俺は今、空を飛んでいる。
といっても浮遊魔法が使えるようになった訳ではない。
マリーに吊り下げられて飛んでいる。
ゾルダがランボを追うために一緒に連れてこられている。
マリーはぶつぶつ文句を言っている。
「なんで浮遊魔法ぐらい使えないの。
マリーがなんでこんなことしないといけないの。
これじゃ、ねえさまのサポート出来ないじゃないの」
ごもっともです。
それはそれで申し訳ないとは思うが……
封印の所為である一定の距離から離れられないんだから仕方ないじゃん。
でもさ、こう汚いものを持ち上げる見たなように持たなくてもいいじゃん。
もっとしっかり持ってほしいんだけどな……
俺、高いところ苦手なんだよね……
そういう話はおいて、ランボを追いかけてきたけど、アスビモが登場。
どうやらゼドに封印を嗾けたのはこのアスビモらしい。
「おい、アスビモとやら!
逃げるでないぞ」
ゾルダの怒りは相当なようで、誰の目から見てもその怒りがわかるくらいだ。
アスビモが行く方へ先回りをして、足止めをしていた。
「私は逃げていませんよ。
もとより戦うつもりもございませんので。
あなたが勝手に戦おうとしているだけではありませんか?」
こうなんかいちいち癇に障る話し方をするな。このアスビモって奴は。
さらにゾルダの怒りが増している気がする。
「お前の意思など知らん。
ワシがお前を倒さねば気持ちが収まらんのじゃ」
アスビモは首を振りながら呆れた顔をしている。
「ふぅ……仕方ありませんね。
ランボ様は私の大切な商売相手でございます。
私とランボ様はこの場から去らせていただきますが、別のお相手を用意させていただきます」
「別の相手なぞいらん。
お前とランボとやらが相手せい」
ますます会話が成り立っていないというかなんというか。
ゾルダは聞く耳を持っていない。
「あの……儂は……
あと、儂のこと『商品』って言ってなかったか……」
状況にランボが戸惑っているようだ。
ゾルダを相手にしているのを止められていたので、どうしたらいいかわかっていないようだ。
「ランボ様、あなた様な方が相手するような方々ではございません。
ここは私の配下にお任せください。
あとランボ様のことは『商品』と言ったのではなく『商売相手』と言っています」
アスビモはランボをフォローすると、配下を召喚し始めた。
召喚の魔方陣が浮かび上がり、そこからアルゲオが2体、姿を現した。
「やっぱり、お前か。
あのアルゲオをあそこに呼び出したのは……」
思わず声が出てしまった。
アスビモは俺の方を向くと、
「これはこれは勇者様ではないですか。
この方々とご一緒とは……
なるほど。
だからお二人の姿がここにいるんですね。
納得です」
なんだか自分でいろいろと思いながら、うなずいている。
「ワシを無視するなー」
ゾルダの怒りもますます膨れ上がっている。
もうそろそろ抑えられなく感じがする。
「私なんて、今はゾルダ様の足元にも及びませんから……
この場から去らせていただきます。
またどこかでお会いするかもしれませんが、その時は良しなに。
さぁ、行け、アルゲオ」
アスビモはそう言い残すと、ランボを連れてすっと消えていなくなった。
「逃げましたわね、アスビモ。
前から食えない人だとは思っていましたが、あざといというか卑怯というかなんとか……」
マリーは半ば呆れた顔でぼそっと言った。
「おのれ、アスビモめ……
次に会った時は容赦しないぞ」
怒りに震えているゾルダ。
そこにアルゲオ2体が襲い掛かってくる。
「ゾルダ、周りを見ろよ。
アルゲオが……」
この間やっと倒したアルゲオが2体もいる。
ゾルダでも厳しいんじゃないか。
「ふん、何がアルゲオじゃ。
今はそれどころではないのじゃ」
ゾルダはアルゲオのことを気にせず怒り狂っている。
「グォーーーーーー」
アルゲオはお構いなしに翼を振って攻撃をする。
その振った翼からは大量の霧氷が発生し、辺りがガスに包まれる。
「ガッシーーーン」
ゾルダに直撃したような音が聞こえてくる。
「ゾルダーー」
大きな声で叫んでしまう。
あれだけ大きな音がしたので、かなりダメージを追っているのではないか。
「マリー、ゾルダの下へ急ごう」
物凄い音にあっけにとられていたマリーも気を取り直して、ゾルダの近くへ向かう。
ただ音がすごかったが、ゾルダが飛ばされたりはしていないようだった。
少したつと覆われていた霧氷が晴れてきた。
そこに見えたのは、アルゲオの翼を受け止めていたゾルダの姿だった。
「ワシの怒りが収まっていないところで、攻撃を仕掛けてくるとはのぅ。
相変わらず魔物は頭が足りなくて困る。
さらにワシを怒らせたいのかのぅ」
ゾルダは今までにたまった怒りを全身から解き放つ。
その威圧感にアルゲオたちは怯んでいるように見えた。
「極大にしてぶつけてやろう。
闇の炎(ブラックフレイム)」
そう呪文を唱えると、広げた両手のそれぞれの先に、今まで見たことが無いような黒い炎が立ち込める。
そして、その炎が、アルゲオたちに向かい放たれる。
「グギャーーーー」
「グシャーーーー」
2体のアルゲオが黒い炎に包まれていく。
その炎を振り払おうと暴れまわるが、暴れれば暴れるほどその炎の勢いが増す。
そして、すべてを燃やし尽くしてしまった。
その様子を呆気にとられて見ていた。
俺があれだけ苦戦して、目覚めた訳の分からない力でようやく倒したアルゲオを……
一発で、しかも同時に2体相手して……
ゾルダはあまり怒らせない方がいいようだ。
怒り狂って暴れたら街の一つや二つ簡単に消し飛ぶ。
まぁ、今回の怒りのもとはアスビモなので……
アルゲオには同情する。
マリーは満面の笑み。
「さすが、ねえさま。
お見事ですわ」
どうゾルダの事が見えているのか、一度頭の中を見てみたい。
思いっきりフィルターがかかって見えているだろう。
そしてゾルダの方は……
アルゲオに怒りを向けたこともあり、若干落ち着いたような気もする。
ただ、まだブチブチと言っている。
「アスビモのやつめ……」
ゾルダが相手の名前をしっかりと呼んでいるのは珍しい。
やっぱりそれだけの怒りを買ったのだろう。
次にアスビモに会った時のゾルダがどうなるか……
今から考えただけでも、ちょっとブルっと震えてしまう。
会わない方がいいんだけど、なんか何度も会いそうな予感がするんだよな……