた。


「ほう、そう言うところまで効果があったか。まあ、そのお守りは外さないことじゃな」

「外しません」


 千歳がむくれた。


『南さんからさ、お前がさらわれたって電話きて、九さんもすぐに来て、お前がミクズメさんに襲われてるからミクズメさんのところの空間につなげる霊力貸せって言われたんだよ。びっくりした』

「うん、まあ襲われてはいたけど、ごめん、心配かけたね」

『昼飯食いっぱぐれた!』


 俺はそこで、千歳がデート中だったことを思い出した。


「ごめん、楽しんでたときに悪かったね」

『いやそれはいいけど。錦くんにも事情話したし』


 九さんがつぶやいた。


「……そこでまず千歳を慮れるのが、お主のいいところではあるんじゃがな……」

『ん? 何?』


 千歳は不思議そうな顔をした。


「いや、なんでもない。後は妾が片付けておく。千歳、和泉と仲良くするんじゃぞ」


 九さんはそう言って、ポンと音を立てて消えた。


『割と仲良くしてるつもりだけどな?』


 千歳は首を傾げた。


「まあ……うん、仲良くはあるよね」

『お前昼飯食ったのか?』

「まだ」

『じゃあワシ適当にパスタ茹でるから、一緒に食おう』

「うん」


 千歳、錦くんとのデートより俺の危機を助けることを選んでくれたのか。まあ緊急度としては当たり前ではあるんだけど、うれしいって思っても、いいよな?

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