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第54話 鉱山の中へ ~アグリサイド~

フォルトナが去ってからしばらくすると、街の中のいたるところから煙が立ち上った。

それと同時に爆発音も響き渡る。


「フォルトナ……

 ちょっとやりすぎじゃないのか」


想定よりも多くのところで事が起きているように感じた。


「たぶんじゃが、フォルトナだけではないな」


ゾルダがその様子を見て言った。


「えっ、フォルトナだけじゃない?

 どういうこと?」


一人で向かったし、他の協力者なんてこの街にはいないはず。


「だぶん、小娘の配下たちじゃろう。

 この手際よさ、速さ、小娘の娘だけではこれほど出来んじゃろ」


そういうことか……

それならなんとなく納得が行く。

でも、いつ来たんだろう。

まぁ、なんとなくフォルトナが心配だから、俺たちの後を数名追いかけていたのだろうけど……


「そんなことより、どんどん鉱山からは憲兵がいなくなってきてますわ」


マリーが指差す方を見ると、街の騒ぎを聞きつけてか、憲兵たちがその対応に出て行っている。

もともとどれくらいいたかがわからないから、何とも言えないが、それなりの数が出て行った。

その後も、あちこちで煙や爆発音がするので、憲兵たちはどんどんと街に向かっていた。


「これなら、だいぶ手薄になったかな」


憲兵たちの出入りが落ち着いたところで、俺たちは鉱山へと入っていった。

だいぶ街中への対応に出て行ったためか、少人数の憲兵はいるものの、中には入りやすくなっていた。


「ここまでは作戦成功ですわね」


マリーが感心したような口ぶりで話しかけてきた。


「そうだね。

 ただ、この後は中がわからない以上、出たとこ勝負かな」


そう、中の様子が全く分からない。

どれだけの強敵がいるかもわからないし、まだもしかしたら奥には憲兵が残っているかもしれない。

慎重に行動して、なるべく戦わずにいけるといいんだけど……


「数も少ないし、人ばかりじゃから、おぬしだけでしばらくはなんとかなるかのぅ」


ゾルダは相変わらず余裕な態度で後からついてくる。

いざという時に頼らざるを得ないから、今はあまり力を使わせないようにしないと。


「この調子なら、なんとかなると思うよ。

 ゾルダは最悪の事態に備えて」


「真打は最後……じゃからのぅ」


高笑いをするゾルダ。

まぁ、それはそうなんだけど……

ゾルダの出番が少ない方が危ない状況じゃないってところなので、そちらほうが助かる。


「マリーは手伝ってあげても良くってよ」


「ありがとう。

 その時は頼むよ」


アルゲオの一件から、マリーは以前ほど当たりがきつくなくなったように思う。

言葉はそう大きく変わったわけではないが、少しは信用してくれたのだろうか。

サポートはしてくれるようになったし、俺にも積極的に関わってくれるようになった。

今回の言葉も、そのままの意味だろう。


しばらく坑道を進んでいったが、やはり街での騒ぎの影響か憲兵たちは少ない。

これぐらいなら俺だけでも十分いけるだろう。

それにマリーも手伝ってくれていたので、どんどん奥へと進むことが出来た。

ただ、坑道は複雑に入り組んでいるため、なかなか多くの男の人が働く場所へは辿りつかなかった。


「あれ?

 ここも行き止まりだ」


「またぁ?

 もう、あなたはなんでそうなの?」


マリーもイライラしてるようだ。

俺もちょっと焦り始めた。

このまま時間がかかってしまうと、憲兵たちも戻ってきてしまう。

時間がかかりすぎるのも問題だ。


「なぁ、ゾルダ。

 気配とか感じる方向教えてくれないか?」


剣の中で眠るゾルダに助けを求めるしかないと思った。


「おぬしに任せたといったじゃろ。

 それぐらい自分でやれ」


そっけない返事で断られてしまった。

仕方ないのでマリーに聞いてみた。


「マリーは出来ないの?」


「まだその辺りはうまく出来ないですわ。

 封印の影響かなにかかも……

 それに人の気配は難しいのですわ」


マリーもうまく出来ないらしい。

まだ出てきたばかりというのもあるのか、感覚が感じにくいらしい。


「魔力が大きい人たちならわかりますわ。

 ただ普通の人たちは気にしたことがないほど小さいので、

 今までもやったことがないわ」


さらっと、普通の人たちをディスっているな。

まぁ、元四天王だし、そう魔力が小さいものなど相手をしたことがないし、気にしたこともないのだろう。

感度の大きいものだけ感知できるという感じなのかもしれない。


「わかったよ。

 出来ないものは仕方ないし、それに頼る訳にもいかない。

 時間もないけど、とりあえず手当たり次第に行くしかない。

 もっとスピードあげるよ」


効率が悪いのはわかるけど、それしかないし、考える時間もない。

考えるより、行動。

今まで以上に、速度を上げて突き進んでいった。


そしてようやく広い広間のようなところが見えてきた。

灯りも見え、多くの人がいそうな感じがした。


「ここが本道かな。

 この先は様子を見ながら行こう」


入口付近まで近づき、中の様子を伺った。

大きく開けた空間の中ほどに多くの人が集められていた。

たぶん、ここで強制労働させられている男の人たちだろう。

そして、その人たちの下には大きな魔方陣のようなものが描かれている。


「あれはいったい……」


何か恐ろしい感じも漂っている。


「あぁ、あれは生贄の儀式ですわ。

 魔力が弱いものが、強さを求めてたまにやってますわ。

 微弱な人をかき集めないと出来ない、非効率な儀式ですわ」


マリーがまたさらっと重要なことを言った。

えっ、そうなの?

人の魂を取って喰らう感じなのだろうか。


「まぁ、ねえさまやマリーは、こんなことしなくても……

 あれは弱いものがやることですわ」


そりゃ、そうだろう。

ゾルダやマリーほどであればやらないことだろう。


「でも、まずいじゃん。

 あの儀式止めないと」


魔方陣の周りを見渡すが、魔物らしきものは見当たらない。

指示している奴はいるが、それも人間のようだ。

ふっくらしたお腹に、ひげを蓄えて、どっしりとした風貌。

如何にも悪役の貴族って感じのやつだった。


「あいつが領主かな……

 でも人が人を集めて生贄をするのか?」


魔族か魔物かがやるものだと思っていたから、マリーに聞いてみた。


「マリーは知らないですわ。

 下等な魔物がやるものとだけは聞いてますが……」


マリーも辺りの様子を伺い不思議に思っているようだった。

すると、剣からゾルダが姿を現した。


「ほぅ……

 あれはあの指示をしている奴が生贄の儀式をするようじゃ。

 たぶん、人から魔族へなろうとしておるんじゃろう」


人から魔族?

あのおっさんが?


「ゾルダ、それはどういうこと?」


思わず聞き返す。


「生贄の儀式は、小物が魔力を集めるためにやったりもするがのぅ。

 まれに人から魔物を生み出すときにもやったりするぞ。

 上手くいくかは五分五分ってところじゃ。

 上手くいっても、理性を持った魔族になるか、もたない魔物になるかもわからん。

 よう、そんな賭けみたいなことをやるのぅ」


ゾルダは知っていることを俺に伝えてくれた。

もし魔物になろうとしているのなら、ますますこの儀式は止めないといけない。

魔物が誕生する前になんとかしないと……

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