フォルトナが去ってからしばらくすると、街の中のいたるところから煙が立ち上った。
それと同時に爆発音も響き渡る。
「フォルトナ……
ちょっとやりすぎじゃないのか」
想定よりも多くのところで事が起きているように感じた。
「たぶんじゃが、フォルトナだけではないな」
ゾルダがその様子を見て言った。
「えっ、フォルトナだけじゃない?
どういうこと?」
一人で向かったし、他の協力者なんてこの街にはいないはず。
「だぶん、小娘の配下たちじゃろう。
この手際よさ、速さ、小娘の娘だけではこれほど出来んじゃろ」
そういうことか……
それならなんとなく納得が行く。
でも、いつ来たんだろう。
まぁ、なんとなくフォルトナが心配だから、俺たちの後を数名追いかけていたのだろうけど……
「そんなことより、どんどん鉱山からは憲兵がいなくなってきてますわ」
マリーが指差す方を見ると、街の騒ぎを聞きつけてか、憲兵たちがその対応に出て行っている。
もともとどれくらいいたかがわからないから、何とも言えないが、それなりの数が出て行った。
その後も、あちこちで煙や爆発音がするので、憲兵たちはどんどんと街に向かっていた。
「これなら、だいぶ手薄になったかな」
憲兵たちの出入りが落ち着いたところで、俺たちは鉱山へと入っていった。
だいぶ街中への対応に出て行ったためか、少人数の憲兵はいるものの、中には入りやすくなっていた。
「ここまでは作戦成功ですわね」
マリーが感心したような口ぶりで話しかけてきた。
「そうだね。
ただ、この後は中がわからない以上、出たとこ勝負かな」
そう、中の様子が全く分からない。
どれだけの強敵がいるかもわからないし、まだもしかしたら奥には憲兵が残っているかもしれない。
慎重に行動して、なるべく戦わずにいけるといいんだけど……
「数も少ないし、人ばかりじゃから、おぬしだけでしばらくはなんとかなるかのぅ」
ゾルダは相変わらず余裕な態度で後からついてくる。
いざという時に頼らざるを得ないから、今はあまり力を使わせないようにしないと。
「この調子なら、なんとかなると思うよ。
ゾルダは最悪の事態に備えて」
「真打は最後……じゃからのぅ」
高笑いをするゾルダ。
まぁ、それはそうなんだけど……
ゾルダの出番が少ない方が危ない状況じゃないってところなので、そちらほうが助かる。
「マリーは手伝ってあげても良くってよ」
「ありがとう。
その時は頼むよ」
アルゲオの一件から、マリーは以前ほど当たりがきつくなくなったように思う。
言葉はそう大きく変わったわけではないが、少しは信用してくれたのだろうか。
サポートはしてくれるようになったし、俺にも積極的に関わってくれるようになった。
今回の言葉も、そのままの意味だろう。
しばらく坑道を進んでいったが、やはり街での騒ぎの影響か憲兵たちは少ない。
これぐらいなら俺だけでも十分いけるだろう。
それにマリーも手伝ってくれていたので、どんどん奥へと進むことが出来た。
ただ、坑道は複雑に入り組んでいるため、なかなか多くの男の人が働く場所へは辿りつかなかった。
「あれ?
ここも行き止まりだ」
「またぁ?
もう、あなたはなんでそうなの?」
マリーもイライラしてるようだ。
俺もちょっと焦り始めた。
このまま時間がかかってしまうと、憲兵たちも戻ってきてしまう。
時間がかかりすぎるのも問題だ。
「なぁ、ゾルダ。
気配とか感じる方向教えてくれないか?」
剣の中で眠るゾルダに助けを求めるしかないと思った。
「おぬしに任せたといったじゃろ。
それぐらい自分でやれ」
そっけない返事で断られてしまった。
仕方ないのでマリーに聞いてみた。
「マリーは出来ないの?」
「まだその辺りはうまく出来ないですわ。
封印の影響かなにかかも……
それに人の気配は難しいのですわ」
マリーもうまく出来ないらしい。
まだ出てきたばかりというのもあるのか、感覚が感じにくいらしい。
「魔力が大きい人たちならわかりますわ。
ただ普通の人たちは気にしたことがないほど小さいので、
今までもやったことがないわ」
さらっと、普通の人たちをディスっているな。
まぁ、元四天王だし、そう魔力が小さいものなど相手をしたことがないし、気にしたこともないのだろう。
感度の大きいものだけ感知できるという感じなのかもしれない。
「わかったよ。
出来ないものは仕方ないし、それに頼る訳にもいかない。
時間もないけど、とりあえず手当たり次第に行くしかない。
もっとスピードあげるよ」
効率が悪いのはわかるけど、それしかないし、考える時間もない。
考えるより、行動。
今まで以上に、速度を上げて突き進んでいった。
そしてようやく広い広間のようなところが見えてきた。
灯りも見え、多くの人がいそうな感じがした。
「ここが本道かな。
この先は様子を見ながら行こう」
入口付近まで近づき、中の様子を伺った。
大きく開けた空間の中ほどに多くの人が集められていた。
たぶん、ここで強制労働させられている男の人たちだろう。
そして、その人たちの下には大きな魔方陣のようなものが描かれている。
「あれはいったい……」
何か恐ろしい感じも漂っている。
「あぁ、あれは生贄の儀式ですわ。
魔力が弱いものが、強さを求めてたまにやってますわ。
微弱な人をかき集めないと出来ない、非効率な儀式ですわ」
マリーがまたさらっと重要なことを言った。
えっ、そうなの?
人の魂を取って喰らう感じなのだろうか。
「まぁ、ねえさまやマリーは、こんなことしなくても……
あれは弱いものがやることですわ」
そりゃ、そうだろう。
ゾルダやマリーほどであればやらないことだろう。
「でも、まずいじゃん。
あの儀式止めないと」
魔方陣の周りを見渡すが、魔物らしきものは見当たらない。
指示している奴はいるが、それも人間のようだ。
ふっくらしたお腹に、ひげを蓄えて、どっしりとした風貌。
如何にも悪役の貴族って感じのやつだった。
「あいつが領主かな……
でも人が人を集めて生贄をするのか?」
魔族か魔物かがやるものだと思っていたから、マリーに聞いてみた。
「マリーは知らないですわ。
下等な魔物がやるものとだけは聞いてますが……」
マリーも辺りの様子を伺い不思議に思っているようだった。
すると、剣からゾルダが姿を現した。
「ほぅ……
あれはあの指示をしている奴が生贄の儀式をするようじゃ。
たぶん、人から魔族へなろうとしておるんじゃろう」
人から魔族?
あのおっさんが?
「ゾルダ、それはどういうこと?」
思わず聞き返す。
「生贄の儀式は、小物が魔力を集めるためにやったりもするがのぅ。
まれに人から魔物を生み出すときにもやったりするぞ。
上手くいくかは五分五分ってところじゃ。
上手くいっても、理性を持った魔族になるか、もたない魔物になるかもわからん。
よう、そんな賭けみたいなことをやるのぅ」
ゾルダは知っていることを俺に伝えてくれた。
もし魔物になろうとしているのなら、ますますこの儀式は止めないといけない。
魔物が誕生する前になんとかしないと……