「お願いです! 協力してください!!」
錦くんに土下座かと思う勢いで頭を下げられ、俺は困った。
いつもの喫茶店の個室席である。錦くんに、千歳となんとか付き合い直すために協力してくれないかとごねられているのだ。
千歳の『恋愛は無理』発言からすると、俺に何も協力できることはないのだが……。
「いや、ごめん、千歳がもう恋愛自体無理って言ってるからね、俺が何か言ったところでどうにもならないから」
「それでも!」
それでもって言ったってねえ。
……大人げないかもしれない。だけど、俺は、錦くんと千歳が恋愛関係になってしまうかもしれない、という状態に苦しめられた。俺は、錦くんを、少年ではなく男性として扱うことにした。
「……あのね。千歳は俺のことを兄か父みたいに思ってるけど、俺は千歳のことを妹とも娘とも思えてないんだ。だから、錦くんに協力はできない」
錦くんはぽかんとした。
「どういうことですか?」
「言わなきゃわからないかな? 千歳はあんなんだけど、戸籍上二十歳だし、実際はもっとずっと上の年齢なんだよ?」
「???」
錦くんはしばらく理解できてない顔だったが、突然「え!?」と叫んだ。
「えっえっ、和泉さんも千歳さんのこと好きなんですか!?」
「千歳があんなだから伝えてないだけだよ、千歳は何も知らないし、知らないままにしておいて欲しい」
「で、でも、なんで言わないんです?」
「千歳は色恋がピンときてないから。恋愛も性愛も、知識はあるけど自分でやりたいと思わない。そういう欲がない。だから、伝えてもこっちの都合の押し付けだから」
そう言うと、錦くんは、呆然として押し黙った。俺は、ダメ押しで言った。
「千歳が好きだから、大事だから、俺は何も伝えないことにしてるんだ」
「…………」
錦くんは黙りこくり、そして俯いた。
「……今、千歳さんを好きな気持ちで負けた気がします」
「まあ、負ける気はしないな」
俺は苦笑した。
「協力してくださいって言って、ごめんなさい」
「いいよ、でも協力はできないし、また千歳と恋愛関係になろうとしたらやめてって言うよ」
「はい……」
錦くんは、とぼとぼ帰っていった。
15歳の男の子に意地悪したかなあ、でも、俺も結構苦しかったんだぞ? ちょっとくらいは、いいだろ?