錦くんに断るって言ってから、ずっとなんとなく元気がなかった和泉が急に元気になった気がする。何でだ?
それはそれとして、ワシは困ってる。
『錦くんにどう断ればいいかなあ』
夕飯の時、和泉にそう話を持ちかけると、こう言われた。
「頑張ってはみたけど、やっぱり恋愛感情湧きませんでした、でいいんじゃない?」
『なんかさ、錦くんは全然悪くなくて、ワシが悪いだけだっていうことを言いたい』
錦くんに悪いところはなんにもない。ただ、手を握られた時、ワシがうまく受け入れられなかっただけだ。
和泉は少し困った顔をして、「でもさ」と言った。
「別に千歳も悪くないだろ? もともと恋愛わかんないってところを、やってみようと頑張ってみただけえらいよ」
『そうか?』
ワシは、少し気分が楽になった。
『仕方ない、直接錦くんに会いに行って、ごめんっていうかあ』
「どこかで待ち合わせるの?」
『ワシの都合だから、錦くんちの近くまで行って、適当に喫茶店かどこかで話す』
「それくらいでいいと思うよ」
それで、錦くんに連絡取って、次の日に錦くんちの近くの喫茶店で待ち合わせたんだけど、錦くんは明らかに気落ちしていた。うーん、プラネタリウムの時あきらかに気まずいまま別れちゃって、その後やりとりも最低限しかしてなかったしな!
「僕……ダメでしたか?」
『えっと、ダメじゃないんだけど……ダメなところ全然ないんだけど……』
どう言えばいいか困ったけど、ワシは結局和泉の提案の通りのことを言った。
『頑張ったけど恋愛感情わかなかった! ごめん!』
「……そうですか……」
錦くんはうつむき、ものすごく落ち込んでいるのが傍目から見てわかったので、ワシは慌てた。
『えっと、本当に錦くん何も悪いところないんだよ! 錦くんでダメならワシ、他の人とも恋愛無理だと思うし!』
「僕はダメなんですね……」
『それはその……ごめん! 本当にごめん!』
ワシは頭を下げることしかできなかった。こうなるなら最初から断っておけばよかったのかなあ、本当に錦くんには悪い事した……。
謝り倒して、電車に乗って家に帰ろうとしたら、緑さんからLINEがあった。
「錦くんと付き合うのやめたって本当?」
話が回るのが早い!
『うん、ワシ恋愛わかんないから、一緒に遊んでみて恋愛感情わいたら付き合おうって言ってたんだけど、ダメだった、恋愛感情わかんなかった』
「錦くん、千歳ちゃんになにか嫌なことしてない?」
『変なことは全然されてない! 錦くんはなんにも悪くない!だけど、手を握られて、その時、うれしいとか楽しいとかなくて、ただ困っちゃったんだ』
「そうだったの?」
『手を握られるの自体が困るのか、恋愛感情込めて手を握られるのが困るのかわかんなくて、星野さんと和泉にも手を握ってもらったんだけど、どっちに握られても困らなかったから、恋愛感情込みだとダメなんだろうなって思って、錦くんと手をつなぐのもダメならそれ以上のことなんてもっとダメだろうなって思って、錦くんにごめんなさいした』
「そう、真面目に普通にお付き合いして、その上での結論ならよかった」
緑さん、そんなに気にしてたのか。そこまで考えて、錦くんの気持ちを断るって言ってから、和泉が元気になったの思い出した。
『ごめん、ワシが錦くんと付き合うかもって話で、もしかしてたくさんの人が困ってた?』
「うーん、困るっていうか、朝霧家的には千歳ちゃんといいつながり作れるならってなってたんだけど、どう転ぶかわからないから、状況を注視してた人はたくさんいたし、和泉さんは多分すごく困ってた」
『え、そうだったのか!?』
和泉、そんなに困ってたのか!?
「千歳ちゃんを困らせたくないから和泉さんは気を遣ってたと思うんだけど、本当はすごく心にきてたみたい」
『そんなに!?』
和泉、そんな家同士のことまで考えて困ってたのか!?
『じゃあもう誰とも付き合わない! 錦くんでダメなら他の人とも恋愛無理だと思うし、絶対誰とも付き合わない!』
「そこまで無理しなくていいのよ、これから千歳ちゃんが好きな人できる可能性もあるんだから」
『無理っていうか、ワシは恋愛が無理だと思うから、無理じゃないんだ』
「そうなの? じゃあ、千歳ちゃんが恋愛的に誰かと付き合う気はないって話は、関係各所に伝えてもいい?」
『そんなに大きな問題だったのか!?』
「状況を注視してる人は多かったのよ」
『伝えていいよ、みんなを困らせて本当にごめんなさい』
「ありがとう、でも謝ることないからね」
『でもごめん』
そっか、ワシが知らないだけでみんな困ってたのか……そう言えば、前に狭山先生に、ワシの影響力はワシが思ってるよりすごいって釘刺されたな……。こういうことだったのか……。
……帰ったら、和泉にも謝ろう。