「儂は魔族になったぞ。
この湧き出る力……
儂の力に皆ひれ伏すがいい」
あのデブ……もといふくよかな魔族になった男は大声でそう言い放っていますわ。
あれぐらいの力でよくもあそこまで大きな態度になりますわね。
ねえさまの相手ではないんだから。
魔族になった男を追ってねえさまと私とあいつと共に鉱山の外へ出てきましたわ。
ねえさまはやる気がみなぎっていますわ。
これからどのようにあのデブ……もといふくよかな魔族を倒すのかしら。
「おい、デブ!
待て、止まるのじゃ。
ワシを無視するな」
ねえさまは浮遊しながらもといふくよかな魔族を追いかけていきます。
そのためか、あいつやマリーとの距離が離れてしまいます。
その距離があるところまで達すると、フッとねえさまが消えてしまいました。
「あれ? ねえさまは……」
飛んでいた辺りを見回しますが、ねえさまは見当たりません。
「ワシはここじゃ、ここ」
なんとあいつの近くに立っているではないですか。
「ねえさま、どうしたのですか」
「封印の影響じゃ。
あやつと遠くなると、近くに戻ってしまうのじゃ。
これじゃ、追いかけられんのぅ」
ねえさまは頭を抱えています。
「それに、こやつときたら浮遊魔法が使えんときた。
飛ぶやつを追いかけるのは至難の業じゃ」
ねえさまはあいつの顔を見ると、ふぅーっとため息をつかれました。
「仕方ないじゃん。
なかなか覚えないんだから」
あいつもちょっと不貞腐れています。
「じゃあ、マリーがこいつを持って、ねえさまの後ろをついて行きますわ」
近くにいればいいのであれば、マリーが持っていけばいいだけのことですわ。
「マリー、さすがじゃのぅ」
ねえさまはマリーの頭を撫でてよしよししてくれましたわ。
ねえさまに喜んでもらえて嬉しいわ。
「改めて、あのデブを追うぞ」
ねえさまはそう言うと、また飛び立ちました。
マリーもあいつを捕まえて、ねえさまの後を追います。
「ねぇ、マリー。
俺の扱い、雑じゃない?」
あいつは首元の服を持ってぶら下げて飛んでいるせいか、揺れが激しく気持ち悪いらしいですわ。
そんなことは関係ないので、無視してさっさとねえさまを追います。
そしてようやくふくよかな魔族の近くまで追いつきました。
「おい、デブ!
お前じゃ、お前。
さっさと止まれと言っておろう」
ねえさまは前に立ちふさがりふくよかな魔族を遮ります。
「もしかして、儂のことか?
誰だ、お前。
儂をランボと知ってのことか?」
へぇー。
あのデブはランボというのですね。
「この国の王になるものだぞ。
何を軽々しく声をかけておるのだ」
魔族になったからなのか、元からなのかわかりませんが、随分と態度がデカいこと。
「そちらこそ、ねえさまのことを知っておいでで?
知らずに無視なさっているのですか?」
その横柄な態度にカチンと来てしまい、ランボに突っかかってしまいましたわ。
「そんなこと知るか。
この世に儂より強くて偉い奴はいないからな。
いちいち気にしてられるか」
さらに大きな態度でマリーたちに上からの目線で話しかけてきましたわ。
「ほぅ、そんなに強いのか。
なら、ワシにその強さを見せてくれんかのぅ」
ねえさまは冷静に話しているようですが、たぶん心の中ではキレていますね。
言葉の節々に入る力がいつもと違いますわ。
「よかろう。
普段であれば聞かぬが、儂は今は気分がいい。
このみなぎる力、お前に使ってあげよう」
ますます増長しているランボ。
あーあ、最後どうなっても知らないですわ。
ランボは体全体に力を貯めこむと、黒いオーラに包まれ始めました。
そして、ねえさまに向かって渾身の力を使い拳を突き出してきましたわ。
「おりゃー」
その拳を手で受けるねえさま。
「なかなかといいものを持っておるなー」
あれ? ねえさまが相手を認めている?
……いや、違いますわ。
あのセリフっぽい言い回し、それに棒読み。
ランボの力を測っているだけですわね。
「わー、なんとか受け止められたのじゃ―
運が良かったのじゃー
次は止められないかもしれないのぅー」
ねえさま……
それはちょっと演技がまるわかりですわ……
「そうだろう、そうだろう。
儂の力は偉大だろう」
ってランボってやつは全然気づいていないですわ。
「どうだ、もっと喰らうがいい」
ランボはそう言うとねえさまに拳を力任せに連打してきました。
ねえさまはというと、寸前でよろめきながら躱したり、わざと当たってふらついたりしていますわ。
完全に遊んでいますわね。
それなのに、どんどんと自信を持った顔で攻撃をしてくるランボってやつ。
これだけ差があるのにわからないのかしら。
「なぁ、マリー。
ゾルダ、苦戦しているようだけど、大丈夫か?
そんなにあいつは強いのか?」
ここにもわかっていない人がいましたわ。
はぁ……
「お前にはねえさまが苦戦しているように見えるのですか?」
あいつに聞き返します。
「全然反撃はしないなとは思うけど、出来ないのかなとも思うし」
ホント、わかってないですわね。
ねえさまがあれぐらいで苦戦などするはずないですわ。
「はぁ、はぁ、はぁ……
儂の力……思い知ったか……」
ランボは息を切らしながら、自信満々な顔をしています。
やっぱり鍛錬不足ね。
「あぁ、凄いのぅ、お前はー。
ワシに反撃もさせないほどとはのぅ」
ねえさまはニヤリとしていますわ。
さぁ、ここから反撃ですわね。
「お前の強さはわかったのじゃ。
ここからは、ワシの番じゃ」
手のひらに魔力を集めて、闇の炎を撃とうしているようでわ。
「闇のほ……」
ねえさまが呪文を唱えようとした時に、背後から光が接近してきましたわ。
「ねえさま、危ない!」
大声でねえさまへお伝えすると、気づいてくれました。
直撃は避けられましたが、気づくのが遅かったのもあって、少しはダメージを受けたようです。
マリーが気づくのが遅れたからですわ……
「ちぃっ……」
ねえさまは苦悶の表情を浮かべています。
「大丈夫ですか? ねえさま」
マリーは慌ててねえさまのところへ駆け寄りましたわ。
「かすり傷程度じゃ」
思ったほどダメージは受けていないようでしたので、ホッとしましたわ。
そして光が放たれた先から、一つの黒い影が近づいてきました。
「おい、ランボ!
何勝手なマネをしているんだ」
黒い影が近づくと、そこにはどこかで見覚えがある魔族の一人が姿を現しました。
その姿を見て思わずマリーは声が出てしまいました。
「あなたは……」