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第53話 陽動作戦 ~フォルトナサイド~

宿屋の女の人からいろいろ聞いた翌日--

情報の確認の意味もあって、みんなで領主の家へ向かったんだよねー。

近くまで行ってはみたものの、憲兵たちが厳重に警戒していて、アリの子一匹入る隙すらなかった。


「こりゃ、中に入ってとか言える感じじゃないな」


困った顔をしながら、アグリがぼやいていた。


「そうだねー。

 ちょっとこれだとボクにも無理かな」


外がこれだけ厳しいと、中もかなり厳重に守っているだろうなー。


「だから、ワシが蹴散らしてあげようぞ」


ゾルダは血気盛んに息巻いているねー。

その方がゾルダらしいけど。


「ちょっと待ってくれ。

 ここではまだゾルダの出番は早いから。

 もう少しだけ待ってくれ」


アグリは慌てて止めに入る。

なんかいつものやり取りだねー。


「外からは様子は伺えないし、何があるかもわからないから。

 いったん、ここは様子見で、鉱山を見に行こう」


アグリは領主の家の調査は諦めたようだ。

でも、これだけ警備が厳重なら、仕方ないねー。

その判断が正解だよ。


それから領主の家から離れたボクたちは北東の鉱山の入口へと向かった。

山の麓にある入口もこれまた警備がすごかった。

人の出入りはあまりなかったので、ずっと男の人たちは中で働いているのかもしれないねー。


「こっちも凄いな……

 これだけ憲兵を鉱山や家に回していたら、街の入口に人は割けないな」


どうやら街の出入りを見張るより、こちらの方が大事なのかもしれないねー。


「街の入口に誰もいなかったのは、アルゲオのこともあると思いますわ」


マリーがキリっとした表情でみんなが思ってもいなかったことを口にした。

そしてそのまま話を続けた。


「アルゲオがここの領主の差金の可能性が高いですわ。

 アルゲオが出ることで、他の街との行き来が出来なくなり、

 結果として、入口の警備もいらなくなりますわ」


確かにそうかもしれないねー。

マリーってそんな分析できる印象ないんだけどなー。

意外に考えてるなー。


「たっ……確かにそうかもしれんのぅ。

 マリーは頭がいいのぅ。

 ワシも考えつかなかったことを……」


ゾルダはマリーの頭をナデナデしていた。

マリーは満面の笑顔をしている。


「当然ですわ。

 これぐらいマリーにかかれば、簡単ですわ」


胸を張って得意げな顔をしているマリー。

そんなに調子に乗らなくてもとは思う。


「それはわかったけど、この警備じゃ簡単には入れないのは変わらないしな。

 どうしたものか」


アグリは思い悩んでいる様子だった。

確かに、この警備では簡単にいかないよねー。

悩むのもわかる。


「かとって、正面突破ともいかないしねー」


いくらゾルダが強いとは言え、中で何が起きているかわからないところを突破していくのは良くない気がするねー。


「この警備を分散できないかな」


アグリが何か思いついたようだねー。


「街中で騒ぎを起こせば、そちらにさすがに行かざるを得ないだろ。

 そうすれば、ここの警備も薄くなるんじゃないかな」


陽動作戦かー。

それはいいかもしれないねー。


「だったら、ボクがその騒ぎを起こす役目をするよ」


素早く動けるし、ボクが適任な気がしたので、名乗り出てみた。


「何度も失敗しておる小娘の娘に出来るのかのぅ」


ゾルダがまたボクを煽ってきた。

そこまで失敗してないし、何度も言うなー。


「ワシがその役をやるぞ。

 騒ぎを起こして、こちらに来た憲兵を全部倒してあげようぞ」


ゾルダがやる気満々でいる。

確かにゾルダでも出来そうといういか、全滅させそうだけど……


「いや、だってゾルダは俺から離れられんだろ?

 俺の近くに剣がなければ実体化できないくせに」


アグリが剣に手をやりながらそう答えた。


「うぬぅ……

 確かにそうじゃな……」


やりたいのはやまやまだけど、封印が解けていない以上出来ないこともあるしねー。


「そうなると、この間出てきたばっかりのマリーも無理。

 出来るのはフォルトナだけになるかな」


どうやらボクがその役目をやらせてもらえそうだ。


「立候補したぐらいだし、任せていいかな、フォルトナ」


アグリはボクを見て、親指を立てた。


「うん、任せてよ」


そう言うと、アグリたちの下から離れていった。

そしてそのまま鉱山の反対の街の一角へと向かった。


さてと……

どうやろうかな。

一か所だけじゃ引き付けられる数が知れているしなー。

なるべく多くのところで騒動を起こさないとなぁ……。


そんなことを考えながら、まず最初に騒動を起こすことにした南西の街角に到着した。

辺りを見回しても、相変わらず女性や子供ばかりだし、男の人も年老いた人ばかり。

しかも生気を失ったような目をした人ばかりだ。

街の人たちにも迷惑をかけすぎることは出来ないので、人気がない路地裏に向かった。


「まずは、ここで煙幕でもあげようかなー」


持っているけむり玉を思いっきり地面に叩きつけて煙を立ち上らせた。

すると、その煙を見た憲兵たちが、多く集まってきた。

まずはここでの作戦は成功かなー。

騒ぎがあるうちに次のところへ行こう。

と煙幕から離れようとしたときに、ガシッと腕を掴まれた。


「誰?」


もしかして憲兵だったらどうしよー。

また捕まっちゃうのかな。

ドキドキが止まらない。


「フォルトナお嬢様、私奴でございます」


聞きなれた声でそう答えてきた。


「カルムさん、いつここに来たの?」


現れたのはカルムさんだった。


「これは何をしているのですか?

 フォルトナお嬢様」


少し厳しめの口調でカルムさんがボクに言った。


「話は移動しながらで」


そう伝えると、次のところへ移動しながら、ことの顛末を話をした。

話に納得したカルムさんは


「フォルトナお嬢様、わかりました。

 ここは分かれて、陽動しましょう。

 他に何人か来ていますので、手伝ってもらいます」


そういうと、ボクの下からさっといなくなった。

そしてそんなに時間も経たずに、街の至る所で爆発音や煙があがっていった。

さすが、カルムさん。

仕事が早いなー。

ボクももう少し頑張らないと。

これだけ騒動起こせれば、鉱山の警備も薄くなるかなー。

あとはアグリたちに任せよう。

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